皮下点滴とは文字通り皮膚の下に点滴をすることです。動物の医療の独特な治療法かと思っていましたが、かつては(今でも?)人医療でもふとももの皮膚などを用いて皮下点滴が行われていたようです。猫で皮下点滴が必要になる病気の代表が慢性腎臓病(CKD)です。

皮下点滴の大きなメリットは時間がかからないことで、血管から行う静脈点滴は数時間拘束されますが、皮下点滴は5分ほどで行うことができます。そして練習すれば自宅でできることです。特に来院がストレスになる猫では後者のメリットは大きく、当院でもできる限り自宅で行えるようアドバイスしています。

一方でうまくできるか不安だったり、点滴がストレスになってしまう飼い主さんも多いでしょう。確かに針を扱うことなんて日常的にないという方がほとんどですので、不安を感じるのは当然です。

今回紹介する報告は世界中(といっても英語圏が95%を占める、日本人も数名参加)に住む慢性腎臓病の猫を飼っている460人の猫オーナーに対して、皮下点滴についてアンケートをとった論文です。世界中の猫オーナーがどれぐらい皮下点滴にストレスを感じているか、またどんな頻度、量、使っている針についてなどが分かります。

点滴の頻度、量は必ずかかりつけの獣医師の指示を厳守してください

まず点滴の頻度です。1日1回〜2日に1回(週3〜4回)が7割近くを占める結果になりました。点滴は多すぎても心臓に負担がかかってしまいますので、必ずかかりつけの獣医師の指示を厳守してください。1日2回に分けているのは猫が長時間我慢できないか、心臓への負荷を分散させるためだと考えられます。

点滴の頻度、量は必ずかかりつけの獣医師の指示を厳守してください

点滴の量は100mlが半分以上ともっとも多い割合を占めました。平均的な猫の体格だと100mlになることが多いです。体が小さかったり、心臓が弱っていると点滴の量を減らさなければいけませんので注意が必要です。

 

1人または2人が9割を超える結果になりました。1人で点滴できるかどうかは、猫の性格(飽きやすいなど)が大きく関係していると思われます。反対に3人以上の場合は抑える人と刺す人、猫をあやす人などと役割分担していると思われます。

皮下点滴の方法にはいくつかあり、もっとも多かったのは高いところに点滴バックを吊るし、重力で落とす方法です。特別なものは必要なく、S字フックを家にかけるだけでいいのがメリットです。

当院では加圧バッグを購入してもらい流す方法をおすすめしています。何より時間短縮になるので猫が飽きにくいです。この研究ではおそらく手で絞って流す方法を圧迫と表現していると考えられますが、これは結構な力が必要で成人男性でもかなり疲れます。

注射器で押す方法は日本ではもっと割合が高いように感じます。注射器の分コストが上がりますが、点滴量が正確に測れるのと、手技が楽という意見があります。

加圧バックの例:口コミを見ると猫や犬で使っている人がほとんどです。入った点滴量がわかりづらいデメリットがあるので慣れるまで小まめに確認しましょう。

これも病院ごとに異なるので混乱される飼い主さんが多い項目です。案の定結果がばらけています。針の太さはG(ゲージ)といい、数字が高いほど細くなります。人間の採血で使われる針がだいたい20〜21Gであるといわれています。

太い針(数字が少ない針)の方が早く流すことができるので時間は短縮されますが、痛みが強くなると考えられます。22G以上では時間がかかって猫がむずむずしだすので、当院では21Gを最初に勧めることが殆どで、加圧バッグを使って早く終わらせることを心がけています。

一方で「針の太さと猫が嫌がる度合いに関連性があるか?」と飼い主さんに聞いたところ49%は関係ある、11%は関係ない、36%はわからないと回答しています(4%は1種類の太さしか使ったことがない)。必ずしも太い針を嫌がるとは限らず、太い方が点滴の時間を短縮できるので、猫の反応をみて針の太さを選ぶと良いでしょう。

点滴バッグとは点滴の入れ物で500mlが一般的です。体が小さい猫医療の性質上、1回の点滴で全て使い切ることはほとんどなく、何度かに分けて使います。一方で、一度ラインに繋いだバッグを何週間も置いておくのは衛生上よくありません。しかしどのくらい使っていいのかはハッキリとした基準はありませんでした。

今回のアンケートでは、その他を除くと、2〜3週間未満が8割以上を占めています。当院では2週間以内に使い切れない場合は交換するようお願いしています。

同様に「針を再利用しているか?」という質問に対しては10%の人が「Yes」と答えていました。日本では必ず針を交換するよう指示する病院がほとんどなので驚きました。針は衛生的にもですが、一度使うと刺す時の抵抗が大きく増え痛みが増すので、必ず替えましょう。

 

IRISステージ分類について詳しくはこちら

そして皮下点滴を行っている猫のステージ分類です。IRISという団体が血中クレアチニン濃度をもとに慢性腎臓病(CKD)を4段階に分類しています。このグラフを不明をのぞいて作り直すと下図のようになり、ステージ3以上の猫が70%以上を占めることがわかります。

皮下点滴を始めるタイミングは明確なガイドラインはなく、ガイドライン(ISFM  2016)には脱水が認められる場合や、皮下点滴により症状が緩和する場合、などと説明されています。当院でもステージ3以上の猫で皮下点滴をお願いすることが多く、今回の報告と概ね一致します。

初めて点滴をした飼い主さんに対して、このようなアンケートをとったところこのような結果が得られました。”とても簡単”または”簡単”を選ぶ飼い主さんが思ったより多かったです。より丁寧にやり方を直接指導することで”簡単”の割合が増えると思われます。

最後に猫に皮下点滴をすることに対して総合的なアンケートをしところ、6割以上の方は簡単と回答しました。一方で16%の方は最後までストレスがあったと答えています。この結果は私の感覚よりもポジティブに捉えている人の割合が高いように感じました。このアンケートの回答者は欧米人が多く、中でも75%がアメリカ人が回答しているので、その影響もあるかもしれません。

その他注意:今回のアンケートはウェブサイトやフェイスブックなどから募ったものであり、比較的若い飼い主さんの参加が多かったと考えられます。またアンケートに参加する方はもともと積極的で意識が高い方が多いと想像できます。これらの影響で点滴に関しても”簡単”や”まぁまぁ簡単”の割合が増えたかもしれません。

まとめ

この結果を見るとたくさんの猫オーナーさんが頑張っていることが分かりますし、大きなストレスであると感じている人も少なくありません。自宅皮下点滴が成功するかは猫の性格にも大きく依存するため、自宅皮下点滴自体を諦めることも多々あります。

また皮下点滴の頻度や量、また針の太さや、やり方まで実に様々なことが分かりました。点滴の量や頻度は腎臓病のステージではなく体格、脱水の程度、心機能によって調整しますので必ず担当の獣医師と相談して決定してください。

そのほかに39%の飼い主さんは猫の機嫌により予定通り点滴を行うことを断念したことがある、また57%の飼い主さんが点滴の後にご褒美をあげているなど興味深い数字も見つかりました。慢性腎臓病の治療は長期戦になることが多いですので、あまり肩を張らずに、無理しないことが大切です。次回のコラムは皮下点滴のやり方とコツについてまとめようと思います。

参考資料

・Survey of owner subcutaneous fluid practices in cats with chronic kidney disease. JFMS 2018

“猫の飼い主さんにアンケート「自宅で皮下点滴できてますか?」” への3件のコメント

  1. 50mlシリンジで犬にしてるんですが猫にもする時が来たら犬の様にはいかない気がしてたんですけど加圧バックとやらがあると知れて良かったです。

  2. 頻度と量ですが、最初の病院で240ccを毎日と指示され、多すぎるのではと危惧し、別の病院でセカンドオピニオンをいだいて2日に1回180ccに減らしました。
    アンケートをみると、やはり240は多すぎたのだと感じました。

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