皮下点滴とは文字通り皮膚の下に点滴をすることです。動物の医療の独特な治療法かと思っていましたが、かつては(今でも?)人医療でもふとももの皮膚などを用いて皮下点滴が行われるようです。猫で皮下点滴が必要になる病気の代表が慢性腎臓病(CKD)です。腎機能が落ちると薄い尿を大量に排泄してしまうため、脱水になってしまうからです。

前回のコラムで猫の皮下点滴にまつわるアンケートの報告を紹介しました。そのアンケートでは26%の方は「皮下点滴は難しかった」と回答していますが、実際に猫病院で働いているともっと多くの方が苦戦しているように感じます。今回は当院での皮下点滴の方法、そしてコツを解説します。

※上記のアンケートではやり方をプリントで渡したり、ウェブページを教えてもらった人の方が「点滴が難かしいと感じた」と回答しています。これはプリントを渡すことで動物病院側が十分説明したと勘違いし、実践でレクチャーする時間が減ったのではないかと考察されています。なので必ず数回は動物病院で直接教わってください。またやり方は各々の病院で異なりますので、かかりつけ動物病院の指示を遵守してください。

1.備品の使い方

まずは皮下点滴に必要な道具として点滴する液体、針、そしてそれを繋ぐチューブが必要になります。チューブは注射器を使うか、重力落下式を使うかによって2種類あります。

①点滴バッグ:乳酸リンゲル、もしくは生理食塩水が使われることが殆どです。容量は様々で100ml~1000mlぐらいまで幅があり、1回何ml点滴するかによってサイズが異なります。

②針:針の太さはゲージ(G)といって数値が高くなるにつれて細くなります。18〜21Gが使われることが多いです(前回のコラムにどの太さを使っているか割合が載っています)。

翼状針

また持つ部分が付いている翼状針という針もあります。翼状針は必ずチューブがついているので注射器を使った点滴で使いますが、持ちやすいので重力落下式の皮下点滴でも使われることがあります。

③チューブ:点滴と針をつなぐラインです。途中で注射口が付いているY字のものもあります。点滴をする前に予め液体で満たし、空気を抜いておく必要があります。

・針のキャップの取り外し

針はまっすぐ引くとキャップ(蓋)が取れ、回しながらとると根元から外れます

・ラインの繋げ方

1.まず開封したらクレンメをチューブの中心部で閉めます(ローラーを下に回す)

クレンメ:ローラーを下に回すと、点滴の流れが止まります。まずは閉めてください。点滴バッグ方向の針を次の工程で点滴バッグに刺します

2.その次に点滴バッグのフィルムを剥がしアルコールで消毒します。そのまま点滴チューブの先端に付いているプラスチック製の白い針のキャップを外し、点滴バッグのゴム面に垂直に刺入してください

①フィルムを剥がす ②アルコールで消毒する ③チューブの針を刺す、場所はどこでも大丈夫です。同じ場所に何度も刺すのは避けてください ④根本までしっかり刺す

 

(消毒は市販のアルコール綿で大丈夫です)

 

3.チューブと繋がった点滴バッグを持つか、壁にかけてください。垂らした点滴筒を左右からプッシュし、液体を点滴筒の中心部まで満たしてください。これにより空気が点滴チューブの中に混ざることを防ぎます。

4.最後に点滴を高い位置にかけたまま、クレンメを開けると重量でチューブの中に水が流れ始めます。先端から水が出て、空気が完全に抜けたら準備終了です。

 

2.刺す場所

皮下点滴ですので文字通り皮膚の下に刺します。厳密には皮膚の下には皮下組織というのがありますが、ここも通り抜け、筋肉と皮下組織の間に水のタンクをつくるイメージで刺入します。猫の皮膚は伸びますので、皮膚を持ってみると、その下の脂肪や筋肉との境目がわかるはずです。

以前は親猫が首根っこを掴んで子猫を移動させるので肩甲骨の前の方が痛覚が少ないと思い刺していたが、後ろの方が猫が首を動かしても影響が少ないためか最後まで嫌がらずに点滴できるよう感じる

刺し場所は首の付け根ですが、肩甲骨をランドマークにするとわかりやすいです。肩甲骨の前後どちらに刺しても良いですが、経験的に後ろの方が嫌がらないことが多いと感じます。

3.皮膚の持ち方

利き手で針を扱いたいため、利き手の逆で皮膚をつまみます。脱水していたり痩せていると皮膚がぴたっとしていてつまみ辛いです。指二本で持つと、皮膚がくっついてしまい刺すスペースができないので、3本でテントを作るように持つと良いです。この時、猫の皮膚は伸びますのでしっかり引っ張りスペースを作ることが大切です。

4.針の刺し方

針穴を上むきに向け、皮膚に垂直に刺します。どうしても筋肉に刺してしまう恐怖心があるので針を寝かせてしまいがちですが、針の長さは5/8インチ(16mm)または1/2インチ(13mm)ですので、しっかり皮膚を引っ張っておけば根本まで刺入しても、下の筋肉には当たらないはずです。角度を意識して皮膚に対して垂直に刺しことで抵抗が少なく、痛みも少なくなります。

5.針を持ち替える

①右手で針を刺した直後 ②針が抜けないように一度左手を一回離す ③皮膚と被毛と一緒に針の緑の部分を掴みなし、上に引っ張る ④右手が自由になるのでクレンメや加圧バッグを操作する

利き手で刺した針を逆の手に持ち替えます。その際に一旦、皮膚を離して掴み直さなくてはいけません。針のプラスチックの部分(21ゲージであれば緑色)を、猫の皮膚と被毛と一緒に持つます。皮膚だけだとすべるので、被毛も一緒にもつのがコツです。そしてまた上に持ち上げスペースを作りましょう。これを翼状針を使っているときは、クリップで代用する方法もあります。

6.点滴を流してみる

・重量落下式の場合

皮膚を通り抜けた感触があれば、一度クレンメを開け(上にずらす)、漏れがないか確認しましょう。流れが悪い場合は針先が抜けかけているか、針先の穴がどこかに触れている可能性が高いです。その場合は深さを確認するのと、針先の向きを少し変えましょう。

血管点滴は急速に流入させると心臓に負担がかかりますが、皮下点滴はどんなに早くいれても問題ありませんので、ポタポタではなく水道の蛇口を開けた時のようにダーっと流れている状態が望ましいです。

左図のようにあ水が1本の線になっていると流れが順調。圧力をかけているにも関わらず左図のようにポタポタ落ちている場合は調整が必要。

点滴バッグのラベルの端には1〜4のメモリがあり、これが1メモリ100mlを意味します。流す前に確認し、目標ラインをあらかじめ確認しておきましょう。メモリの幅は一定じゃありませんが、これは内容量が減るにつれ、バッグが薄くなるためです。

・シリンジ式の場合

あらかじめシリンジに輸液を満たしチューブに繋いでおきましょう。針を刺したらゆっくり押し、漏れがないことを確認してから残りを輸液しましょう。重力落下式に比べてラインを水で満たすのも簡単なので、手技が楽です。

どちらもメリットとデメリットがありますが、コストの面で重量式を先にオススメすることが多いです。シリンジは50mlシリンジだと最大60ml以上までしか点滴できず、それ以上は2本目に取り替える手間があります。また100mlシリンジも流通していますが、大きくて押すのが大変なので当院ではあまり使っていません。

7.針を抜く

必要量点滴することができたら針を抜きましょう。針を抜いた後は、数十秒軽くつまみましょう。点滴量が多い時は逆流してくることがあります。時間が経つと点滴が重力で腕の方に降りてきて猫が気にすることがありますが、自然と吸収され消失しますので大丈夫です。

また使った針やバッグは医療廃棄物として処理しますので、必ず動物病院に返却してください。

8.動画でチェック

最後に動画で流れを確認しましょう、道具や針の持ち方が若干異なりますが大まかな流れは一緒です。

International Cat Careというのは猫の飼育方法や病気についての情報を発信している国際的な団体で、獣医師を含む多くの専門家も深く関わっており、これ以外にも有益な動画を公開しています。

0:50 肩甲骨の間の皮膚をつまみ、針を刺入します。 1:11 重量で点滴を流すために点滴バッグを持ち上げます 1:22 点滴はすぐに吸収されないので”こぶ”を作ります 1:27 こぶができるのは普通のことであり、点滴は数分で吸収されます(量が多いと数時間かかることもあります)1:32 正しい量が投与されたら、クレンメを閉じ、針を抜きます

その他のコツ

・加圧バッグの使い方

重力落下式で点滴をするのに加圧バックを使うと早く終わります。当然ですが上記のアンケートでは73%の方が点滴にかかる時間と成功率は関係していると答えています。

左図:ポンプを握り、空気を入れて圧力をかけている状態。つまみは右 右図:つまみを下にすると空気が抜ける

加圧バックは3方向に空気ので入れ口があり、バッグ本体、ポンプ、外側での3つです。空気を入れるときは外側を締め、出すときは開けましょう。ポンプを押すのに結構力がかかるので、あらかじめ加圧バッグを膨らまして圧力をかけておいても良いです。

・点滴を温める

上記のアンケートでは点滴を温めると83%の人が点滴が楽になったと答えています。点滴バックを事前にレンジで人肌程度に温めて点滴すると良いでしょう。温めすぎると火傷するので注意です。

使用途中の点滴バックはチューブを一旦抜き、点滴バックだけ温めましょう。再度点滴バックのゴム栓をアルコール消毒し、チューブを接続しなおしましょう。

・猫が動かない工夫

実際には針の操作自体は問題なくても、猫側が我慢できなくて自宅点滴がうまくいかないことが一番多いです。誰か手伝ってくれる方がいる場合は2人で行いましょう。

猫は指先を触られるのを嫌がるので、肘より先は触らない方がいいです。ついつい猫の手が動くと指先を抑えてしまいがちですが、猫の肩甲骨さえ抑えておけば猫パンチは出せません。

一人で行わなければいけない場合はキャリーの中に入れると、逃げづらくなります。顔はタオルで覆ってしまっても良いです。また保定(抑えること)のための猫袋という商品もあります。点滴用の穴がついているものもあるので、どうしても一人で抑えるのが難しければ試してみるとよいでしょう。

その他 FAQ

Q.「点滴の後お腹の横(または腕)にしこりがありますが大丈夫ですか?」

A.点滴後、溜まった点滴が重量で猫の側面にズレてきて、猫が気にすることがありますが、自然に点滴は吸収され消失するので問題ありません。

Q.「点滴が漏れていますが大丈夫ですか?」

A.多めに点滴すると刺入した部位から点滴が漏れることがありますが、針穴は小さくガーゼで圧迫することで自然とおさまります。

Q.「点滴した場所から血が出ていますが大丈夫ですか?」

A.刺入した部位から出血し多少血が滲むことがありますが、背中の皮膚には大きな血管は走っていませんので、ガーゼで圧迫することで自然とおさまります。万が一、10分以上圧迫して出血が止まらない場合はかかりつけの病院に連絡してください、凝固異常の可能性があります。

まとめ

アンケートではほとんどの方が成功していますが、実際にできる方とできない方は50:50ぐらいだと感じます。日頃針を使わない方がほとんどのなので、精神的な壁ができない理由になることもありますし、猫の性格的にじっとしていられないためにできない、ということもあります。

最低でも3〜4回は動物病院で一緒に練習してから自宅での皮下点滴に望むと良いでしょう。しかし点滴自体がストレスになって体調を壊しては本末転倒です難しい場合は無理をせず、治療方針について担当獣医師と相談しましょう。

“獣医師が教える猫の皮下点滴の必勝法” への6件のコメント

  1. 現在うちの仔が体調を崩して、動物病院でやり方を教わり自分でシリンジ式の皮下注射をしています。
    今日の注射時に、肩甲骨の間に針を刺したと思ったのですが液を流している時に針が左側にずれていました。本人は痛がる様子も無く一応終えられたのですが、大丈夫でしょうか?

    1. こんにちは、外に漏れていなければ大丈夫だと思います。針先が筋肉に当たると痛がることがあるので、点滴中はしっかり皮膚を持ち上げて猫が動いても筋肉に当たらないようにすると良いと思います

      1. ご返信が遅くなりすみません。
        ご回答をありがとうございます。
        その後は問題無く出来ていたと思います。
        ありがとうございました。

  2. 先生の本に温めると書いてあったので、ジップロックに入れて湯煎していますがそれでは駄目でしょうか?

  3. 参考になります。21Gの翼状針を使っていますが、針を刺したときに痛がると、ああ失敗した..と落ち込みます。。3点持ちは実践しているので、次からは記事の通りに角度を気をつけてみます。

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