猫どのような感情を持っているかというのは研究者の間で長年の研究の対象になっています。以前は複雑な言葉を使わない動物は「ヒトほど豊かな感情を持ち合わせていない」とみなす傾向にありました。ですが、最近では感情の種類が違うのではないか、という考え方が定着しつつあります。

例えば、猫が犬に対して毛を逆だていたらそれは「犬が怖い」と解釈するでしょう。しかし「怖い」というヒトの感情では猫の行動を説明するには不十分であることがわかってきました。それを説明するのが猫の感情を支える8つのシステムです。このシステムは猫の行動学や問題行動の治療というアプローチから出てきた言葉なので、少しとっつきにくかもしれません。1個づつ説明していきます。

毛を逆立てる猫

・欲求系 The Desire System

このシステムが喚起されると、猫は生存のために必要な行動に駆り立てられます。それは食事/水分の確保、寒い地域であれば暖か場所を探す、暑い地域では涼しい場所を探すなどの行動として現れます。その際たるものが捕食です。狩りをする行動の時に目の色が変わるのはこのシステムのスイッチが入っているからです。

欲望系は「報酬」や「快楽」として誤って認識されることがありますが、実際には「生存を最優先させる」という表現に近いです。そのため脳の欲望系がダメージを受けると、すべてのやる気を失います。やる気を失ってもペットとしては生きていけますが、これを「豊かさの中での死」と表現されます。

・フラストレーション系 The Frustration System

このシステムは自由を抑制された時に喚起されます。獲物を捕まえられなかった、外に出られない、体を抑えられたなどです。その結果、シャー(Hissing)だったり、噛み付くという攻撃的な行動として現れることがあります。

これは庭で他の猫を見た時に「外に出たい!」という要求が満たされなくて発現することもあります。直接的に解決できない場合に、原因以外のもに向けて行動して解決しようとします。例えば窓の外の景色に対して起こしたフラストレーションで、室内にいる他の猫を攻撃するのは、その典型的な例です。

・恐怖-不安系 The Fear – Anxiety System

このシステムは、動物が危険を回避するために本質的にに備わっています。実際に痛みのある事象よりも、それが予期した時にこのシステムは作動されます。代表的なのは、病院に行くキャリーに入るのを拒む行動でしょう。

1つ上のフラストレーションとの違いは耳の向きで区別したという報告があります。フラストレーションは耳を反転させてイラつきを表すのに対して、恐怖-不安系の場合は耳を伏せた状態になるのが特徴です。

・痛み系 The Pain System

痛みシステムは、明確な感覚であると同時に行動の動機になります。上の恐怖-不安系と混同しやすいですが、恐怖-不安系は痛みを予期した時に発生します。例えば、動物病院でワクチンを打たれた時の反応(唸るなど)はこの痛み系から、ワクチンを打たれる前にケージから出てこない行動は恐怖-不安系から喚起されています。

・パニック-グリーフ系 The Panic-Grief System

このシステムは主に仔猫の生存に関与しています。恐怖-不安系や痛み系が個々を守るためのものであるのに対して、パニック-グリーフ系は種の保存のためにあるということもできます。

仔猫は自分を守ることができませんので、迷子になったり親猫と離れた時に大きな声で鳴く、という行動がこのシステムの典型的な例です。成猫でも社会的に孤立したり、愛着のある飼い主から離れたときに活性化されることがあります。愛着者との分離による不安による問題行動(トイレ外での排泄など)はこのシステムと関係しています。

・ケア系 The Care System

このシステムは母猫と仔猫の間の絆を深めるものです。ケア系は子供が生まれる少し前にホルモンの変化(エストロゲン、プロラクチン、オキシトシンの増加。プロゲステロンの減少)によって引き起こされます。

母猫だけでなく、家の中で他の猫と、もしくは犬などの他の動物と一緒に過ごすと、お互いに舐めてあげる(グルーミング)などの、ケアをする行動がみられることがある。一般的に母性行動と呼ばれるものはこのケアシステムから来ていると考えられています。

・欲情系 The Lust System

このシステムは求愛を通じた相手の選別から、パートナーとの交尾に至るまでの欲求をコントロールします。通常、避妊去勢をした猫では最小限に抑えられています。

・社会的遊び系 The Social Play System

仔猫が取っ組み合いで遊ぶ行動が、このシステムの典型的な行動です。猫は単独生活を営む動物だと思われていますが、ペットとして暮らすイエネコは社会的な動物です。安全な遊び(取っ組み合い)を通じて社会的なスキルを身につけます。

社会的な遊びと、おもちゃを追っかけるような遊ぶは区別されます。取っ組み合いの遊びはこの社会的遊び系によって活性化され、おもちゃ遊びは上の欲求系に関係しています。両方とも満たしてあげることが大切です。

・まとめ

獣医師が猫の行問題行動を解決する時に「擬人化していけない」といわれます。これは人の感情を表す言葉では猫の行動を正しく理解できないからです。この8つのシステムは問題行動を解決するための区分です。

より馴染みやすい言葉で「仔猫モード」、「野生モード」、「親猫モード」などと表現されている記事や動画を見かけます。仔猫モード=パニック-グリーフ系 and 社会的遊び系、野生モード=欲求系、親猫モード=ケア系というように置き換えるとわかりやすいかもしれません。

これらのシステムが組み合わさって猫が行動をしていると思うと面白いですね。8システムをみて改めて愛猫を観察してみてください。新しい発見があるかもしれません。

 

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