慢性腎臓病は15歳以上の猫の8割がわずらう、猫で一番多い病気です。腎臓病の診断や治療については、常に獣医師の間で注目されていますが、そのガイドラインが2023年に更新されました。(前回の更新はこちら)。ガイドラインはIRSI(国際獣医腎臓病研究グループ)という団体が作成しており、動物医療界隈では強い影響力を持っています。新しいガイドラインの中でFGF23という検査項目が新たに登場しましたので、今回はFGF23を測定する理由や、治療への影響を解説します。

IRIS:国際獣医腎臓病研究グループのガイドラインが更新された年数

・FGF23とは?

シンプルに回答すると「FGF23は伝達物質の1つで、主な働きは血液のリンの濃度を調整する」です。

・FGF23を測ると何がわかるの?

リンの上昇を早期に発見ができます。高リン血症になる前にFGF23が上昇するからです。

・FGF23が高いとどうしたらいいの?

異常高値が見られた場合、リン制限食(腎臓病療法食)を開始、強化する根拠になります。FGF23の測定を推奨する背景には、あまりに早期の腎臓病にリン制限食を与えると、高カルシウム血症になるリスクが上がることがわかってきたからです。これはカルシウムとリンはシーソーのような関係があり、リンが低下するとカルシウムが上がるように体が調整するからです。

・高カルシウム血症になると何がいけないの?

高カルシウム血症でも見た目上の症状はほとんど現れません。ですが、カルシウム系(シュウ酸カルシウム結晶)の尿路結石になりやすくなります。また腎臓にカルシウムが蓄積し、腎機能を悪化させる可能性があります。

・FGF23の注意点

FGF23は高カルシウム結症、貧血や炎症性疾患、甲状腺機能亢進症の影響を受けるので、これらの合併症がある場合は解釈に注意が必要です。

・FGF23の結果の解釈

FGF23の解釈を調べる上でIRISだけでなく、大手検査会社IDEXXの資料を参考にしました。両者とも似通っていますが、微妙に数値が異なることがわかります。1番の違いはIDEXXはステージ1〜2の腎臓病のみを検査対象としていますが、IRISでは全てのステージを対象にしています。

血中リン濃度が上がっていなくてもFGF23が上昇している場合は、リンを下げる治療を強化しましょう、ということを両者ともに示しています。

・IRISガイドラインでは以下のように言及

・検査会社IDEXXでのFGF23に関するアルゴリズムを一部改変

こちらを一部改変、簡略化

・療法食の種類

上記のアルゴリズム上に出てくる「リン制限が弱い療法食」と「リン制限が強い療法食」は具体的に何を示すでしょうか。下記に主要なメーカーの療法食のリンの量を表記しています(メーカーにより単位が異なるので単位を2種類並べています)。

ロイヤルカナン、ヒルズ、ピュリナは既に「早期」「初期」などの名前のついたフードがあります。「リン制限が弱い療法食」=「初期/早期」、「リン制限が強い療法食」=「それ以外の療法食」という認識で食事を選ぶと良いでしょう。

リン含有量 (g/100kcal) %(乾物中)
ドライフード    
ROYAL CANIN 早期腎臓サポート 0.13  
ROYAL CANIN 腎臓サポート 0.08  
ROYAL CANIN 腎臓サポート スペシャル 0.11  
ROYAL CANIN 腎臓サポート セレクション 0.1  
Hill’s k/d 早期アシスト 0.127 0.56%
Hill’s k/d チキン 0.11 0.49%
Hill’s k/d ツナ 0.108 0.46%
PURINA NF 腎臓ケア初期ステージ対応   <0.625
PURINA NF 腎臓ケア中期ステージ以降対応   <0.5%
JP style Dietics キドニーキープ   0.5~0.6%
JP style Dietics キドニーキープ リッチテイスト   0.5~0.6%
Dr’s care キドニーケア フィッシュテイスト   0.40%
Dr’s care キドニーケア チキンテイスト   0.38%
Dr’s care キドニーケアプラス(可溶性繊維)   0.40%
SANIMED Renal FOR CAT   0.44%
ウェットフード    
ROYAL CANIN 早期腎臓サポート 0.14  
ROYAL CANIN 腎臓サポートチキンテイスト 0.07  
ROYAL CANIN 腎臓サポートフィッシュテイスト 0.09  
Hill’s k/d 早期アシスト 0.133 0.59%
Hill’s k/d チキン 0.124 0.50%
Hill’s k/d ツナ 0.111 0.47%
Hill’s k/d チキン&野菜入りシチュー 0.111 0.50%
Hill’s k/d ツナ&野菜入りシチュー 0.127 0.50%
PURINA NF 腎臓ケア初期ステージ対応(ウェット)   <0.91%
PURINA NF 腎臓ケア中期ステージ以降対応(ウェット)   <0.52%
JP style Dietics キドニーキープ ウェットタイプ   0.5%

2.リン吸着剤の種類

療法食以外でリン摂取量を下げる治療として、吸着剤でがあります。代表的なリン吸着剤が以下になります。猫医療でよく使われるのはカリナールやレンジアレンなどです。

・まとめ

4年ぶりのIRIS腎臓病ガイドラインの更新がありました。その中で新しい検査項目としてFGF23が紹介され注目を集めています。フードメーカーは新しいガイドラインに即した「初期」「早期」というラインナップを用意しています。リンについてより正確に対応することで、猫の健康寿命を伸ばす可能性があります。

一方で、尿中蛋白(UP/C)やSDMA(早期の腎臓病のマーカー)など年々検査項目が増えています。経済的な検査の負担を考えどのくらいの頻度で測定すべきか定かではない、という課題もあります。また実際にFGF23を元にした治療でどのくらい寿命が伸びるのかはわかっていません。

ガイドラインはあくまでガイドラインであり、個々の猫に即した検査治療を行うことの重要性を日々感じます。FGF23の検査に興味がある場合は、かかりつけの獣医師とよく相談の上、実施しましょう。

 

参考資料

・IRIS Treatment Recommendation (modified 2023)

・Diagnostic update IDEXX FGF-23

・IDEXX FGF-23 プロトコル

慢性腎不全時におけるリンのコントロールの重要性 3.吸着剤の投与(動物臨床医学 24(3)108-110, 2015)

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