新しい猫の食欲増進剤が発売されます。これまでにもペリアクチンやミルタザピン(耳に塗るミルタザピンはこちら)などの薬が猫で食欲増進薬として使用されていますが、猫で認可を取ったのはエルーラが初めてです。エルーラは最近の新薬のトレンドにのった液体の薬で、猫でも投与がしやすいようにデザインされています。同じ成分の犬用薬「エンタイス」よりも苦味が抑えられてあります。

・エルーラの成分/作用機序

エルーラの成分はカプロモレリンです。簡単にいうと食欲中枢を刺激して作用します。カプロモレリンはグレリン受容体に結合することことで作用します。グレリンは主に胃において産生されるホルモンで、分泌されると脳の成長ホルモン分泌刺激受容体1a(GHS-R1a)に作用します。このGHS-R1aが食欲中枢を接刺激し、食欲が湧きます。

またグレリンは脳下垂体に直接作用し、成長ホルモン(GH)分泌を促進します。さらにGHが肝臓においてインスリン様成長因子(IGF-1)産生を刺激します。IGF-1は体重増加を刺激する代謝の変化があり、筋肉量の増加を促します。

つまりエルーラは食欲増進+筋肉量upを同時に促し、病気で痩せてしまった猫の体重を戻す効果があります。

GHS-R1a:成長ホルモン分泌刺激受容体1a、GH:成長ホルモン、IGF-1:インスリン様成長因子-1

・エルーラの適応

海外では慢性腎臓病の体重減少に対して認可をとっています。日本ではより広く”慢性疾患に伴う食欲不振と体重減少”に対して認可をとっています。慢性腎臓病以外では膵炎、がん、慢性腸症など体重が減ってしまうような病気での使用が想定されるでしょう。

・エルーラの副作用/注意

流涎(りゅうぜん):よだれがたくさん出ることです。これは口の中の唾液腺にグレリン受容体があり、そこに作用することでよだれが出ます。そのため苦いとか気持ち悪いからよだれが出る、というわけではありません。

行動変化:隠れるような行動が見られることがあります。

血糖値上昇:GH(成長ホルモン)が分泌されるため血糖値が一時的に上がります。そのため糖尿病の猫では注意して使うべきでしょう。稀な疾患ですが成長ホルモン分泌亢進症(先端肥大症)の猫に対しては禁忌(使用してはいけない)になります。

その他の副作用:嘔吐、食欲不振、無気力、貧血、脱水、血圧低下、下痢、上気道感染症、尿路感染症、高カルシウム血症、高カリウム血症などが報告されています。

・投与上に気をつけるポイント

・投与には備え付けの専用シリンジを使用します。シリンジは使用後、洗浄し乾燥させておいてください

食事の30分前に投与してください。食事と一緒に与えると吸収率が下がります

・他の食欲増進剤との比較

現在猫の食欲増進剤でよく使われるのはミルタザピンですが、興奮状態になりやすい猫がいます。そのような猫さんにはエルーラの方が良いかもしれません。一方でエルーラは、禁止ではないですが血糖値が上がる可能性があり、糖尿病の猫で使い辛いというのはネックになります。

ミルタザピンは制吐作用があるのは膵炎や腎臓病で使う時に大きなメリットになります。また投与回数が1〜3日1回で済むといのも猫に優しいです。一方で、ミルタザピンは人では抗うつ薬で認可をとっています。向精神薬の使用に抵抗がある方は他の薬の方が良いかもしれません。耳に塗るミルタザピンは圧倒的に投与がしやすいです。

ペリアクチンはマイルドに食欲が出るのが良い点でもあります。錠剤が入手しづらくなり現在、当院では粉剤での処方になります。「むしろ錠剤より飲ませにくい」という意見をもらうことがあります。脂肪肝の猫でペリアクチンを使用すると肝毒性が報告されているため注意です。

まとめ

エルーラは食欲増進+筋肉量upに効果がある、猫用の薬です。従来の食欲増進剤と比べて良い点と悪い点がありますので、それを考えながら使用していくことになるでしょう。それにしても最近の猫用の薬は液体状が増えましたね。キャットフレンドリーな薬が増えて良いことです。よりフレンドリーな耳に塗る薬も増えてくれると良いなと思います。

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