2022年末に新しい関節炎の薬、ソレンシアが発売されました。いくつかの猫に使用してみたところ、症状改善の実感があります。

これまで関節炎の薬は腎臓病を悪化させる副作用があったりして、なかなか安全に使えるものがありませんでした。そのため関節炎と診断されても、やってあげられることがあまりなかったのですが、この薬の登場によって猫のQOL(生活の質)を改善させることが、より一層できそうです。今回はソレンシアについて解説します。

・ソレンシアの成分

ソレンシアの有効成分はフルネバトマブというネコ神経成長因子(NGF)モノクローナル抗体です。神経成長因子(NGF)の働きを抑えることで、痛みが軽減するんですね。

NGFは生後早期の抹消神経細胞の成長の欠かせない物質ですが、成熟した動物では侵害刺激(痛み)に応答して放出される物質の1つで、炎症や痛みの知覚亢進をもたらします。NGFは猫の関節炎で上昇することが知られており、それを抑制することで痛みを緩和します。

ソレンシアの成分、フルネバトマブはネコ化神経成長因子モノクローナル抗体

・猫の関節炎とは?

正確には「変形性関節症:DJD」「骨関節炎:OA」等と呼ばれる病気です。関節の骨の軟骨が破壊され、運動時に関節の動きを低下させたり、痛みを起こします。関節炎は6歳以上の60%、12歳以上の90%に起こっていると報告されています。

特に起きやすい部位は肘(50%)、膝(35%)です。関節炎の症状はジャンプを躊躇う、高いところに上がらない、運動量が下がった、トイレがぎこちないなどが挙げられます。かなり重度になると足を引きずる、ふらつくなどの症状も出ますが、殆ど猫はそこまでの症状は出ません。猫は単独で生活していたため、弱みを周囲に悟られないために隠す習性があると言われています。

・ソレンシアの使い方や副作用

投与方法:ソレンシアは月に1回の皮下注射で投与されます。2.5kg~7kgの猫は1バイアル、7.1〜14kgの猫は2バイアルになります。体重増加自体が関節炎の症状悪化させますので、肥満の場合は是非ダイエットも同時に行い7kg以下を目標にしましょう。

4〜6週間効果があるとされ、3回投与した猫の76%で効果を認め、活動性や歩き方に改善がみられました。2回目以降の投与で濃度が安定するので、2回目までは打ってから効果を判定すべきとされています。

投与禁止:妊娠中、授乳乳、ブリーディング予定の猫には投与してはいけません。また7ヶ月齢以下の子猫も使用できません。人間も妊娠中、授乳中の方はアクシデントで接種しないように細心の注意を払うべき、と記述がありました。普通の人は可能性は低いと思いますが、特に女性獣医師は気をつけないといけないですね。

副作用:注射部位の脱毛、瘡蓋、皮膚炎が報告されています。それ以外では腎臓病の悪化、脱水、体重減少、歯肉障害が投与群で報告されていますが、関連性は不明です。

それ以外にはソレンシアに対する抗体が発生することが報告されています。長期的に使用すると効果が薄れる可能性があります。

・ソレンシア投与中の自宅でのモニタリング

もし自分の猫が関節炎と診断され、ソレンシアを使用した場合、効果があるかどうやって判定すれば良いでしょうか。腎臓病や肝臓病のように血液検査で数値が出るわけではありませんので、効果判定は自宅でのモニタリングがのみになります。

FMPIの質問の1つ。このような質問21個に回答することで、痛みの評価を行う

FMPI(Feline Musculoskeletal Pain Index)という指標があります。これは21個の質問に対して回答することで、痛みを数値化することができます。こちらのサイトから測定できますが、英語のサイトなのと、ログインが必要です。

より簡易的なのが、6つの質問に絞ったものです。これらの質問に対して、投与前後で変化があるか観察しておくと良いでしょう。

これらの質問にFMPIのように5段階評価をしておくと、変化に気がつきやすいでしょう

それ以外には「トイレの方向転換がスムーズになった」「毛繕いが増えた/毛並みが良くなった」「ご飯をよく食べるようになった」などの改善を報告されることがあります。

デバイスを使った運動量モニター

近年では運動量を測定できる猫用のデバイスもあります。これはアップルウォッチのようなもので、首に装着します。例えばCatlogという製品は猫の活動量、ジャンプ数などをカウントできるので、客観的に薬の効果を評価できるでしょう。運動量以外にも面白いデータを発表しています。

・まとめ

猫の関節炎は高齢猫で発症率が高い病気です。元気がない、動かないという症状が関節炎から来ていることもあるでしょう。ソレンシアは従来の薬に比べて効果が実感でき、副作用が起こりづらいと感じています。一方で長期的な使用での副作用や、効果の減弱については不明な点が残っています。

関節炎以外ではスコティッシュフォールドの骨軟骨異形成でも効果を感じています。この病気も治療方法がないとされていますので、ソレンシアで症状を緩和させてあげられるだけでも、とてもQOLを守れると思います。

痛みという点では、がん、術後の痛みに対しての効果も期待されていますが、現時点では不明です。口内炎にもあまり効いていない印象があります。今のところは関節疾患のみに使用するのが良いかと感じます。

参考資料

・Mvm Vol.30 No.195 2021/03

・Enomoto, Masataka, B. Duncan X. Lascelles, and Margaret E. Gruen. “Development of a checklist for the detection of degenerative joint disease-associated pain in cats.” Journal of feline medicine and surgery 22.12 (2020): 1137-1147.

・Plumb`s veterinary drug Handbook (Frunevetmab) 

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