投薬がうまくできないという悩みは猫医療においてしばしば遭遇する問題です。本ブログでも投薬のコツについてまとめましたが、そもそも薬を猫が好きな味にして、猫が進んで食べてくれたらどんなに治療が楽になるだろうと日々思っています。
昔は猫用の薬などありませんでしたが、製薬会社でも小動物部門(犬猫や鳥など)ができ、さらに猫用の薬というものも徐々に増えています。さらに猫に投薬しやすい薬を表彰する「easy to give」というアワードがISFM(国際猫医学会)で毎年行われていますので、いくつか受賞した薬を紹介します。
・メタカム(2007年 ベーリンガー)
有効成分のメロキシカムはいわゆる痛み止め、アスピリンなどと同じNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の1つです。メタカムは当時は珍しい液体の薬で、さらに猫が好む味付けもしています。手術の後の痛み止め目的などで処方しますが、むしろ好んで舐めていたといれるほど、今回紹介する薬の中でもトップクラスの嗜好性だと感じます。
・コンベニア(2007年 ゾエティス)
有効成分のセフォベシンナトリウムは抗生物質の1つで、一度注射すると2週間効果が持続するため、家で薬をのませる必要がありません。コンベニアは第二次選択薬(他の抗生物質が無効の場合に使用する)ですが、その特性からやむなく、2度と捕まらない可能性ある野良猫の外傷などでも使われることがあります。家で投薬をしなくていいという究極のeasy to giveですが、安易に使いすぎないよう注意が必要です。
・フォルテコール(2010年 ノバルティス)
有効成分のベナゼプリル塩酸塩は血管拡張作用があり、高血圧症や慢性腎臓病でのタンパク尿の漏出を抑える効果があります。フォルテコールは動物用の薬では珍しく、ビーフ味とバニラ味の2つから選ぶことができます。猫ってバニラ好きなんですか?とよく質問されますが、意外とバニラ味の方を好む猫も多いです。
・アトピカ 内用液(2012年 ノバルティス)
有効成分のシクロスポリンは免疫抑制作用があり、アレルギー性皮膚炎などの治療に使用されます。猫用アトピカとして体重あたりの量を微調整できるよう液体になりました。ただ、液体でも苦みがあるの好まない猫がいるためカプセルタイプも併用し、どちらが飲ませやすいか選んでもらっています。
・セミントラ(2013年 ベーリンガー )
有効成分のテルミサルタンは血管拡張作用があり、高血圧症のコントロールや慢性腎臓病でのタンパク尿の漏出を抑える効果があります。こちらも液状で、食事に混ぜてもほとんど気にしない猫がほとんどです。
・ブラベクトスポット猫用 (2017年 MSDアニマルヘルス)
有効成分のフルララネルはノミ、マダニの駆虫薬です。背中に薬をたらすスポットタイプのノミ予防薬はいくつか”easy to give”に選ばれているのですが、ブラベクトの特徴は1回の投薬で3ヶ月効果が持続することです。特に近年マダニはSFTS(重症熱性血小板減少症)を媒介することで注目されており、確実な効果・持続が期待されます。
まとめ
猫は犬と違い薬に気づくとかたくなに飲み込まなくなってしまいます。これは猫が変なものは口にしないという、賢さの証ですが、治療においては1つのハードルになってしまっています。各製薬メーカーもそのことは熟知しており、徐々に嗜好性が高い薬が増えてきました。もし愛猫が使っている薬が飲ませ辛い場合は”easy to give”な薬がないか、動物病院にきいてみるのも良いでしょう。
参考資料
・easy to give : international cat care
最新の情報を、わかりやすく丁寧にご紹介頂きありがとうございます。
現在かかりつけの動物病院では「コンベニア は副作用もなく、ずっと投与しても安心」との事で、高齢猫さんの歯肉炎の炎症を抑える為に、1年ぐらい前から月に2回ほど投与治療をしています。
質問ですが「コンベニア 」は安易に使用は控えた方がよいとの事ですが、どのくらいの頻度なら使用は
体に負担なく安全なのでしょうか?
是非、先生の見解をお伺いしたく存じます。
よろしくお願い致します。
「安易に〜」というのは体への安全性ではなく、新しい抗生物質(第二次選択薬)なので、できるだけ従来の抗生物質を使いましょう、という意味です。しかし実際には本文にあるように、口内炎で薬が飲み辛い猫や、捕まらない猫にやむなく使用することはしばしばあります。コンベニア自体は安全性の高い薬だと思います。