愛猫が下痢をして動物病院に連れていっても「〜〜かもしれないですね」とか「ひとまず様子を見ましょう」などと言われたことはないでしょうか。ビシッと診断して欲しいなと思われるかもしれませんが、実はこれ、ある程度仕方がないことでもあります。なぜ下痢の診断はなかなかつかないのか、最近猫の下痢についてあらためて調べる機会がありましたので、その理由を解説していこうと思います。

下痢の猫が来た!ときのフローチャート

 

私たち獣医師にもマニュアルというか、下痢の猫がきた時のフローチャートのようなものがあります。基本的にはこのようなフローチャートに沿って診断を進めていきます。まず下痢の猫がきたときは、最初に問診と身体検査から下痢が慢性か急性か、重度か軽度かを判断して、左の黄色「急性・軽度」に進むか、右の赤色「急性かつ重度or慢性」の2つに振り分けます。

※このチャートは私が使っているものなので、個々の獣医師によって異なります

 

 

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慢性と急性の違いは上記の通り、簡単ですね。一方で重度か軽度かは単純に便の柔らかさ、頻度だけでなく、体重が落ちていないか、食欲低下や嘔吐を併発していないかなど全身状態も含めて総合的に判断しています。

 

・診断がなかかなつかない理由その1

では今回のテーマに戻りましょう、理由その1は「軽度の下痢は自然に良くなる」からです。上のフローチャートの黄色の四角に入る下痢です。これは食事の食べ過ぎや、盗み食い、ストレスなどで一時的に下痢をしている状態です。特に若い年代の下痢は感染症以外ではこのパターンが多いです。

これらは自然によくなっていくため、そこまで検査をする必要はありません。整腸剤やストレス要因を解消させることで改善するため、明確な診断がつかずに治っていきます。

・診断がなかなかつかない理由その2

ではフローチャートの赤色の四角に分類された「急性かつ重度or慢性」」の場合は検査をすればすぐに診断がつくのでしょうか。残念ながらスクリーニング検査で診断がつくことは多くありません。これが理由その2「血液検査や超音波検査では診断まで至らない」です。

赤色に入るとスクリーニング検査(血液検査や超音波検査など赤四角に入ってる検査)といって下痢の原因を絞り込んでいきます。しかしスクリーニング検査は病気の原因がどこにありそうか、までしかわかりません。

例えば、最初は黄色にカテゴリライズされていたけれど、なかなか治らず慢性化(赤色)したとします。超音波検査をして腸が腫れていることがわかりました。しかし腸が腫れる病気はいくつかあり、そこからさらに診断を進めるには内視鏡検査が必要だったりします。

 

・逆にすぐに診断がつく下痢の原因は?

中には原因がすぐわかることもあり、その代表が寄生虫感染です。寄生虫は便検査の顕微鏡で発見されればそれで診断がつきます。猫で多い寄生虫はコクシジウム、回虫、ジアルジア、トリコモナスなどがあげられます。同じ微生物の細菌やウィルスは小さすぎて顕微鏡ではわかりません。PCR検査で特定できますが、結果が出るまでに数日かかります。

また甲状腺機能亢進症の場合は血液検査で即日結果が出ることもあります。そして明らかに大きな腫瘍は触診や超音波検査でわかります(腫瘍の種類を調べるには病理検査が必要ですが)。

 

・猫の慢性下痢の原因で多い慢性腸症が一番時間がかかる

今回は猫の話なので、犬にしかない病気は薄文字にしました

 

ここで猫の下痢の原因の一覧をのせておきます。この中から検査をして可能性を絞っていきます。感染症は便検査やPCRで除外していき、腎疾患などは血液検査で除外していきます。この中で最後に残ることが多いのが紫色の四角で囲まれた慢性腸症です。

慢性腸症は「食事反応性腸症」「抗菌薬反応性腸症」「ステロイド剤反応性腸症」の総称です。その特徴は「〜〜反応性」とある通り、治療に対する反応を根拠として診断名がつくことです。

例えば、食事反応性腸症の場合は、下痢用のフードを4〜6週間試して反応をみる必要があります。またフードの種類もアレルギー除去食、高消化性食、腸内細菌を整えるもの、など色々なタイプがあるため、1つずつ試していると3×6週間で4ヶ月以上かかります。

さらに食事によって改善した場合、また前の食事に戻して下痢が再発するかまで確認します。これは負荷試験といって、たまたま食事を変えたタイミングで下痢がよくなったのではない、ということを証明します。最後にまた良くなった食事に戻して症状が改善するかを確認して診断になります。すごく時間がかかりますね。

・さいごに

このように下痢の診断をつけるまでにステップがたくさんあります。ちょっと獣医側の言い訳みたいな回になってしまいましたが「下痢の診断は時間がかかることが多いので、すぐに診断がつかなくてもおかしくはないですよ」ということが伝われば幸いです。状態が悪い場合は早く検査をしなくてはいけませんが「下痢だけど元気食欲があり、まるまる太ってる猫」のようなタイプは焦らずじっくりと診断を進めていきましょう。

参考資料

・SA Medicine 112, Vol.9 No.6 2017 interzoo

・Blackwell’s Five-minute Veterinary Consult Canine and feline Sixth Edition

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