前回のコラムで尿検査の重要性について書きましたが「尿検査の重要性はわかりましたが、尿がとれません」という飼い主さんも多いのではないでしょうか。人間は病院のトイレで簡単にとれますし、犬は散歩中である程度排尿しそうなタイミングが読めますが、猫はどのタイミングでトイレに行くかわからない上、採尿しようと近づくとトイレを途中でやめてしまう危険性もあります。尿がとれないというのは猫医療独特の悩みかもしれません。

・取ってから何時間以内に検査すべきか

原則3時間以内6時間以内であれば影響を抑えられます検査まで時間がかかりそうな場合は冷蔵庫で保存しましょう。冷蔵保存(4℃)であれば1週間経っていてもそれほど変化しないという報告もあります。

 

・尿沈渣検査の時間による変化

室温保存による尿沈渣成分の変化:細菌は時間経過ともに増殖してしまう。赤血球や白血球は浸透圧により破壊されるため数が減っていく(検体検査のサンプリング 臨床病理 1996 を参考にグラフを作成)

尿沈渣検査といって顕微鏡で尿を観察検査です。時間が経つと細菌がじわじわ増えてしまいます、これを防ぐには低温で保存することです。一方で低音のまま検査をすると、塩類や結晶が析出してしまい尿路結石の前段階と誤ってしまう可能性があります。また赤血球や白血球などの細胞は数が減り、また形も壊れ観察困難になってしまいます。

・尿検査の時間による変化

尿の化学的性状も時間により変化します。細かい理由まで理解する必要はありませんが、なんとなく全体的に影響を受けるということを覚えておいてください。各検査の意義は尿検査の重要性を参考にしてください

項目 変化 理由
色調 淡黄褐色化、混濁化 ウロビリノーゲン(無色)が酸化しウロビリン(褐色)になる。塩類が析出、細菌が増殖すると混濁する。
pH(ペーハー) アルカリ化 細菌増殖により尿素が分解されるとアンモニアが発生する
Glu(尿糖) 減少 細菌によりグルコースが消費される
ケトン体 減少 アセトン・アセト酢酸の揮発、細菌により消費される
ウロビリノーゲン 減少 酸化しウロビリンに変化する
ビリルビン 減少 酸化、光線により分解されビリベルジンに変化する
潜血反応 亢進したのち減少 初めは赤血球が破壊され亢進するが、やがてペルオキシダーゼ酵素活性が落ち陰性化する

 

・採尿方法

採尿方法は大きく分けて2つ、自宅でとるか、病院でとるかに分かれます。自宅で採った方が猫の負担は少ないですが、検査までの時間があいてしまいます。病院で採尿した方が基本的により正確な検査結果が得られます。

・自宅採尿:おたま、ウロキャッチャー

猫が排尿姿勢をとったら背後からおたま(レードル)のようなもので受け止める方法です。犬では散歩中に準備しておけば成功することがありますが、猫では難しいです。私も成功したことがありません。ウロキャッチャーという専用の採尿器具があり、先端にスポンジがついており、この部分に尿を吸収させて採取することができます。レードルよりは小さく猫のお尻に滑り込ませやすいです。

 

・自宅採尿:システムトイレ

固まらないチップと尿を受け止める吸水シートの2層式になっているシステムトイレは、吸水シートを抜くことで尿をトレイに貯めることができます。 直接猫に近づく必要がないため楽ですが、一度チップを通りトレイに落ちた尿を採取するため異物(細菌など)が入る可能性は否定できません。チップによる化学的性状の変化は無視できるレベルです。

・自宅採尿まとめ

そのほかにもトイレにラップを敷く方法や、猫砂を少なくしておく方法もありますが、現実的には難しいです。自宅採尿は検査まで時間が経つのと、一度お尻周りの被毛や、トレイについた尿を取るので異物が混入しやすいため、自宅採取した尿の検査意義に疑問を持たれる方もいらっしゃいます。しかし、上記のように異常がなければ信頼できる項目も多いため、病気をスクリーニングする目的の健康診断であれば十分検査意義があるでしょう。

・病院採尿:カテーテル採尿

カテーテル採尿:オス猫。カテーテルの先が尿道に挿入されている

尿道にカテーテルを入れ採取します。膀胱に少量しか溜まってなくても採尿できます。雄猫は簡単ですが、雌猫は尿道が膣の中にあり、盲目的に挿入させなくてはいけません。麻酔をかけていない動く猫でメスの尿道にカテーテルを挿入するのはかなり難しいです。

デメリットとしては挿入時に痛みがあり比較的抵抗されること、そして自然排尿よりは綺麗な尿が取れますがカテーテルを入れる際に異物(細菌など)が混入することがあります。

・病院採尿:膀胱穿刺

超音波を当てながら膀胱穿刺をしている写真

お腹の皮膚から超音波をガイドに、または手で膀胱を保持しながら針で直接膀胱から採尿します。もっともクリーンな尿が採取でき、また意外ですがカテーテル採尿よりも痛がる猫が少ないです。最近では最も主流な方法になっています。

デメリットとして激しく動く猫、出血のリスクがある猫では実施できないこと、尿がある程度溜まっていないと採取できない、膀胱周囲の腫瘍や子宮蓄膿症ではできない、などが挙げられます。

・病院採尿:加圧排尿

触診により膀胱を確認し、圧力を加えることで尿意を促し排尿させる方法です。特別な器具を必要としないメリットがあります。デメリットとしては膀胱からお尻周りを経由して採取される尿のため、病院での採尿の中ではもっとも異物が混入しやすいです。また排尿させる力の加減が難しく、過度の圧力を加えると膀胱の尿が腎臓に逆流する危険性があリます。

・病院採尿まとめ

最もきれいな尿がとれ、手技的にも容易な穿刺採尿をする施設が主流になっています。特に猫ではメスのカテーテル採尿が難しいのも、穿刺が主流になってきた理由にもなっているでしょう。一方で獣医師によっては安全性を考慮し穿刺はしない方針の病院もあります。当院は基本的に穿刺で採尿しますが、希望があれば他の方法で取ることもあり臨機応変に対応しています。

最後に

簡単な猫の採尿方法が開発されることを願っていますが、現状では自宅ではシステムトイレ、病院では穿刺採尿が最も容易な方法といえるでしょう。動物病院によって基準は異なりますが、採尿後は3〜6時間以内に病院に持っていくと良いでしょう。どうしても時間があいてしまう場合は冷蔵保存しましょう。冷蔵保存(4℃)であれば1週間経っていてもそれほど変化しないという報告もあります。前回のコラム”で尿検査の重要性“と合わせ読んでいただけるとより理解が深まるでしょう。

“猫の採尿方法 〜持っていくまでの時間、取り扱いなど〜” への1件のコメント

  1. 自宅採尿ですが、採尿シートを使いました。
    あまり知られてないようですが、楽に採尿することができました。

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