ISVPSというのは獣医師向けの卒業後教育を行なっている国際的な団体です。第3回の学習テーマは「猫の行動学」についてです。GPCertは国際的な修士課程に相当する資格で、オンラインで働きながら学習できるのが最大のメリットです。今回のモジュールは”猫の眼科学”です。
このモジュールでは、猫の眼科疾患を診る上での検査方法や、猫でよくみられる眼科疾患、猫のQOL(Quality of life)に影響を及ぼす疾患について学びました。
猫さんの受診理由として「目をしばしばさせている」「目が赤い」というのは比較的多く遭遇します。今回はモジュールの中で紹介されていた猫の眼に関わる病気について、いくつか簡単に紹介したいと思います。
<猫の結膜炎>
猫の目が赤い・涙がだらだらとでている・しばしばさせて開けづらそうにしているときに最も多くみられるのが「結膜炎」です。猫では感染性結膜炎が多く見られます。
原因となる病原体そその特徴、治療方法についてまとめてみました。
<猫のぶどう膜炎>
「ぶどう膜」とは眼の中にある虹彩・毛様体・脈絡膜という3つの構造物の総称です。3つのうちどこに炎症があるかによってぶどう膜炎は前部ぶどう膜炎・後部ぶどう膜炎・汎ぶどう膜炎(前部、後部ともに炎症がある状態)の3つに分けられます。
原因は感染や外傷、腫瘍など多岐に渡り、原因がわからない特発性のものもあります。症状としては眼の赤みや白い濁り、痛みがみられます。とくに眼の濁りについては、目に細い光をあてたときに、霧の中で車のヘッドライトをつけたときのようにぼんやりと光る様子がみられます(通常は光の輪郭がはっきりと見えます)。
また、眼が赤い・痛がっているほかに
- 縮瞳(猫の眼が細くなる)
- 眼圧の低下(眼圧の測定方法はこちら)
がみられた際にはぶどう膜炎が強く疑われます。
強い痛みがみられるのは前部ぶどう膜炎ですが、後部ぶどう膜炎や汎ぶどう膜炎は痛みがあまりなくても失明する恐れがあります。治療法は原因にもよるため様々ですが、重度の場合は炎症を止めるステロイドやNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)を使用することがあります。
<猫の緑内障>
緑内障とは、眼の中の圧力(眼圧)が上がることで網膜や視神経がダメージを受け、最終的には視覚を失ってしまう病気です。かなりの痛みも伴います。猫では稀な疾患とされていますが、病気の進行がゆっくりでわかりづらいため、気づいたときにはかなり進行していることが多いです。
緑内障は大きく分けて原発性と二次性に分けられます。二次性緑内障のほうがよくみられ、眼の腫瘍やぶどう膜炎が悪化することによって起こります。
症状としては、光を当てても瞳孔が閉じない、角膜の浮腫、眼球突出、水晶体脱臼、網膜の萎縮などが見られます。犬でよくみられる結膜の充血やまぶたの痙攣は猫ではほとんど見られず、そのため早めに変化に気づくことが難しいとされています。健康診断の際に年に1回チェックしておくと早めに対処できるかもしれません。
猫の緑内障の治療は、眼圧を下げてできるかぎり視覚を維持し、目の痛みや不快感を減らすことがゴールになります。治療は主に点眼薬で行います。点眼薬での治療がうまくいかない場合には手術が行われることがあります。
<猫の虹彩色素沈着>
猫の虹彩(猫の目の色をきめている部分)に時折茶色い斑点が生じることがあります。加齢性の変化でも起こることがありますが、中には「メラノーマ」という腫瘍が隠れていることがあります。虹彩色素沈着は大きく以下のように分けて考えることができます。
・虹彩メラノーシス:虹彩に黒い色素沈着が生じますが、健康な猫でもみられます。この時点では色素が虹彩表面に限局しており、虹彩実質(虹彩の中)には広がっていません。見た目の特徴として、局所的またはびまん性の、平たく、茶色い斑点が虹彩に見られます。
・虹彩メラノーマ:メラノーシスが進行し悪性腫瘍になった状態のことを指します。このとき色素は虹彩実質にまで入り込んでしまいます。このとき以下のような特徴がみられることがあります
- 虹彩の中に盛り上がった腫瘤のような領域が見える
- 瞳孔を開いたり閉じたりがうまくできなくなる
- 虹彩表面がビロードのようにみえる
- 目の中に色素細胞が漏れ出たり浮いていたりする
- 眼圧の上昇
確定診断をするには病理検査が必要ですが、細胞診検査という方法では虹彩の一部しかとれないため、検体がとれた箇所で腫瘍細胞が見つからなかった場合良性か悪性かの判断ができません。
また、虹彩メラノーマの治療法はほとんどなく、眼球摘出が唯一の治療法になります。変化している部分が小さく、また若い猫さんの場合、必ずしも虹彩メラノーマであるとは言えない中でこのような治療法をとるのは現実的ではないでしょう。そのため、虹彩に茶色い斑点ができた・増えてきたと気になる際には、動物病院で定期的に眼圧を測定し、場合によっては眼の超音波検査を行いながら経過観察をしていくことが重要です。
次回の学習テーマは「猫の手術と麻酔管理」について、その中でも猫の麻酔管理について詳しく紹介します。
文章:多賀 佳(獣医師)