今回は以前このサイトでもご紹介した多頭飼育の猫トイレに関する研究〜あいつのトイレは嫌か〜を発表していたネスレピュリナ の研究グループの他の報告を紹介致します。

今回の研究は猫の理想的なトイレ環境と、好ましくないトイレ環境(本文では病院風:Clinic likeと表現しています)を用意し、猫の行動の変化を記録しました。これらはトイレに入ってから実際に用を足すまでの時間、トイレ中の姿勢、トイレ内でどの範囲に排泄するか、など39項目に及びます。このようなデータを動物行動学の専門用語で、エソグラム といいます。

 
参考:SAPPORO AI LAB

 

・実験環境

理想的な環境のトイレは部屋の中心部に89cm四方の猫トイレに十分な砂を入れたもので、周囲環境も猫がリラックスできるよう広々としています。そうでない環境はいわゆるケージ暮らしで43cm×30cmの小型市販トイレにビーズが少量敷かれてるだけです。

出典

・結果

1.環境が悪いとトイレ後の時間が長い

トイレに入ってから、実際に用を足すまでをトイレ前、実際にしている時間をトイレ中、終わった後にトイレから出るまでをトイレ後としています。悪いトイレでいずれの項目も延長していますが、最も大きな違いはトイレ後の時間です。実に4倍近く延長していることが分かります。これは排泄物をうまく隠すことができず、砂をかいている時間が長いからだと考えられます。

またトイレ中の時間は良いトイレで約20秒、悪いトイレで50秒と長くなっていました。これはトイレの回数自体が悪いトイレでは少なく、尿を溜め込んでいるからだと考察されています。ちなみに哺乳類の排尿の時間は動物のサイズに関わらず、20秒前後であると、参考文献の中に記述がありました。

2.端で用を足すことが多い

良いトイレを9分割、悪いトイレを4分割し、尿をした場所を記録

良いトイレ環境で尿をした場所を記録すると意外にも中心地ではやらないことが分かりました。また猫によって好みがあるようです。悪いトイレは小さいので4分割しかできず、全てが角になるため、使う場所に差はありませんでした。

3.朝方にトイレにいく

トイレに行く時間帯ですが、これはトイレの環境にはあまり関係なく7時前後に多いことが分かりました。またトイレの回数自体はやはり良いトイレの方が頻度が高く、こまめに行っていることが分かります。

 

・考察

これまでのトイレの時間に関する研究では、悪いトイレ環境で猫は排泄後すぐ出ようとするという意見もあり、今回の結果と矛盾します。私も良いトイレ環境の方が猫が思いっきりザクザクと砂をかけるので、トイレ後にのんびり過ごすと認識していました。

今回の考察では悪いトイレ後の時間の延長は、砂が少ないのでトイレ本体をカチャカチャと引っ掻く時間が長い、また隠すまでに時間がかかったと考察されています。

トイレ後の時間の長さはポジティブとネガティブ、両方の解釈ができるので、その時間に猫がどんな様子で過ごしているかを観察する必要があるでしょう。

またトイレ中の姿勢についても、悪いトイレでは尻尾をUの字に曲げる時間が長いことが分かりました。通常は尻尾は真っ直ぐ伸びますので、これは狭いために仕方なくやっていると思われます。

トイレの時間に関しては以前の研究では16時〜18時、20〜22時の二回のピークがあると報告されており、今回の研究と相反する結果となっています。これは生活サイクルの違いによると考えられます。今回は朝のトイレ掃除の時間が8時〜9時なので、その準備をしている音に反応して猫が活動し始めるためではないかと考察されています。

また経験的にトイレ掃除をした直後に用を足す猫も多く感じます。これは当然綺麗な環境でトイレをしたいという猫の意図が感じられます。

またトイレの外での排泄の回数は、良いトイレと悪いトイレで違いはありませんでした。これも教科書的には、トイレ外の排泄はトイレに対する不満があるという考え方と反する結果でした。

・まとめ

今回は極端に良いトイレと極端に悪いトイレを用意したので、排泄回数やトイレの時間に大きな差が出ました。自宅で今回の良いトイレ(89cm四方、自然に近い砂)を用意するのは現実的でありませんが、砂を多めにしたり個数でカバーすることでより快適な猫トイレ環境を作れると思います。

今回はネスレピュリナ が研究しているので、どの項目(トイレ時間、トイレの姿勢など)に注目すれば猫のトイレ砂開発に有用かを調べているような意図を感じます。やはり猫は自分のトイレ後の匂いをうまく隠せるかが大切なように感じます。

また猫を含めた哺乳類の正常な排尿時間が20秒前後というのは勉強になりました。それ以上尿に時間がかかっている場合は多尿もしくはトイレを我慢している可能性があるでしょう。トイレを我慢すると人間同様、膀胱炎になりやすいと考えられます。

最後に快適なトイレはスッと出ること、またトイレ外での排泄の回数はトイレ環境によって差がないことは、個人的な予想と反対の結果となりました。限定的な条件での結果ですので、解釈には注意が必要ですが、やはり猫のトイレというのは奥が深いなと感じました。

 

参考資料

McGowan, Ragen TS, et al. “The ins and outs of the litter box: A detailed ethogram of cat elimination behavior in two contrasting environments.” Applied animal behaviour science 194 (2017): 67-78.ep,2017

 

 

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