猫でよく相談される病気のアウトライン「どんな病気なのか」「どういう治療があるのか」を解説します。今回は猫の食物アレルギーです。この病気は以下の2つのタイプに分けることができます。

①皮膚が赤くなり痒みを伴う”アレルギー性皮膚炎”

②嘔吐や下痢などの症状を繰り返す”アレルギー性胃腸炎”

この中でどちらがメインかというと①アレルギー性皮膚炎であり、獣医学の参考書でもアレルギーは皮膚科の章に分類されることがほとんどです。しかし猫では若い猫の慢性的な下痢や嘔吐、血便が多くみられアレルギー性胃腸炎が疑われるケースが増えて来ています。

また皮膚症状を示すアレルギーのうち10%が嘔吐や下痢などの症状を併発しているという報告があるように合併していることもあります。

若い猫の下痢や血便などの症状がある場合は寄生虫などの感染症が原因になっていることが多いですが、便検査では全くの正常、そして順調に体重が増えて元気にも関わらず下痢や血便は改善されない、このようなケースの猫が多いです。

インターネットでは〇〇がアレルギーを起こしやすい、起こしにくいなどが書かれていますが実際にはどのような食物がアレルギーを起こすのでしょうか。

 

1.猫の食物アレルギーの概要 2.診断 3.治療 4.予防

 

1.まずはアレルギーについて

猫のアレルギーの概略。お互いの原因が重複している可能性もある

アレルギーとは「あるものに対して過敏に反応する状態」で食物の場合は、食物に含まれるたんぱく質が原因になっており、この原因をアレルゲンと呼びます。

猫のアレルゲンは「ノミ」「食物」そして「非ノミ非食物アレルギー(アトピー性皮膚炎)」の3つに分けることができます。

非ノミ非食物アレルギーというのは簡単に言ってしまうと「原因不明」です。ハウスダストなど生活環境で0にできないものなどに反応しているのではないかと考えられています。

非ノミ非食物アレルギーは人のアトピー性皮膚炎に似ていますが、猫ではアトピー性皮膚炎の定義にマッチしない部分があり、あえて非ノミ非食物アレルギーという呼び方になっています。

1.1.1猫がアトピー性皮膚炎の定義にマッチしない理由

人や犬のアトピー性皮膚炎の定義が猫にマッチしない大きな理由は以下の2つです。ただし、わかり易く説明するために猫でもアトピーという用語を使う獣医師もいますし、アトピー”様”皮膚炎と表現されることもあります。

・遺伝性が不明:アトピー素因といって、家族にアトピーの人がいると発症率が高いことが分かっています。しかし猫では遺伝性が不明です。

・IgEの関与が不明:IgEというのは免疫タンパクで、アレルギーの発症に重要な役割を担っています。IgE抗体が高いこともアトピー素因の1つです。しかし猫ではIgE抗体を正確に測定することができないので、IgEが病気にどの程度関与しているのか不明です。

1.1アレルギー疾患の発症時期と症状

発症時期は人間のように若く生後6ヶ月〜2歳までがピークですが、高齢になってからも発症する場合もあります。皮膚では特に顔に症状が現れることが多く耳や目の上、それ以外では太もも、お腹などに赤み(発赤)と痒み、ブツブツ(発疹)がでます。両耳など左右対称に現れるのが特徴的です。アレルギー性胃腸炎の場合は嘔吐、軟便、血便などです。

1.2食物アレルギーをもつ猫の割合

どのくらいの猫がアレルギーを持っているかは不明です。ある報告では皮膚病の猫のうち食物アレルギーが関与していたのは1〜6%と報告されています。人の食物アレルギーの有病率はある研究で12〜13%(自己申告)と報告されていますが、それよりは少ないように感じます。

また猫の品種による発症率の違いはないと報告されていますが、個人的に食物アレルギー様の慢性的な下痢、血便を起こしている猫は純血種に多い印象を受けます。人のアレルギー疾患は先進国で増え続けており、これを衛生仮説と呼ばれます。

衛生仮説:乳幼児期の衛生環境が免疫系の発達へ影響を及ぼし、アレルギー発症と関連しているという仮説。1人っこにアレルギーが多いことがわかり、兄弟がいると雑菌に接触することが多くアレルギーになりにくいのではないかと考えられ提唱されました。その後先進国ではアレルギー患者が多いこともあり、クリーンすぎる環境がアレルギーの増加に関与しているかもしれないという仮説。

1.3猫に多いアレルゲンは何か

人のアレルギーでは鶏卵、牛乳、小麦で原因の7割以上を占めますが、猫ではどうでしょう。猫の食物アレルギーの原因(アレルゲン)は肉に多いです。特にキャットフードに使われることの多い牛肉、魚肉、鶏肉、ラム肉が多く、それ以外では乳製品、卵、小麦・大麦などが報告されています。

また古い論文では魚が特にアレルギーの原因になっているという報告があること、また魚はヒスタミンの元になる成分を多く含むことから、魚を使用しているフードを避けた方が良いという意見の獣医師もいます。

アレルゲンとして多く報告されるものはその地域によって異なります。地域ごとに多く流通する食材は、猫も口にすることが多くアレルゲンとして報告されやすいからです。

上記の食物が多いですが、コーングルテン、ポーク、羊、その他添加物なども報告があります。また「米も穀物なのでアレルギーを起こしやすい」という記述を度々拝見しますがこれは間違た情報です。後述のアレルギー用の療法食でも米はよく使われます。

 

2.診断

アレルギーの診断は他の病気がないことを確認して行くことから始まります。皮膚炎の場合は、ノミ、疥癬、真菌などの感染症の検査をします。具体的には被毛を顕微鏡でみたり、真菌培養検査になります。

胃腸炎の場合はやはり便検査や超音波エコー検査で下痢や嘔吐を起こす原因がないか調べます。また血液検査の好酸球はアレルギー疾患で上昇することがあります。

上記の検査で異常がない場合、年齢や症状が出ている場所などから総合的にアレルギー性皮膚炎と診断します。プレドニゾロン(いわゆるステロイド)を処方し、症状の消失をもって診断されることもあります。

アレルギーであることがわかったら、除去食・負荷食試験を行い「食物アレルギー」か「非ノミ非食物アレルギー(アトピー)」か判断します。

 

2.1 除去食・負荷食試験

検査といっても血液をとるようなものではなく、食事を替えて反応をみるだけです。猫は抗体検査などの精度が悪いので(後述)、食物アレルギーを診断できるのはこの試験だけです。

2.1.1除去食試験

これまで食べてきたフード、おやつをリストアップしそれ以外の材料を用いたフードを与えましょう。特にタンパク質源と炭水化物源が大切です。除去食は最低でも6週間、教科書的には12週間続けて結果を判断しなくていけません。その間は他のものを食べるのは我慢しましょう。

例えば上記のような成分のキャットフードを与えていた場合、タンパク質源は赤字の家禽類とサーモン、炭水化物源は青字のトウモロコシ、コムギ、ソルガム(穀類の1種)です。それが入っていないフードを獣医師と相談しながら探しましょう。

この場合はタンパク質源を鶏肉と魚以外、、炭水化物源をトウモロコシとコムギ以外のものを探しましょう。

2.1.2 除去食に適したフード

①原材料が少ない

除去試験用の食事はできるだけ原材料が少ないものが好ましいです。上記のように原材料が多いフードだとアレルギーを起こしているのがチキンなのかサーモンなのか分かりません。そして卵や乳製品が含まれていない方が良いでしょう。

②珍しい食材

赤いアレルゲンには反応するが、緑は形が違うので抗体がくっつかない

猫ではどの食材に対してアレルギーを持っているかわかりませんので、これまでほとんど食べた経験がないものの方が効果が期待されます。通常のキャットフードには使われないタンパク質を「新奇タンパク」と呼びます。新奇タンパクの代表的なものがダック、シカなどです。

また小麦や芋などの炭水化物にもわずかにタンパク質を含んでおり、稀にアレルギーの原因になることがあります。アレルギーが疑われる場合には炭水化物源も同時に変えましょう。これまでのキャットフードと比べ同一のものが入っていないものが望ましいです。

2.1.3 国内外で手に入る除去食に適したフード

黒字:国内で購入可能 赤字:海外から購入可能

除去食に適したフードはタンパク源を厳選しているため「セレクトプロテイン」「リミテッドプロテイン」などと名前がつけられています。残念ながら国内で入手可能なキャットフードは種類が限られています。海外から取り寄せることもできますが、コストと賞味期限が気になります。

※ロイヤルカナンのセレクトプロテインは療法食です。必ずかかりつけの獣医師の指導のもと与えてください。

2.1.4 交差反応

牛乳にアレルギーがある場合は山羊の乳でも反応が出ることがあり、これを交差反応といいます。猫の場合はチキンが原因の場合ダックとターキー、ビーフが原因の場合同じ偶蹄類のシカ、羊は交差反応が出る可能性があります。

これまでチキンがメインのフードを食べて来た猫はシカ、ビーフメインのフードだった場合はダックなどにするとよりうまくいくかもしれません。

 

2.2 負荷食試験

もし除去食を与えて症状が改善したらとても嬉しいですね。しかし、そのあと元の食事に戻し、症状の再発するかを確認するのが負荷食試験です。ここまで行って初めて食物アレルギーと診断されます。

多くの飼い主さんは「せっかく良くなったのに…戻したくない」と感じることでしょう。しかし偶然食事を変えたタイミングで症状が緩和されているだけだったり、他の要因で症状が治ったかもしれません。アレルギーは年齢を重ねると症状が和らぐことがあるので、食事を探し回っている間に年齢を重ねて症状が消えることもあります。

負荷食試験は一見かわいそうですが、診断をうやむやにすると効果がないかもしれない除去食しか食べられません。今後の猫の人生を考えると、どの食物が本当にアレルギーを起こしているか確認し、色々なフードを選べる方がより幸せになると思います。

2.3その他のアレルギー検査

人のアレルギーの検査というと血液検査で抗体測定(特異的IgE抗体)や、皮膚に針を刺して腫れるかみる検査(皮膚プリックテスト)が行われています。しかしこれらの検査は猫では精度が不十分であり、全く意味がないことはないですが、この結果を元に療法食を選んでもうまくいかないことが多いです。ハウスダストなどの項目が非常に高いと食物アレルギーよりアトピー性皮膚炎の可能性が高いなどの判断材料にはなるかもしれません。

3治療

治療はアレルギーの原因になっている食物を摂取しないことになります。もし除去試験を複数回行い、それでも症状が改善しない場合はアトピー性皮膚炎の可能性が高いでしょう。また”アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの併発”もあり、この場合は除去食を食べている間は少しだけ良くなりますが完全には治りません。ステロイド(プレドニゾロン)や免疫抑制剤、サプリメントなどを食事と併用して症状を抑えていきます。

3.1加水分解タンパク食という選択肢

タンパク質がアミノ酸に分解される。アミノ酸が数個繋がったものをペプチドと呼ぶ

タンパク質はアミノ酸という成分が鎖のように繋がってできています。タンパク質が胃や小腸に入ると消化酵素の働きで鎖が切られ、アミノ酸まで分解されます。加水分解タンパクとは、すでに消化酵素を用いて分解された状態のタンパク質で消化性が高いという特性があります。

同じ赤いアレルゲンでも分解することでアレルギー反応を抑えることができる

加水分解をすることによってアレルゲンが小さくなり、炎症反応をおこしにくくなります。欠点としてはIgE抗体が関与しない食物アレルギー(IgE非介在性アレルギー)に対する効果は期待できない点です。加水分解食はロイヤルカナン低分子プロテイン、ヒルズz/d、ブルーバッファローHFなどが挙げられます。

※IgE非介在性食物アレルギー:近年注目されているIgE抗体とは関係なく、遅延型とも言われます。リンパ球が関係していると考えられています。猫では症状の発症まで数日かかることが多いのでむしろこちらの方が多いかもしれません。

3.2ホームメイド食という選択肢

上記の通り国内で購入可能な食事は限られています。もし手間と時間はかかりますが、手作りフードという選択肢もあります。これであれば好きな材料を揃えて作ることができるでしょう。

猫はホームメイドご飯を作るのが難しい動物の1つです。必ず栄養学に精通した獣医師と相談しながらレシピを作りましょう。必須の栄養素が不足すると心臓が悪くなってしまうなど非常な危険な状態に陥ります。通常の食材にサプリメントでバランスをとります。英語ですが、下記のサイトは米国の獣医栄養学専門医が監修しており、いくつかのレシピを見ることができます。療法食のページは獣医師の認証がないと入ることができません。

Balance IT

3.3アレルギー性胃腸炎の治療

すぐに見て治療効果がわかる皮膚の病気と比べて、下痢や嘔吐は効果が判定し辛いところがあります。また食物アレルギーと他の病気を併発していることもあるため、部分的に症状が改善することも多いでしょう。

3.1.2食物不耐性

アレルギーの他に食物不耐性という病気があります。これは「非アレルギー性食物過敏症」と言い、ある食物を代謝するのが苦手な体質を指します。最近ではテニスのジョコビッチ選手がグルテンに対して免疫反応をおこしてしまうセリアック病が判明し一般にも知られるようになりました。

猫でもグルテンが消化器症状の原因になっていた報告はありますが、どのくらいの割合で発症するかは不明です。また食物アレルギー出なくても消化率の高い加水分解食などに切り替えると症状が改善することがあります。炎症性腸症などの病気にもある程度効果があるので、高齢の猫では特に注意です。

4.予防

現時点では猫の食物アレルギーを予防する方法は確立されていません。子猫時代は色々なものを食べさせて色々な食材を食べておくと、将来食物アレルギーが発症しても新しい食材のフードを食べてくれます。猫は食に対してこだわりが強いので「療法食を食べない」という問題が治療の壁になることが多いです。猫の味覚の好みは生後4ヶ月以内に決まるので、成猫になる前にドライ、ウェット両方食べれるようにしておきましょう。

 

5.まとめ

猫の食物アレルギーは食べてすぐに蕁麻疹が出るようなものは少なく数日食べていると皮膚が痒くなったり、嘔吐や下痢が出てしまうタイプのものが多いです。詳しいメカニズムはまだ不明なことが多く、残念ながら猫のアレルギー用フードも犬に比べると凄く少ないです。

今回のコラムに書いてあることは猫の食物アレルギーの一部にすぎません。上記のように実は炎症性腸炎などの病気が隠れている可能性もあり、愛猫のことを思ってやったことがむしろ悪い影響を与えてしまう危険性があります。手作り食を作るときはもちろんですが、食物アレルギーを疑う場合は必ず獣医師と相談しながらフードを選びましょう。

参考資料

・SMALL ANIMAL DERMATOLOGY Vol.11

・Encyclopedia of Feline Clinical Nutrition

・Food Allergy in the cat. A diagnosis by elimination. JSFM(2010)

・食物アレルギー診療ガイドライン2016

 

 

 

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