動物に対するアレルギーの原因として猫は一番多く、ある研究では5人に1人は猫に対してアレルギーを持っていると報告されています。友人の獣医師でも猫アレルギーを持ってい方は少なくありません。
猫が大好きだけど猫アレルギーが理由で飼えない、という方も多いでしょう。また結婚して相手が猫を連れてきてアレルギーで悩んでいるという話もしばしば聞きます。猫アレルギーは人間の病気なので獣医学の範囲ではないのですが、仕事がら私もしばしば相談されることがあります。
以前、「サイベリアンが猫アレルギーが出にくい?」というコラムを書きました。しかし結論からいうとアレルギーの原因となるアレルゲン(Fel d 1)は個体差があるものの、どんな品種の猫からも分泌されており完全に猫アレルギーを起こさない猫というのは存在しません。
アレルギーフリーの猫を開発したというニュースもありましたが、実際には高額にも関わらず症状が出てしまい、失敗に終わった過去もあります。しかし最近、2つの異なる方法で猫アレルギーの解決しうる方法が開発されているのでご紹介します。
1.猫アレルギー用ワクチン
スイス、チューリッヒの企業が猫に打つ、人の猫アレルギーを抑えるワクチン(HypoCat)を開発していると発表しました。猫アレルギーの原因は唾液や皮脂、涙に含まれるFe d1という蛋白質であると考えられています。
このワクチンを打つことによりFel d 1に対する抗体が猫の体内で分泌され、それによりFe d 1の働きを抑えることができました。次の段階では実際に猫アレルギーの人の症状が緩和するか調べることになります。
猫目線からすると打たれるだけで、病気を防ぐわけではないので厳密にはワクチンと呼べないかも知れません。これで猫の体調が悪くなると困ったものです。今回の研究では50匹以上の猫に投与したところ、副作用は認められなかったと報告しています。しかし正常な分泌物に対する抗体ですので、他の部分に影響が及ばないか精査する必要があると思います。
2.猫アレルギー用キャットフード
米国のペットフード会社ピュリナは、フードを替えるだけで猫アレルギーを解消できる可能性があると発表しました。鶏卵に含まれるニワトリ由来の抗体IgYが肝です。猫と同じ環境で暮らしているニワトリの卵にはFel d 1に対する抗体が多いことがわかりました。これをフードに混ぜることで、猫が食べた時に唾液中のFel d 1と結合し、アレルギー症状を緩和します。
食事を変えてから3週間以内に効果を発揮し、Fel d 1の量を47%減らしたと報告しています。この方法の利点は猫に対して薬物を投与することなく、Fel d 1を抑えることができ安全性が高いです。一方で、Fel d 1は唾液以外(皮脂や涙など)からも分泌されるため、完全にFel d 1を除去できないのが懸念材料でしょうか。
まとめ
これまで猫アレルギーは根本的な解決がなく、多くの人を苦しめてきました。過去には猫アレルギーに対するサプリメントやアレルゲンフリーの猫などのニュースがありましたが、解決策になりませんでした。
今回の方法がうまくいくことを期待します。また猫アレルギーは猫を捨ててしまったり、里親になっても保護団体に戻す理由の1つになってしまっています。猫アレルギーを解決することで、人だけでなく幸せな猫が増えることを願います。
参考資料
・Geographical variation in the prevalence of positive skin tests to environmental aeroallergens in the European Community Respiratory Health Survey I. Allergy (2007)
・Immunization of cats to induce neutralizing antibodies against Fel d 1, the major feline allergen in human subjects. J Allergy Clin Immunol. (2019)
大変有意義な情報をありがとうございます。