近年猫のサプリメントも充実しており、業界最大手のDHCからも猫用のものが販売されています。特に乳酸菌のサプリメントの数が多く、初めて聞く名前も増えました。サプリメントは薬ではなく「健康補助食品」である、という点を理解した上でうまく使いましょう。

薬とサプリの違い、医学的根拠(エビデンス)について少し詳しい説明はこちら

0.乳酸菌とは

乳酸菌は1つの菌の名前でなく、乳酸を産生する菌の総称です。ラクトコッカスやラクトバチルスなど「ラクト=乳」がつく名前が多いです。そのため様々な種類のサプリメントがあるんですね。乳酸菌は正常な腸の中にも存在し、腸内環境の安定に役立っています

1.用語

乳酸菌のサプリメントの説明を見ていると必ず登場する言葉がいくつかあります。その意味を正確に理解しましょう。

腸内フローラのイメージ図

・腸内細菌: 腸の内部に生息している細菌です。食事の分解を助け、また外部から侵入した病原菌の増殖を阻止する感染防御の役割を果たします。猫では便1gに1兆個の細菌が含まれています。

腸内には様々な菌がお花畑のように生息していることから「腸内フローラ」とも呼ばれます。猫の腸内細菌はウェルシュ菌が比較的多いことを特徴とします。これは肉食動物であることが関係していると考えられます。

・善玉菌:腸内細菌のうち、健康維持に貢献する菌です。代表的なのがビフィズス菌や乳酸菌です。反対に健康に悪影響を与える腸内細菌が悪玉菌で、ウェルシュ菌や大腸菌(病原性)が有名です。

・プロバイオティクス:善玉菌を含む「製品や食品」。今回解説するサプリメントはプロバイオティクスです。

・プレバイオティクス:善玉菌の栄養源となる「製品や食品」。善玉菌の数を増やし、腸内細菌のバランスを改善することを目的とします。代表的なのがオリゴ糖、ポリデキストロースなど。

・シンバイオティクス:プロバイオティクスとプレバイオティクスを一緒に摂取すること。「シン=syn=一緒」という意味からr。

 

2.猫で使われる乳酸菌サプリメント

たくさんの猫用乳酸菌サプリメントがありますが、当院の飼い主さんからよく聞くものをピックアップします。そのほか人気のサプリメントがあれば随時追加します。

2.1 マイトマックススーパー

主成分:ペディオコッカス菌(ペディオコッカス・アシディラクティシ)

目的:腸内環境の改善、維持

乳酸菌サプリメントの多くはラクトバチルス属やラクトコッカス属の菌が多いのですが、マイトマックススーパーはペディオコッカス属の菌を主成分としています。従来の乳酸菌よりも温度、酸素、酸に強いことを特徴としています。猫の胃内のpHは2〜3と強い酸性環境です。また容器の開け閉めで酸素に触れる環境でも生存可能であるので、腸内に届くと考えられています。下痢などに対して。

2.2 JIN動物用乳酸菌

主成分:フェリカス菌(EF-2001)

目的:整腸効果、免疫調整

花粉症やインフルエンザ予防に効果があるかもしれないと話題を集めるフェリカス菌の動物用サプリメントです。腸にはリンパ組織(パイエル板)があり、腸内細菌は免疫応答に対しても重要な役割を果たしていると考えられます。腸内細菌を整えることで免疫を正常化させることを狙っています。フェリカス菌は死んだ状態でも効果があるため、加工しやすいのが特徴です。

2.3 デンタルバイオ

主成分:口腔内善玉菌(ストレプトコッカス・サリバリウス K12)

目的:口腔内の健康維持

口の中に主成分の善玉菌が定着することで、口臭や歯肉炎の原因になる悪玉菌の数を抑える効果を狙っています。粉末にして食事に混ぜて投与すると良いでしょう。

2.4 .カリナール2

主成分:エンテロコッカス・フェシウム

目的:消化管内の窒素物減少

乳酸菌が腸の中で窒素物を利用することで、窒素物の吸収を減らす効果を狙っています。腎臓病になると腎臓から尿素窒素の排泄する力が低下するため、腎臓病の猫の健康維持のため使われます。またオリゴ糖などのプレバイオティクスも一緒に入っています。

3. よくある質問 FAQ

乳酸菌に対するよくある質問について回答します。

3.1「人の乳酸菌をあげても良いですか?」

良いです。体重1kgあたり20mg~40mgなので、ビオフェルミンR錠(220mg)だと4kgの猫で1/2錠を1日2〜3回になります。必ずかかりつけの獣医師と相談して種類と量を決めてください。

3.2 「ヨーグルトを猫にあげて良いですか?」

猫は乳糖を分解する「ラクターゼ」という酵素が少なく、下痢を起こすためヨーグルト、牛乳は与えない方が良いと考えられます。しかし実際には全く下痢を起こさない猫もいるため「下痢を起こさないのであれば少量(小さじ1杯)あげても良い」という回答になります。今まで一度もヨーグルトを与えたことがない場合は、乳酸菌サプリメントの方が安全でしょう。

7.最後に

乳酸菌サプリメントと一括りにしても、乳酸菌の種類も違えば、目的も違います。整腸作用、腎臓病、免疫調整、歯肉炎と使用用途は様々です。その中でも個人的には整腸作用、下痢や便秘に対する効果は実感しています。乳酸菌サプリメントは副作用がほとんどなく安全に使えますが、猫の場合は投薬自体がストレスになることもあります。現代の獣医療では完治できない猫の病気が多いことも事実ですので、効果と投薬の負担のバランスを考えてうまく使いましょう。

参考資料

・Encyclopedia of Feline Clinical Nutrition -猫の臨床栄養-

・犬と猫の治療薬ガイド 2017

“猫の乳酸菌サプリメントのいろいろ” への4件のコメント

  1. 山本先生、はじめまして。
    いつも楽しく拝読し、勉強をさせていただいております。

    我が家の白キジ猫(雄、9歳)ですが、3年ほど前より慢性膵炎となり、先生の膵炎記事を何度も読み返させていただいております。
    慢性膵炎の場合、完治させることは難しいと、かかりつけ獣医さんからも言われ、膵炎がわかってからは獣医さんおすすめの
    消化しやすいドライフードのみを与え(サイエンスダイエットi/d、ロイヤルカナン セレクトプロテイン)、症状が出た際に通院するという
    対処療法を行っています。
    最初は半年から1年に一度、膵炎症状が出て通院していましたが、ここ1年は2~3ヶ月おきに症状が出るようになり、
    いま行っている対処療法の他に、何か少しでも改善できるものはないかと考えていたところ、ロイテリ菌という乳酸菌を知りました。

    ロイテリ菌は、プロバイオティクスの中でもアレルギー対策や整腸作用、口腔ケアに優れているということから、
    我が家では人間が最近生活に取り入れ始めたのですが、これを我が家の愛猫にも与えても良いものか(粉末のものがあるので、
    飲料水に溶かして摂取してもらう)色々論文等の文献を探してみたのですが、当然ながら人間向けの内容ばかりでしたので、
    こちらのコラムで、人間の乳酸菌を与えても大丈夫(医師に相談のうえ)とあったので、もしかしたら、このロイテリ菌で
    消化器官に少しでも効果があり、膵炎の発症をできるだけ長く抑えておけるのではないか?との希望を持っているのですが、
    先生はロイテリ菌について、どうお考えでしょうか? もしお聞かせいただければ有難く思います。

  2. 初めまして。いつもサイトを拝見し、勉強させて頂いています。
    我が家のアメショ(まもなく4歳)は元々軟便ぎみで、1年か2年に一度くらいですが便が緩い→水下痢→粘膜が何度も出続け食欲も失くなる、という状態になります。便の検査をして頂きますが虫などは見つからず、「腸内環境がとても悪い」と言われ抗生物質や胃腸薬が処方されます。ビオイムバスターをあげていたことがありますが、「医薬品」とのことで長期間あげて良いのか疑問に思いました。上記に先生が紹介されているサプリメントのレビューを見ていると、どちらかというと便秘改善に購入されている方が多いように思いましたが、軟便の猫に向いている乳酸菌はありますか?

  3. 初めまして。7歳になる雄の茶トラと暮らしています。最近歯が真っ赤になっていて受診したらネックリージョンだと言われました。あまり良くないようで手術をしなければ悪化すると言われたのですが、
    血液検査の結果、腎臓が悪くなってきていてステージ2と言われました。
    歯の手術は、腎臓が悪いので、最悪な状態のところだけ短時間で取る手術に変わりそうです。少しでも悪くならないように、歯のためのサプリを飲ませたいですが、
    歯のサプリは、腎臓には影響ありますか?

    1. トラちゃん母さん こんにちは。歯のサプリもたくさん種類が出ていますが、乳酸菌ベースのものであれば腎臓に対して影響が出る可能性は低いと思います。

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