日本での猫エイズウィルス、猫白血病ウィルスの感染率はそれぞれ10%前後です。猫エイズウィルスは進行すると免疫不全状態になってしまいますが、発症していなければ寿命を全うするぐらい長生きすることができます。愛猫がこれらのウィルスのキャリアーであるという方も少なくないでしょう。

免疫力に影響するウィルスに感染している猫にワクチンを打ってワクチンの効果が得られるのでしょうか。今回の研究は猫エイズ/猫白血病ウィルスに感染しているものの症状がない猫に、ワクチンを打つことで正常に抗体が作られるのかを調べる研究です。

 

題:無症状なレトロウィルス※に感染した猫における猫パルボウィルス(FPV)※ワクチンに対する抗体応答

目的:現在、猫白血病ウィルス(FeLV)や猫エイズウィルス(FIV)感染猫のような、免疫力が低下している猫に対して、ワクチンを摂取した研究はわずかしかありません。この研究ではレトロウィルスに感染しているものの症状がないない猫と、健常猫にFPVワクチンを摂取し、28日間モニターし抗体値を比較した。

方法:8匹のレトロウィルスに感染した猫(FeLV4匹、FIV4匹)と年齢が同じぐらいの感染していない猫67匹に市販されているFPVワクチン(生ワクチン)を摂取した。摂取前後の0日、7日、28日に赤血球凝集反応(HI)を用いて抗体価を測定した。抗体値40以上を防御効果ありとした。ワクチンに対する適切な免疫応答を抗体価4倍以上と定義した。レトロウィルス感染猫と健常猫の免疫応答を比較した。

結果:レトロウィルス感染猫の100%(8/8:信頼区画62.8-100)、健常猫の77.6%(52/67:信頼区画66.2-86.0)がワクチン摂取前にFPV抗体が40以上であった。抗体値が4倍以上になったのはレトロウィルス感染猫で12.5%(1/8:95%信頼区画0.1-49.2)、健常猫で32.8%(22/67:95%信頼区画 22.8~44.8)であった。ワクチン摂取前に抗体値が160以上であった猫のうち抗体価が4倍上になったのは、レトロウィルス感染猫で12.5%(1/8:95%信頼区画0.1-49.2)、健常猫で9.5%(4/42:信頼区画 3.2~22.6)であった。摂取後28日間の間にレトロウィルス感染猫で病気が発症したり、副作用がでた猫はいなかった。ワクチン摂取前の抗体価、4倍以上抗体値が上昇した割合、副作用について両グループの間で有意な差を認めなかった。

結論:全ての無症状なレトロウィルス感染猫はワクチン摂取前に防御効果があるとされる抗体値を持っていた。レトロウィルスに感染している猫は健常猫と同じような免疫応答を示した。

 

補足

・レトロウィルス:猫エイズ、猫白血病が属するウィルスのグループです。ウィルスが増殖する時に逆転写酵素を使うのが特徴です。人のエイズウィルスもここに入ります。感染しても全ての猫が症状を発症するわけではなく、無症状な状態が続くこともあります。

・猫パルボウィルス:重篤な下痢や嘔吐を起こす猫の感染症です。感染力が強く、亡くなる可能性もある危険なウィルスです。子猫では特に注意です。いわゆる猫3種ワクチンの中の1つに入っています。猫汎白血球減少症ウィルスとも呼びます。

・抗体価が4倍以上になった猫が少ないのは、最初の時点で抗体価が高い猫が多かったためと考察されています。

 

コメント

この論文から分かることは「無症状のレトロウィルス感染猫でも猫パルボウィルスワクチンに対する反応は、健常猫と同じぐらいありそう」「レトロウィルス感染猫に生ワクチンを打っても猫パルボウィルスを発症することはなかった」「ワクチンを打つことによって猫エイズ/猫白血病が悪化することはなかった」の3つです。ただしモニター期間が短い、猫の頭数が少ない、また最初から猫パルボウィルスに対して抗体を持っていた猫が多かった、などの理由によりさらなる研究が必要である、と締めくくられています。

無症状の猫エイズ、猫白血病ウィルス感染猫に対してワクチンを打つか否かは長年議論されています。WSAVA(世界小動物獣医師会)のワクチンガイドラインにおいても「まずは感染症への接触を最小限に抑えるために室内飼育をし、他の猫から隔離する」そして「摂取する必要がある環境の場合は不活化ワクチンの摂取を推奨する」と回答されています。

不活化ワクチンとはウィルスの病原性を完全になくしたワクチンです。これはワクチンを打つことでそのワクチンに入っている感染症自体に罹ることを危惧していると考えられます。今回の論文では生ワクチンでしたが、モニターした範囲ではそのようなことはありませんでした。

最終的にワクチンを打つか否かは、症状の有無、飼育環境、猫の年齢などから総合的に考えなくてはいけません。また打つ場合はどんなタイプのワクチンを使うのかという選択もあります。

これは個々の猫によって異なるので一概にはいえません。当院でも飼育環境や飼っている頭数から感染リスクが高いか否か、猫の元気がどれくらいあるかによって打つか決めており、打つ場合は不活化ワクチンを推奨しています。かかりつけの獣医師と相談して納得をした上で摂取するか否か判断してください。

 

参考資料

相馬武久, 安川明男, and 甲斐一成. “家庭猫における猫免疫不全ウイルス抗体, 猫白血病ウイルス抗原および猫コロナウイルス抗体の陽性率.” 日本獣医師会雑誌 55.2 (2002): 89-93.

Bergmann, Michèle, et al. “Antibody response to feline panleukopenia virus vaccination in cats with asymptomatic retrovirus infections: a pilot study.” Journal of feline medicine and surgery 21.12 (2019): 1094-1101

Day, M. J., et al. “Guidelines for the vaccination of dogs and cats compiled by the Vaccination Guidelines Group (VGG) of the World Small Animal Veterinary Association (WSAVA).” Journal of Small Animal Practice 57 (2016): E1-E45.

 

 

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