肥満タイプや病気のリスクなどを調べる遺伝子検査が一般的になっていますが、猫でも同じような検査をすることができます。UCデービスの獣医学科にある獣医遺伝子研究所(Veterinary Genetics Laboratory)ではメインクーンの心臓病(HCM)や、ペルシャの腎臓病(PKD)を唾液と口の中の細胞をサンプルすることで調べることができます。検査項目の中に”猫の祖先”というものがあり、前々から気になっていたので、私の猫の唾液をサンプルし、提出してみました。ちなみに検査費用は120ドルでした。
“猫の祖先”検査はある程度の量の唾液が必要なので、専用のブラシが必要になります。上記のUCデービスのサイトから、検査を申請すると専用のブラシが送られてきます。
このブラシを猫の口の中に入れて歯茎や頬の内側をブラッシングします。コツは採取する前1時間は食事も水もとらないこと、またブラシを8〜10回動かし、わずかに乾燥させて保存します。これを3本行います。
唾液だけでなく細胞をとらなければいけないので、歯肉側と頬側にブラシを擦り付けて採取しましょう。取れた検体を研究所に送ります。結果が出るまで8~10週間かかります。返ってきた検査結果がこちらです↓
黄色太線が示すようにカツオは東アジアにルーツを持っていることがわかりました。実はカツオは小笠原諸島の森出身で、保護されたところを先輩獣医師からもらった経緯があります。唾液からカツオが東アジアの島出身だということが当てられてしまいました。
それ以外にも毛色の遺伝子なども調べられます。英語の箇所を①〜④に分けて解説していきます。
①地域
提出された猫のDNAを8箇所の地域からなる42の猫の集団を基にしたデータベースと比較しました。その地域とはヨーロッパ、東地中海、エジプト、アラビア海、イラン/イラク、インド、東アジア、そして東南アジアの8個です。また29の猫種と類似点の有無をチェックしています。29の猫種は以下になります。
ヨーロッパ:アビシニアン、アメリカン・ショートヘア、ベンガル、ブリティッシュ・ショートヘア、シャルトリュー、コーニッシュレックス、エジプシャン・マゥ、エキゾチック・ショートヘア、ジャパニーズボブテイル、メイン・クーン、マンクス、ノルウェイジャン・フォレスト・キャット、ペルシャ、ラグドール、スコティッシュ・フォールド、サイベリアン、スフィンクス
東南アジア:オシキャット、バーマン、バーミーズ、ハバナ・ブラウン、コラット、ロシアン・ブルー、シャム、シンガプーラ、オーストラリアン・ミスト
東地中海;ターキッシュアンゴラ、ターキッシュバン
アラビア海:ソコケ
②表現型(フェノタイプ)
表現型とは遺伝子用語で、ここでは毛の長さや色を決定する遺伝子を持っているか否かを調べています。猫の毛色の遺伝についてはこちらのページで少し詳しく解説しています→雄の三毛猫、パステルカラーの猫
アグーチ(Agouti):アグーチとは、1本の毛がしま柄になっていることを意味します。反対にノンアグーチは柄がないという意味で、黒猫やロシアンブルーのような柄になります。アグーチ遺伝子Aは1個持っていれば、しま柄になりますので、A/aであるカツオはアグーチが発現しているので縞柄です。
ブラウン(Brown):ブラウンとは猫の茶色の部分の色の種類を示します。Bが一番濃い茶色で、bはチョコレート、b1はシナモンと呼ばれます。チョコレートやシナモンはアビシニアンで有名で、少し明るい色になります。ブラウン遺伝子はBが優勢ですので、B/bのカツオは濃い茶色(もっとも猫で一般的な茶色)です。
カラーポイント(Colorpoint): ポイントというのは耳や鼻先だけ柄がついていることを意味します。シャムやラグドールが有名でcsという遺伝子になります。カラーポイント遺伝子がCの場合、一般的な猫のように全身に柄がつきフルカラーと呼ばれCになります。Cは優勢ですので、C/Cのカツオはもちろんフルカラーです。
ダイリュート(Dilute):ダイリュート(d)とは日本語で”薄める”という意味です。ダイリュートで有名なのはロシアン・ブルーで、黒が薄くなりグレイの毛色を持っています。猫の世界ではあのグレイ色をブルーと呼ぶため、ロシアン・グレイではなくロシアン・ブルーなのです。薄まっていない遺伝子Dの方が優勢なのでd/d以外の猫は一般的な色になります。カツオはD/Dなので、濃い茶色の被毛をしています。ダイリュートはこちらでより詳しく解説しています。
MC1R(メラノコルチン1受容体 Melanocortin 1 Recepter):色素であるメラニンを作る細胞の中にあるタンパク質です。人間では赤毛、馬で栗毛が発生する原因の遺伝子として知られます。猫ではここがe/eだとノルウェージャン・フォレスト・キャットのアンバー(琥珀)という色と関係していると考えられています。カツオはE/Eですのでもちろんアンバーではありません。
長毛(Long Hair):文字通り毛が長くなる遺伝子です。長毛の遺伝子は複数ありM1:ラグドール、M2:ノルウェイジャン・フォレスト・キャット、M3:ラグドールとメイン・クーン、そしてM4は最も古くペルシャなどの全ての長毛猫種でみられる遺伝子です。なんとカツオはN/M4と1つ長毛遺伝子を持っていました。長毛遺伝子は2つ揃わないと長毛にならないため、カツオは短毛です。
コーニッシュ(Cornish):コーニッシュレックスのカールした被毛の遺伝子です。もちろんカツオはN/Nで持っていません。
デボン(Devon):デボンレックスのカールした被毛の遺伝子です。もちろんカツオはN/Nで持っていません。
スフィンクス(Sphynx):スフィンクスの無毛の遺伝子です。もちろんカツオはN/Nで持っていません。
セルカーク・レックス(Selkirk Rex):セルカーク・レックスのカールした被毛の遺伝子です。もちろんカツオはN/Nで持っていません。
スコティッシュ・フォールド(Scottish Fold):スコティッシュ・フォールドの耳折れ遺伝子です。もちろんカツオはN/Nで持っていません。
③表現型の情報まとめ
②の結果をまとめています。直訳すると以下のようになります
“カツオは短毛の縞柄のねこですが、ノンアグーチの遺伝子を1つ持っています。彼は最も古く一般的な長毛遺伝子M4を持っています。さらにカツオはチョコレートカラーの遺伝子を1つ持っています。”
④品種の情報
上記の29種の品種のデータベースと照会しましたが、カツオはどれにも類縁性はなかったようです。
まとめ
今回猫のルーツを調べる遺伝子検査を行いましたが、唾液と細胞を提出するだけでうちの猫がアジア出身で、短毛の縞柄の猫ということまで全て当たっていました。これは遺伝学を学んでいる人からすると当然のことなのでしょうが、改めて検査精度の高さを感じました。日本の猫でも西洋の血が入っていそうな外見の猫で調べると面白いかもしれません。ただし、この検査は猫種を特定する検査ではないので注意が必要です。この技術は既にいくつかの猫の病気のリスクを調べることに応用されていますが、まだまだ病気の種類が限定的です。より健康上価値のある検査ができるようになることを期待します。
参考資料:UC DAVIS Veterinary Genetic Laboratory HP
はじめまして
猫の遺伝について知りたくて検索していたらこちらにたどり着きました
ルーツというタグをみたのですが、こちらの検査を受けたいのですが、英語がわからず(^^;
簡単に教えて頂けたらと思いました
日本の検査はラボにもより価格が高かったりしてこちらはお手頃で検査が出るようで
猫の繁殖をしておりましてちょっと遺伝的な問題でいきづまっておりました
よろしかったらご連絡お願い致します