JapaneseBobtailBlueEyedMi-ke
ジャパニーズボブテイル (英語版 wikipediaより)。短いしっぽに顔と尻尾の部分だけに模様が入っているミケが特に人気。Mi-keという言葉はアメリカでも通じます。

猫のチャームポイントであるしっぽ。よく見ると猫によって結構違いがありますよね。特に日本には「鍵しっぽ」と呼ばれるしっぽが曲がった猫が多く、私が昔飼っていた白猫のチロも短いしっぽでした。この短いしっぽは海外の方にとっては珍しく、海外の獣医師から「日本の猫はしっぽが短いんでしょ?」と聞かれることがありました。今回は猫のしっぽについて、解説をしていきます。

・猫のしっぽの解剖

骨、筋肉:尾椎と呼ばれる骨が連なっています。尾椎の数は猫によって異なりますが、20~24個あります。そして尻尾の長さは20〜30cmの範囲である事がほとんどでしょう。そして、骨を覆う筋肉により、細かいバランス調整を行うことができます。

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猫の足と尻尾のレントゲン写真。まっすぐと伸びる尾椎

血管、神経:しっぽの神経は太い脊髄と直接繋がっているため非常に敏感です。そのため、基本的に猫は尻尾を触れられることを嫌がります。人間は腕で血圧を測りますが、猫は尻尾でも測ることができます。尻尾の腹側(下側)に正中尾動脈という血管が流れており、そこに合わせてバンドを巻きます。

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尻尾で血圧を測っている猫。緊張すると血圧が上がるので頭にはタオルをかけて測ります。

・しっぽの役割

私たち人間の尻尾は退化しました。猫にとって尻尾の役割としては、①バランスをとる、②感情を表現する、の2つです。猫は細い棒の上でも決してバランスを失わないですし、高低差のあるジャンプも難なくこなすのは長い尻尾も一役買っているんですね。

感情については以下の5パターンがわかっています。

尻尾をピンと立てる:これは好意を示していると考えられています。子猫が親猫に近づく時にみられる行動です。猫同士では尻尾を立てた猫が近づいてくると、それを受けて尻尾を立てて返事をします。そのため挨拶のようなものではないかと解釈することもできます。

尻尾の毛を逆立てる:これは威嚇のサインです。尻尾を膨らませ自分を大きく見せています。この状態の猫に近づくのは非常に危険です。「たぬきしっぽ」なんて呼ばれることもあります。

尻尾を足の中にしまう:恐怖のため萎縮しています。自分より強いオスと対面した時に行い、降参を意味します。その他には雷などの大きな音に驚いている時にも見られます。

尻尾をバタバタ:いらつきを意味します。人間の貧乏ゆすりに近いかもしれません。犬は尻尾を振るのは嬉しさの感情表現ですが、猫では真逆なので注意しましょう。

尻尾を前足に巻きつける:安心を意味します。腰を下ろし尻尾を巻き付けているとすぐには動けません。つまり、しばらくゆっくりしよう、という意思を感じます。

・尻尾の変形

日本では馴染みのある「鍵しっぽ」ですが、欧米ではあまり見られません。よほど珍しかったのでしょうか、1960年代に日本に滞在していたアメリカ人が、尻尾の曲がった猫をアメリカへ送ったという記録があります。その猫からジャパニーズボブテイルという猫種が確立されました。

その他に尻尾が短い猫種はイギリスのマン島出身のマンクス、千島列島出身のクリリアンボブテイルがいます。ジャパニーズボブテイルを含み、いずれも島出身です。これは、尻尾の突然変異が島などの限られた環境で発生すれば、淘汰されず遺伝子が残りやすいためだと考えられます。

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短いしっぽの猫のレントゲン写真。

 

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短いしっぽの猫のレントゲン写真。1つ1つの尾椎も短く、先端が変形している。
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1つ1つの尾椎の長さは正常に近いが、先端が折れ曲がっている。
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1つ1つの尾椎の長さは正常に近いが、先端が折れ曲がっている。

しっぽが曲がっている場所は、半椎骨(hemivertebrae)という小さい骨が入っています。よく見ると、レントゲン写真でも半椎骨の形を確認することができます。

マンクスとジャパニーズボブテイルの遺伝的な違い

両親から遺伝子を1つづもらい、その組み合わせによって子供の特徴が決まることがわかっています。遺伝子の種類はアルファベットの大文字と小文字を使って表現されます。

・M,m:マンクスの遺伝子。マンクスの中でも、尻尾が完全にないランピー、短い尻尾があるスタンピー、尻尾が曲がっているテイリーがあります。この遺伝子は優性遺伝なのでどちらか一方の猫がM遺伝子を持っていれば子供のしっぽが短くなる可能性があります。しかし、M遺伝子が2つ揃ってしまうと、マンクス症候群といって、死産を起こしてしまいます。また尻尾が完全にないランピーの交配では、M遺伝子が1つでも、腰椎まで変形を起こし、排便ができなかったり、うまく歩けなくなってしまう危険性があります。

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Mが一つであればボブテイルになるが、2つ重なると死産、もしくは命に関わる病気になってしまう。ブリーディングには細心の注意が必要です。

・J,j:ジャパニーズボブテイルの尻尾の遺伝子。こちらも優性遺伝のため、両親のどちらかがこの遺伝子を持っていると鍵しっぽの子猫が生まれる可能性があります。マンクスとの違いはJ遺伝子が2つあっても健康上問題になることは殆どありません。

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ジャパニーズボブテイルはJ遺伝子が2つあっても健康体で生まれてくるため、当初は劣性遺伝だと考えられていましたが。しかし、その後の研究により優勢であることがわかりました。同じ様にしっぽが短くなるマンクスとジャパニーズボブテイルですが、異なる遺伝子が作用していたんですね。

長崎の猫の話

九州、特に長崎の猫は鍵しっぽ率が高いです。これまで何度か調査されていますが、いずれの調査も70%以上の猫が鍵しっぽであると報告されています。長崎で鍵しっぽ率が高い理由は2つ考えられます。

①島が多いから説:しっぽが短くなる突然変異は、バランス能力という点では不利に働くはずです。多くの猫の中に入れば自然に淘汰されてしまいますが、島のように隔離された環境であれば、集団の中で残る可能性が高まります。長崎は日本の中でも島が多い(日本1位、971個)ため鍵しっぽ遺伝子が残っていると考えられます。

②出島から入った説:江戸幕府、鎖国時代に、唯一貿易を行っていたのが長崎の人口島、出島でした。猫はネズミ対策として船に乗って世界中に広がったように、海外の船から鍵しっぽ遺伝子が多く入ってきたのかもしれません。

まとめ

日本人にとって鍵しっぽの猫は珍しくありません。地域によっては、鍵しっぽは幸運の猫として重宝されたと聞きます。そういった文化的な部分も、今後調べて追記できたらと思います。

意識して野良猫を見ていると、本当に鍵しっぽは多いです。どちらかの親が鍵しっぽであれば子供もそうなる可能性がある(優勢遺伝)ので、日本のような島国ではあっという間に広がりました。J遺伝子と名前がついてますが、この遺伝子自体は東南アジアから来ている可能性が高いようです。

最近私が飼いはじめた猫も鍵しっぽでした。触るとやはり嫌がります。鍵しっぽの曲がる位置や長さはみんなそれぞれです。愛猫の曲がり具合は飼い主にとって特別な形に見えます。

参考

・Cat Bible i-5 Publishing

・DNA mutations of the cat  JFSM

・Japanese Bobtail: vertebral morphology and genetic characterization of an established cat breed

 

“猫のしっぽについてイロイロ” への4件のコメント

  1. 「鍵シッポは骨異状」と言われますが、四肢に骨異状を発症している鍵シッポの猫は殆ど見当たりません。これは至って当然の結果だと思います。鍵シッポは野良に多く、そういう猫に骨異状があった場合は母猫に育児放棄される可能性も高く自然の中では生き残れないでしょうから。必然的に健康な鍵シッポの猫だけが残ると考えれます。

  2. リンク先はメンバーでないと見れません。またメンバー登録しようにもクリックしても同じページに戻り、Figure5は見れません。日本からでは弾かれてしまうのかもしれませんね。

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