この「いろいろ」シリーズはテーマが大きすぎるもの、科学的な資料が少ないものを、自分の意見を交えて解説していきます。キャットフードは日々の診療で最も質問されるテーマの1つです。ネットでも様々な意見が述べられており、混乱されていることが多いでしょう。

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猫は腎臓病、糖尿病、尿路結石など療法食が有効な病気が多いです。治療の一環として療法食についてアドバイスをしますが、それは各病気のコラムに任せ、今回は健康な時の食事について解説します。

0.健康に良いフードとは

もちろん、みなさん健康に良いフードを選びたいと思います。ここ数十年で猫の寿命が大きく延びた理由の1つはバランスの良いキャットフードです。それまで10歳まで生きられなかった猫が現在では平均で16歳を超えています。市販されているキャットフードは全て一定の基準をクリアしています。

現在ではさらに各メーカーが工夫をしていますが、メーカー間で寿命や病気の発症率の違いがあるかというと、そこまでではありません。長期的に比較すれば差が出るかもしれませんが、寿命や病気の発症率には環境やその猫の体質が絡んでくるため難しいでしょう。

医学の世界では食事と生活習慣病の関係が科学的に証明されていますが、キャットフードは総合栄養食を適切な量で与えれば、食事が原因で病気になることは稀です(偏食な人ほど異常に脂肪分や塩分を取りすぎることはない)。

※科学的な証明についてはこちら

だからといって、なんでも良いと言ってしまうのは乱暴すぎます。猫は個々の体質によって食事の合う合わないことがありますし、実際にどんな種類のフードがあるのか、そして自身の考え方、予算とあったものを選ぶのが良いと思います。

1.フードメーカーの種類

これらのロゴは全てキャットフードの種類で、ペットフードは3000億円を超える大きな市場です。さらに1つのブランドの中でも数種類のラインナップがあり、トータルで100種類をゆうに超えます。私は個人的にフードを以下のグループに分けています。フードを探す時に、まずどのグループのメーカーにするか決めて選択肢を絞ると良いでしょう。

1.1スーパーマーケットフード

カルカンやシーバ、銀のスプーン、フリスキーなど。どこのスーパーでも買えるフードの総称です。現在、ペットフードの売り上げの殆どはこのスーパーマーケットフードが占めます。

この中では一番廉価ですが、その理由は副産物を使っているからです。副産物とは何かを作る時に余ったものです。例えば、トウモロコシからデンプンを作る時に余った蛋白質と繊維を含むコーングルテンなど(詳しくはこちら)。

副産物は食の有効利用として牛や豚などの飼料にも使われており、ネットに書かれているような危険性は実際にはありません(後述)。

1.2プレミアムフード

プレミアムとの文字どおり上質な素材で作ったフードです。「プレミアム」の意味するところはそれぞれのメーカーで異なり、さらに以下のグループに分かれます。鶏肉などの食材が産地や飼育方法により値段が異なるのに似ています。

ヒューマングレード

人の職に流通する食材を元に作っているものです。アーテミスなど。

オーガニックフード

人のオーガニックフードと同じで主な、または全ての素材が農薬や遺伝子組み換え種を使用していないものを元に作っているものです。フォルツァなど。

国産フード

日本のメーカーであるという意味ではなく、主な、または全ての素材が国産の肉や魚、野菜からできているものです。jpスタイルなど。

これらの特徴は複合されていることもあります。例えば、国産でさらにオーガニックだったり、オーガニック素材だけど副産物は使う、など。基本的にスーパーマーケットフードより高くなるのは、原材料費が乗ってくるからで、制限が厳しいほど高価になります。

1.3サイエンスフード

ロイヤルカナン、ヒルズ、アニモンダ、スペシフィックなど。科学的な根拠に重きを置いたフードです。消化率や成分などのデータを数字で示し、消化率の高いタンパク質であれば副産物でも使用しています。

また病気用の療法食にも力を入れており、具体的にどのくらい病気の改善率が高まるか、どのくらいの寿命の延長が望めるかなども研究しています。そのほか、猫の品種によって食べやすい形に調整したり、歯垢がつきにくくなるような形の開発なども行なっています。スーパーマーケットフードよりも高くなるのは、研究費用が乗ってくるからです。

 

2.ドライとウェットどちらが良いか

http://catlovehub.com/video-dry-cat-food-vs-wet-cat-food/

さて、メーカーが決まったら次はドライかウェットか考えましょう。これもどちらの方が長生きをするという科学的な裏付けはありません。しかし、私はこの質問をアメリカ、オーストラリアの猫専門病院の獣医師に尋ねたところ、全員がウェットフードを推奨すると回答しました。その理由は主に以下の3つでした。

・水分含有量が高い

・栄養バランスが自然の食事に近い

・保存料が入っていない

 

2.1自然の食事との比較

猫の自然の食事はネズミなどの小動物です。現在のドライフード、ウェットフード、小動物の栄養組成を比較したものが次の表になります。

Debra L. Zoran, AVMA, 2002

これをみるとドライフードは自然の食事と比較して、たんぱく質、水分が低く、炭水化物が高いことがわかります。

猫は渇きを感じるセンサーが鈍く、食事と一緒に水分を摂取することが大切であると指摘する研究があります。またウェットフードの方がトータルの水分摂取量が増えることがわかっています(詳しくはこちら)。

猫は肉食動物であり、炭水化物の代謝は苦手だと信じられています※。そのため高炭水化物の食事が肥満や糖尿病と関係しているのではないか、という意見もあります。

※唾液中の糖を分解するアミラーゼが少ない、肝臓の糖の代謝を高めるグルコキナーゼの活性が低いなど)

またウェットフードは密封(缶やパウチ)で食べきりサイズなので、通常保存料は入っていません。

 

2.2 ドライフードのメリット

一方ドライフードの方が管理、与えるのは楽です。すぐにご飯を食べない猫では、食事を出しっぱなしにしておけるドライの方が良いでしょう。またドライフードの方が通常安く、そしてストックしておくのが楽です。2kgの袋を買えば、1ヶ月以上は持ちます。また一般的に歯石がつきにくいと信じられています。歯石がつくと歯肉炎になりやすく、痛みが出たり、歯肉炎は腎臓病の発症率を高めることが知られています。

・コストが低い

・管理しやすい

・歯石がつきにくい

2.3 どちらが良いか

私は個人的にはウェットフードの方が良いと思っています。理由は上記に加え、ウェットフードの方が食べ応えがあるので、満腹があり、また猫が幸せそうであるからです。

通常猫の食事の好みは3ヶ月齢までに決まります。それまでにドライしか食べていな猫はウェットを食べなくなることもあるので、小さい頃は両方のご飯を与えましょう。また単身や共働きで忙しい方は朝はドライ、夜はウェットなど組み合わせるのも良い方法でしょう。

 

3 グレインフリーとは何か

グレインフリーとは穀物(grain:グレイン)が含まれていないフードです。日本ではまだ馴染みがありませんが、ニューヨークのスーパーには沢山おいてありました。

ドライとウェットの項でも話題に上がりましたが、猫は本来炭水化物を摂取しません。しかし現在のキャットフードには米や小麦などの穀類が含まれています。そのためより自然に近い食事を提供するために、原材料から穀類を抜いています。ブランドでいうとカナガン、アカナなどがあります。

ただしグレインフリーでもよく成分をみて見ると穀類の代わりにサツマイモやマメが多く使われていて、高炭水化物になっているものがあります。猫は穀類の消化が苦手なのではなく、炭水化物の消化が苦手なので、それでは最初のコンセプトからずれてしまいます。

またグレインフリーという言葉は主にドライフードに使われ、ウェットフードでもグレインフリーはありますが、不思議とあまり表示されていません。

 

4 食物アレルギーについて

愛猫が食物アレルギーなので、食事選びに苦労しているという方も多いでしょう。猫の食物アレルギーは非常に難しいです。人のように血液検査(IgE抗体)や皮膚プリックテスト(皮内反応)でアレルギーの原因を特定できないからです。そのため、どのくらいの割合で猫が食物アレルギーを持っているかもわかっていません。

猫の食物アレルギーの診断方法は1つだけで、除去食試験と負荷試験です。これはアレルゲン除去食を数週間与え、改善したことを確認し、さらに食事を戻し再発することを確認する、という検査です。負荷試験まで行うことが大切で、除去食で症状が改善したのが、本当に食事の影響であると確証を得るためです。

しかし、この除去食試験と負荷試験を経て食物アレルギーと診断されている猫は少ないです。評価に時間がかかるのと、わざわざ元の食事に戻して体調を悪化させることに抵抗があるからです。

猫で多いアレルギーの原因は、牛肉、乳製品、魚肉、ラム肉、鶏肉、小麦・大麦、卵、兎肉と報告されています。(Verlinedn A, 2006)

4.1食物不耐性

アレルギーの他に食物不耐性という病気があります。これは「非アレルギー性食物過敏症」と言い、ある食物を代謝するのに必要な酵素が不足している状態です。例えばアルコールに弱かったり、牛乳でお腹を壊すのがこれにあたり、それぞれを分解する酵素がないからです。

そのほかにグルテン不耐性だと小麦などの炭水化物、卵白不耐性だとタマゴ、レクチン不耐性だと糖類やジャガイモなどを食べるとお腹を壊します。どのくらい食物不耐性の猫がいるかは不明ですが、そのような場合は低炭水化物食や、穀類を含まないフードに変えることで症状が改善する可能性があります。

食物アレルギー・食物不耐性は難しい病気なので、近日まとめる予定です。

5 「消化が良い」について

よくフードの説明に”消化に良い”という表現が使われていますが、それは消化率が高いという意味です。消化率は「食べたもののうち、消化吸収された量の割合」を意味します。食べた量から便として排泄された量を差し引いて計算されます。以下の計算でも求められます。

消化率=(摂取量-糞便中排出量)/摂取量

同じ食材でも、加工すると消化率は高まり、サイエンスフードは加工技術により消化率を高めています。

6 まとめ

いろいろと考え抜いてフード注文したけれども、愛猫が全く食べなかったというケースはよくあります。最終的な決定権は猫にあることを忘れてはいけません。愛猫が好きなフードを選ぶというのも、猫の幸せを考えると精神健康上良いとも考えられます。

個人的にはウェットフードで、たんぱく質の割合が高いものをオススメしています。ペットフードも素材にこだわると1日当り千円を超えるものもありますから、負担にならない範囲で選んであげてください。

また下痢や嘔吐などの症状がある場合、闇雲に食事を交換しても改善しません。他の病気が隠れているかもしれないので必ず動物病院で相談しながら選びましょう。除去食試験をするにも、しっかりと期間を定め、効果を判定するには獣医師のサポートが不可欠です。

 

7 おまけ その他よくある質問

7.1 4Dミートについて

Dead:死亡、Dying:死にかけ、Disease:病気、Disabled:障害、の頭文字をとって4Dと呼ばれ、それらから作った肉を4Dミートと呼ばれます。人用として出荷できないものをペットフードの副産物に混ぜられているという説があります。実際には現在のメーカーは人用の食肉から副産物をとっているので4Dミートが混ざることはありません。

7.2 ピートバルプは危険か

「ビートパルプには便意を感じる神経を麻痺させる化学物質が混ざっている可能性がある」という説がありますが、出典は不明です。ピートバルプは砂糖大根(シュガービート)から砂糖を抽出した副産物です。主な成分は線維です。

7.3 穀物は特に危険か

猫で多いアレルギーの原因は、牛肉、乳製品、魚肉、ラム肉、鶏肉、小麦・大麦、卵、兎肉と報告されています。穀物以外にもアレルゲンになる可能性があります。

7.4 高たんぱく質食はシニア猫に負担か

たんぱく質が分解されるとアンモニアが生成され、肝臓で尿素に変わります。尿素は体に不必要なので腎臓から排泄されます。腎機能が下がっていると尿素が体に溜まり気持ち悪くなってしまいます。

シニア猫でも腎臓病でない猫も多いです。低たんぱく質食にすると筋肉量が低下してしまうので、シニアだからといって、全ての猫がたんぱく質を制限する必要はありません。

7.5 酸化防止剤は危険か

ドライフード中の脂肪が酸化すると健康に影響を及ぼすため酸化防止剤が使われます。現在使われている酸化防止剤は、科学的な研究で設定した安全な範囲内で使われています。

それでも感覚的に心配、という方はウェットフードが良いかもしれません。パウチや缶のウェットフードは密封、食べきりサイズなので基本的に酸化防止剤は入っていません。

参考資料

・Food allergy in dogs and cats: a review. Crit Rev Food Sci Nutr, 2006

・The carnivore connection to nutrition in cats. JAVMA 2002

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