糖尿病のについての概要はこちらでまとめています。日々の診療で稀にインスリンが全然効かない、重度のインスリン抵抗性がある糖尿病猫に遭遇します。多くの猫の糖尿病は体重1kg当たり0.1〜0.5単位のインスリンを打てば血糖値が下がるのですが、体重1kg当たり1〜1.5単位以上のインスリンが必要な場合を、重度の抵抗性があると判断します。

重度の糖尿病の場合は以下の3つの疾患を疑います。

①副腎皮質機能亢進症、②先端巨大症、③プロジェステロンの分泌(発情など)

このうち②の先端肥大症は脳の下垂体から分泌される成長ホルモンが過剰に分泌されてしまう病気です。成長ホルモンの影響で、猫の顎が大きくなったり顔が四角くなる特徴があります。ですが実際の顔つきの変化は些細なものなので、典型的な例以外は、見た目で判断することは困難です。

治療方法は外科的に下垂体を切除するか、放射線治療になりますが、いずれにしても高額な治療費と、リスクが避けられませんでした。今回紹介する論文は先端肥大症を伴う糖尿病に対して、カベルゴリンという薬が一定の効果を示したことを報告したものです。

1.カベルゴリンとは?

ドパミン作動薬といわれ、脳内でドパミンと同じ様な作用をあらわし、人ではパーキンソン病の手足の震えや筋肉の強張りを改善する薬として使用されています。ドパミンは成長ホルモンの分泌を抑える作用も持っているため、人の先端肥大症にも使用されます。

2.猫での治療成績は?

先端肥大症を伴う糖尿病の猫のうち35%(8/23)がインスリンが必要なくなりました。それ以外には成長ホルモンのマーカーである「IGF-1」、血糖値のマーカーである「フルクトサミン」、そしてインスリン投与量がいずれも有意に減少(=改善)しました。具体的には必要なインスリン量は1.3IU/kgだったものが、3ヶ月後には0.5IU/kgに減りました。

3.副作用は?

3頭の猫で症状を伴わない低血糖を経験しました。これはインスリン要求量が低下したにもかかわらず、投与量の調整が追いつかなかった、ため起こったと考えられます。3頭のうち2頭はその後インスリンが必要なくなりました。1頭の猫で毛色が変化したと報告しています。

4.その他に気になった記述

・糖尿病の猫の17.8~24.8%は先端肥大症が関与している可能がある

・IGF-1が1000ng/dl以上の猫は95%画像検査(CT,MRI)で下垂体のサイズが大きかった

・IGF-1が低下した猫に比べて、低下しなかった猫は下垂体のサイズがさらに大きかった

・65%の猫はカベルゴリンを投与してもIGF-1は下がらなかったが、多くは症状が改善した

・カベルゴリンは先端肥大症の中でも下垂体が比較的大きすぎない、IGF-1が1500ng/dl未満の猫で効果が出やすいかもしれない(人でもその傾向がある)

・カベルゴリンが糖尿病を制御するメカニズムは複雑であり、完全に解明されていない

・IRI:インスリン抵抗性インデックス=血中フルトサミン濃度×インスリン投与量(IU/Kg)。という指標を用いている

5.まとめ

手術や放射線治療が必要だった、先端肥大症を伴う糖尿病の新しい治療法の可能性が示唆されました。一方で、この論文は頭数が少なく副作用の評価が十分とは言えませんので、主治医とよく相談した上で使用するか判断しなくてはいけません。カベルゴリン自体は安価な薬ですし、IGF-1も測定費用も以前よりは下がっています。猫と飼い主さんにとってはインスリンが必要なくなるのはとても幸せなことなので、インスリンが効きづらい糖尿病の猫は先端肥大症を疑って一度測定してみると良いと思います。

 

参考資料

Miceli, D. D., García, J. D., Pompili, G. A., Rey Amunategui, J. P., Ferraris, S., Pignataro, O. P., & Guitelman, M. (2022). Cabergoline treatment in cats with diabetes mellitus and hypersomatotropism. Journal of Feline Medicine and Surgery, 1098612X221074924.

 

 

 

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