猫の特徴として「肉を食べないと生きていけない」という事実があります。猫を含むネコ科は食物連鎖の頂点である肉食動物であり、肉(動物性タンパク質)を食べないと、必要な栄養素(タウリン、脂肪酸、ビタミンAなど)が不足して病気になってしまうからです。
そんな中2023年に、ウィンチェスター大学から発表されたのが表題の報告です。ヴィーガン食を与えた猫の方が健康的であったと発表されました。具体的には、動物病院にかかる割合が約7%低く、投薬も15%少なく、獣医師から重症であると評価された割合が7.6%減った、と報告されました。これまでの常識を覆すインパクトのある結果でした。
この論文はいくつかのニュースサイトでも取り扱われており、一般の方の目にも留まるでしょうが、ちょっと注意が必要だなと思う箇所をまとめてみました。
・ヴィーガンフードの注意点
植物のみを使った手作り食では猫の必須栄養素を満たすことはできません。例えば人のヴィーガンフードの主なタンパク源は大豆などの豆類です。ですが大豆などにはタウリンは含まれていません。人は体内でタウリンを合成できますが、猫はできません。そのため化学合成したタウリンを添加しないと、欠乏症になり心臓病になってしまいます。猫の手作りヴィーガン食を試みる場合必ず、獣医栄養学に精通した獣医師の指示のもと行いましょう。
・データの注意点(バイアス)
※バイアス:偏りや、先入観などの意味がある言葉です。統計データを集める上で起こるバイアスや、プラセボ効果のような思い込みによる心理的なバイアスがあります。以前紹介したソレンシアの研究でも、治験段階で薬理作用がない注射を打ったグループでも運動性の改善という評価が出ていました。
愛猫に自分と同じ食事を与えている飼い主は、無意識に健康に良いことを期待している可能性があります。自分で調べて、コストをかけたものはより良いものに感じるのはフードに限ったことではなく当然のことでしょう。これはアンケート方式のデータ収集で常につきまとうバイアスです。
この研究でもそのバイアスを減らすため、獣医師の評価や、客観的な項目として「投薬の有無」などを評価の中に入れていますが、多少の影響は残ってしまいます。それ以外にはおやつをもらっている猫や、外に出る猫もいました。外に出る猫は、小動物を食べていたかもしれません。
・どんなヴィーガンフードが与えられていたか
論文中には明記されていませんでした。市販されている猫のヴィーガンフードにはBENEVOやAMIというブランドがありますので、おそらくそういったものが多いと思われます。これらのフードにはビタミンAやタウリンを添加することで、必要な栄養素を補っています。
・まとめ
今回ヴィーガンフードを食べている猫が健康的な割合が高いというデータが出ました。しかし、この結果だけを持ってヴィーガンフードが優れていると判断するには時期尚早でしょう。他の研究では、ヴィーガンフードを与えたことにより、網膜萎縮や、神経障害を起こしたことも報告されています。もし与えるとしたら必ず栄養バランスが担保されているものを与えましょう。
反対に獣医師の中にはヴィーガンフードを猫に与えることは虐待であると主張する人もいます。確かに植物性の材料だけでは猫の栄養基準を満たすことはできませんが、昨今では化学的に合成したタウリンなどを加えることができます。それによってAAFCO(ペットフードの栄養基準を制定しているアメリカの団体、日本のペットフードもこの基準を採用している)の基準をクリアしていますので、必ずしも「ヴィーガンフード=猫にはダメ」というわけではなくなってきています。
最後に個人的な意見としては、私は今後も肉を含んだ食事を愛猫にも継続して与えるでしょう。私自身がヴィーガンではないですし、今回の論文だけではエビデンスとして弱いからです。また猫自体も、生来の食べ物である肉の香りや味の方を好みます。猫が喜んで食べれるというのも、フード選ぶの大事なポイントかと思います。1つの論文に振り回されるのではなく、客観的に考えることが大事かと思います。
ヴィーガンは健康とは関係が無いので、とくに健康的だとは思わないはずです。プラントベース・ダイエットをしている人と混濁しているのではないでしょうか?
どこに「ヴィーガンの方は普通の食事の人よりも自分が健康的だと考える傾向」があると書いてあったのでしょう?
ご指摘ありがとうございます。健康目的で動物性食品を摂らないプラントベースダイエットをしている人とヴィーガンを混同していました。また他の食事に主義者にも当てはまることなので、本文を修正しております。