前回のブログでも紹介されました猫医学認証プログラム、第一回のテーマは「骨格筋系疾患」についてでした。このモジュールでは、手や足、股関節など、人であれば整形内科や整形外科で診てもらうような病気について学びました。
普段の過ごし方と違う姿が行動としてわかりやすいこともあり、「猫が足を痛がっている」「歩き方がいつもと違う」という主訴で来院される方は多い印象があります。また、猫も寿命が伸び、高齢化してきているため、関節炎などの関節疾患も増えてきています。「年をとってあまり動かなくなった」と思いがちですが、実は関節が痛くて“動きたくない”のかもしれません。
<歩き方がおかしい?足を痛がっている?その際の検査>
猫が手や足を痛がっているときはこのような流れでその原因を探っていきます。
① 問診
どのような症状を・どのくらいの頻度で・いつから・どのくらい痛がっていそうか、また、その症状を見せる前の様子はとても重要なヒントになります。今回のモジュールで、問診は「最も重要な検査」と解説されていましたが、それは、足をひきずっている理由が手足だけに原因があるわけではないことがあるためです。神経の病気や、がんの転移による骨の異常など、他の病気が原因となっていることもあります。このような病気の際には、全身の状態をまず把握するため血液検査などを行う必要があります。
②視診
お話しを伺ったあと、実際に猫さんを診ていきます。
モジュールでは、「歩き方や体重の掛け方を観察する」と解説されていましたが、実際の猫さんは診察室内では緊張や痛みによりじっとしていることが多く、わかりづらい印象です。
③触診・整形学的検査
伺った内容から、痛がっている手足とその反対側の手足を触診していきます。手や足の先からはじまり、肩や股関節の方へと詳しく調べていきます。
触診では、筋肉のつき方や骨の位置の左右差や、腫れの有無などをみていきます。
整形学的検査では、関節の動きや骨がずれないかなどをみていきます。
この検査の中で、「猫の爪が肉球に刺さっている」というケガがみられることがよくあります。これが原因でびっこをひく子もいるので、爪切りは定期的にしてあげましょう。
④歩行検査
犬ではよく行われる検査ですが、猫は人が積極的に歩かせたり走らせたりすることが非常に難しいため、なかなか行えません。モジュールでは、「猫から少し離したところにキャリーをおき、猫が自分で隠れようと動いた時に歩き方を確認する」と解説されていますが、攻撃的になったりパニックになったりすることもあるため、あまりおすすめできません。一番よいのは、自宅で動画をとっておくことでしょう。自宅での様子が猫さん本来の様子なので、普段から動画をとっておくと比べられて変化がわかりやすくなるでしょう。猫では歩行検査を3段階で評価します。
両方の手や足に問題がある場合は歩行の変化をみるのはより難しくなります。このときは、「飛び上がらなくなった(股関節に問題がある可能性)」「下に降りるのを嫌がるようになった(前肢の関節に問題がある可能性)」と行動に変化がみられるかを判断基準の一つとします。
ここまでの検査でどこの部位が原因かを絞りこんでいきます。
⑤X線検査
レントゲン検査では、疑わしい箇所を横方向と正面の2方向から撮ります。一方向からのみだと、骨折や骨のずれなどを見逃す可能性があるため、必ず2方向から撮ります。とくに骨折しているような場合は撮影時に強い痛みが生じることが十分に想定されます。このため、モジュールでは「猫に優しい診察を心がけるならば、可能な限り鎮静・鎮痛処置を行なった上で検査を行なった方がよい」と解説されています。
⑥そのほかの検査
①〜⑤の検査によって、「猫の歩き方が変」の原因はわかるようになります。それでもわからず、また様子をみていても一向に良くならない場合は、レントゲン検査ではみえない筋肉に異常があったり、神経に異常があることが考えられます。この際にはCT検査やMRI検査などに進んでいきます。主な歩行異常の原因を以下の表でまとめました。
最も一般的な猫のびっこの原因はおそらく捻挫や打ち身ですが、このような症状の場合は検査であまり大きな異常はみられません。数日たてば自然と治ることも多いので、悪化していないかを、④で解説した3段階評価を意識しながら、自宅で様子をみるのがよいでしょう。
<珍しい病気:knee-and-teeth syndrome>
現在はPatellar fracture and dental anomaly syndrome (PADS) として知られています。
特徴として、膝蓋骨(膝の皿の骨)の非外傷性骨折、乳歯の遺残、永久歯の埋伏(永久歯がうまく生えてこないこと)がみられます。歯の問題がみられやすいため、「口を痛がっている」という主訴で来院することが多いそうです。乳歯がうまくぬけておらず、永久歯と一緒に生えているような様子が見られた際には、可能であれば全身のX線検査をとっておいたほうがよいでしょう。体のどこかに骨折があるかもしれませんし、今後原因不明の骨折を起こす可能性もあります。
この疾患では、骨折を治療してもうまくくっついてくれないことが多く、治すことが難しいとされています。骨折予防のための環境整備などが必要になるでしょう。歯については、残ってしまっている乳歯を抜歯します。
<骨折の治し方>
猫の骨折の治し方は大きく分けて2種類あります。
・外固定法:ギプスや包帯で支える方法。多くの場合麻酔が必要ない。時間がかかる。
・内固定法:手術によって骨自体に支えの板やピンをつける方法。麻酔が必要。より綺麗に治る。
モジュールでは手術による治し方について細かく解説していました。
モジュールではこのほか、股関節や膝蓋骨(膝のお皿の骨)の脱臼や、外傷による骨折などの診断や治療について学びました。とくに、交通事故で多い猫の骨折(骨盤骨折など)や銃弾を受けた猫さんの治療についてなど、日本ではあまり聞かない怪我の原因とその治療について解説しており、日本と海外の違いを感じました。
次回は「猫の行動学」のモジュールについて解説します。
多賀 佳