ISVPS Feline Practice シリーズは一緒にプログラムを受講している獣医師 多賀に執筆してもらっています。

ISVPSというのは獣医師向けの卒業後教育を行なっている国際的な団体です。第二回の学習テーマは「猫の行動学」についてです。GPCertは国際的な修士課程に相当する資格で、オンラインで働きながら学習できるのが最大のメリットです。今回のモジュールは”猫の行動学”です。

このモジュールでは、猫の問題行動にアプローチするための基本的な考え方や、とくに問題となりやすい「攻撃行動」と「粗相」について、分析の仕方や行動改善の方法を学びました。

「普段となにも変わらないのに突然行動が変わってしまった」という場合、まずは病気を疑い血液検査や画像検査などを通して猫さんに身体的な異常がないかを見ていきます。

それでも原因が見当たらず、対症療法にも反応しない場合には「行動学的アプローチ」で原因を探っていきます。

<ストレスと異常行動>

ある日突然噛み付くようになったり、トイレの外で用を足すようになったりするような問題行動は、一つの刺激が原因となることは稀で、様々な要因が重なった結果起こります。そのため、改善方法を見出すには問題行動の引き金となっていそうな刺激(チャイムの音、子供の声など)だけでなく、その刺激に過敏になる原因がないかを見ていく必要があります。

人と同じで、猫も自分で対処できるストレスの範囲というのはある程度決まっています。その中で、普段から感じているストレスを対処しています。普段から感じるストレス(これをバックグラウンドストレスといいます)が少ない場合には、ある刺激(ストレッサー)に対しても特に反応することはありません。少し大きめのストレスを感じていても自分で対処できます。

しかし、「なかなか遊んでもらえない」「自分の好きな寝床の周りがうるさい」「トイレが匂う」など、ストレスが解消されない状態が続くと、バックグラウンドストレスが大きくなっていきます。そこへストレッサーがやってくると、猫さんが対処できるストレスの範囲を超えてしまい、問題行動を起こすようになってしまいます。

この「バックグラウンドストレス」と「特定のストレッサー」を知るため、今回のモジュールでは「家族と猫の関係性」「ストレッサーとなりうる因子は何か」「それは猫が予測可能なストレスか」「猫がストレスに対処する方法を持ち合わせているか」を飼い主さんに質問し、一緒に問題を分析していくことを勧めていました。

<問題行動の改善法・治療法>

Cat with Green Eyes takes a Pill

猫の行動が異常に見えた際には、まずはそれが病気によるものでないか詳しく調べます。例えば、「夜鳴きが増えた」「よく食べるのに痩せていく」という場合は、甲状腺機能亢進症の可能性があります。

検査で何も見つからなかった場合は「ストレスの原因」と「それに対する反応」を調べます。このとき、猫の情動反応を分析します(詳しくはこちらの記事もご覧ください)。

問題行動の治療では複数の方法を組み合わせて、猫の行動と環境を調整します。モジュールでは、飼い主さんへの指導・環境改善・行動改善・薬物療法・フェロモン療法・サプリメントを組み合わせると紹介していました。ここでは2つ解説します。

・行動改善

猫さんの行動改善を行う際には「好ましい行動を取った時にご褒美をあげる」「不適切な行動を取った時に無視をする」という2つの行動を一貫して取ることが効果的と言われています。最も行なってはならないのが「罰を与える」ことで、これは猫のストレスが増大するだけでなく、飼い主と猫の関係性が崩れてしまい、治療が難しくなる原因になります。

・サプリメント

サプリでバックグラウンドストレスを改善してあげることで、他の治療法の効果を上げることが期待できます。モジュールでは以下のような成分を紹介していました。

比較的安全に取り入れることができるものが多いため、引っ越しや近隣で工事が始まったなど猫さんの不安や恐怖などの原因がある場合には一度試してみるとよいでしょう。

<最新の論文紹介;レーザーポインターは猫にとってストレス?>

レーザーポインターは猫のおもちゃとしてよく用いられていますが、猫は実際満足しているのでしょうか?最近発表され論文によると、レーザーポインターで遊ぶことが多い猫では、光の反射を追いかけたり、特定のおもちゃに固執するなどの行動が増える傾向にあることがわかりました。これは、レーザーの光を捕まえても獲物を捕まえたときのような感触が得られず、猫の狩猟本能を満たすことができないためと考えられています。情動反応でいうと「欲求系」が満たされないため異常行動につながっていると言えるでしょう。猫さんと遊ぶ時は、やはり猫じゃらしが一番とのこと。レーザーポインターを使う際は、捕まえた時にご褒美をあげるなど欲求を少しでもみたしてあげるとよいかもしれません。

猫さんと遊ぶことは、飼い主とのコミュニケーションになるだけでなく、猫さんのストレスを解消し、病気の予防や早期発見にもつながります。猫との遊び方については国際猫医学会(ISFM)が解説しているポスターもあります(日本猫医学会による翻訳版はこちら) 。参考にしながらより充実した遊びを猫さんに提供してあげましょう!

文章:多賀 佳(獣医師)

参考資料:

Grigg, Emma K., and Lori R. Kogan. “Associations between Laser Light Pointer Play and Repetitive Behaviors in Companion Cats: Does Participant Recruitment Method Matter?.” Journal of Applied Animal Welfare Science 27.2 (2024): 250-265.
 

 

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