トリコモナスというのは寄生虫の一種で、猫の下痢の原因の1つです。頑固な水のような下痢や血便が特徴です。感染力が高いため、ブリーダーやペットショップで蔓延しやすく、純血種の猫で多くみられます。猫トリコモナスの問題点としては治療が難しいことがあげられ、効果が認められているのは海外薬のロニダゾールのみになります。ただ、ロニダゾールはふらつきや光に過敏になるなどの神経症状が出やすいと記載されており、使用には注意が必要です。今回ロニダゾールについて調べる機会がありましたので、どのくらい効果があり、副作用の危険性があるのか解説します。
ロニダゾールの効果
猫トリコモナス症に対してロニダゾールは唯一の治療薬ですが、必ず効果があるとは限らず、ロニダゾールを投与しても下痢が改善しないことがしばしばあります。ある研究では症状が明らかに改善したのは6割ほどだったと報告しています。効かない理由としては、規定量を飲めていない、またはロニダゾール抵抗性のトリコモナスがいるためです。
ロニダゾールの副作用
上記の研究で副作用が出たのは49頭中、4頭ということで約8%でした。他の薬と比べると割合は高いですね。症状として食欲不振、神経症状(ふらつき、旋回など)がみられました。
副作用の詳細
上記の報告では副作用がどのくらい重度でどれくらいの期間出ていたのかは記述されていませんでした。他の論文から副作用が出た場合の経過がありましたのでご紹介します。
いずれも投与直後ではなく、数日経ってから症状が出ていることがわかります。「外部刺激に対して敏感」というのは大きな音や光に対して異常に驚くような行動が出るということです。
4例全てで、投与中止後に回復していますが、快方に向かう時間にも差があります。補足として、この報告はちょっと古くロニダゾールの量が多いです。現在では体重1kgあたり30mg1日1回の投与が推奨されていますので、ここまで強い副作用が出ること少ないでしょう。
愛猫がトリコモナスに感染した時の選択肢
実は猫トリコモナス感染症は無治療でも2年以内(平均9ヶ月)に9割は自然に下痢症状が消失するという報告があります。そのため選択肢としては①副作用の可能性を了承しロニダゾールを服用する、②自然に改善するのを待つ、の2つがあります。
どちらもメリット・デメリットがありますので、猫の年齢(12週齢以上か)、同居猫がいるか(感染る可能性)、副作用の可能性を許容できるか(自宅でみていられるか)、本人の体調(肝機能が低下していないか)、薬を許容できるか(苦い)などを考慮して獣医師と相談して決めます。
ロニダゾールは現在の推奨量だと1日1回14日間服用する必要があります。効果がある場合は1週間ほどから症状が改善し始めます。
ある程度成長している猫ではトリコモナスで下痢をしていても、よく食べますし元気なことが多いですが、2年待つといっても本人も不快ですし、下痢だと掃除が大変(特に長毛猫)でもあります。
まとめ
ロニダゾールは唯一のトリコモナス症の治療薬ですが、必ず治す薬ではありません。報告ではむしろよく効く割合は6割ほどです。副作用は薬を止めれば収まるものの、他の抗生物質よりは注意する必要があるでしょう。
私の経験では数十頭に処方していますが、幸い強い神経症状は出たことはありません。これは推奨されている服用量が以前よりも減っているからかもしれません。また治療効果も、しっかり飲ませてくれる飼い主さんが多いので、もう少しよくなる確率が高いと感じています。
2年以内に9割が症状が自然消失するので、元気食欲は全然あるという場合は待つというのも選択肢に入ります。愛猫がトリコモナスと診断されてしまったら、かかりつけの獣医師とよく相談した上で治療方法を選択してください。
参考資料
・Gookin, Jody L., Katherine Hanrahan, and Michael G. Levy. “The condundrum of feline trichomonosis–the more we learn the ‘trickier’it gets.” Journal of feline medicine and surgery 19.3 (2017): 261-274.
・Rosado, Terri W., Andrew Specht, and Stanley L. Marks. “Neurotoxicosis in 4 cats receiving ronidazole.” Journal of veterinary internal medicine 21.2 (2007): 328.
・Xenoulis, Panagiotis G., et al. “Intestinal Tritrichomonas foetus infection in cats: a retrospective study of 104 cases.” Journal of feline medicine and surgery 15.12 (2013): 1098-1103.