うまく歩けない、後ろ足に体重をかけない、という症状で来院する猫がいます。犬に比べると猫は関節が柔軟で運動神経が良いので怪我が少ないです。当院は都心で診療していることもありますが、骨折の猫も年間1〜2例ほどくらいしか来ません。骨折以外では膝の脱臼、前十字靭帯損傷or断裂、股関節形成不全などが原因になっていることが多いです。下表に猫が歩行異常を示したときに考えられるメジャーな原因を、若い猫と高齢猫でまとめました。
これらの病気は触診やレントゲン検査で調べるのですが、特に異常がないのに症状が改善しない猫がたまにいます。打撲や捻挫であれば数週間で改善するのですが、時間が経っても足を引きずっています。ある整形の先生に相談してみると「猫では意外とアキレス腱の損傷が多いよ」という回答が返ってきました。
アキレス腱損傷について調べていたところ66頭の症例をまとめた報告がありましたので、紹介します。まず意外な点として外傷性のものかそうでないものが半々ぐらいという点でした。外傷性は交通事故、咬傷、ドアに挟まれた、落下などのヒストリーがあるものと定義しています。非外傷性は傷がなく、通常の活動(走ったり、家具にジャンプなど)の最中に発生、室内飼育で外傷の形跡がないものと定義しています。
人間ではアキレス腱損傷は男性の方が多いですが、猫ではメスの方が多いというデータがあります。今回の調査でもメスが59%、オスが41%とやや偏りがみられました。この理由は定かではないものの、犬でも避妊去勢(性腺摘出手術)により前十字靭帯断裂のリスクが高くなり、黄体ホルモンが靱帯の強度に関係している可能性が指摘されています。
それ以外には肥満と高齢はアキレス腱損傷のリスクだと考えられます。体重は負荷を増加させますし、加齢による腱の弾力性低下は断裂を起こしやすくします。今回の論文でも非外傷性のアキレス腱損傷は1歳年齢が上がるごとに1.021倍上昇すると報告されています。非外傷性の発症年齢の中央値は10.4歳(±1.5)と高い年齢での発症が多いですね。
非外傷性の場合、ほとんどがタイプ Ⅱc の一部の腱(浅趾屈筋)が無傷の腓腹筋断裂でした。都心部の猫だと外に出ないので、このタイプが多いと思います。このタイプⅡc は歩行可能であるため、病院に来るのが遅れることがあります。
治療に関しては83%の猫が手術を受けたと報告しています。創外固定という皮膚の外側にネジやワイヤーが出ている方法、骨内にスクリューを打つ方法が実際されました。完全な断裂ではないタイプⅡcは手術を行わなくても回復率に大きな差がなく、必ずしも全てのケースで手術が必要というわけではなさそうです。
まとめ
・アキレス腱損傷は決して多い怪我ではないが、猫でも稀に発生する。
・落下や衝突などのイベントがなくても発生しうる→非外傷性。非外傷性は年齢の中央値が10歳前後と比較的高い
・完全に断裂した場合は、踵が地面につく(正常は、猫は踵を挙げて歩く→趾行性動物)。特に片方だけの踵をつけている場合はアキレス腱損傷を疑う。
・完全断裂じゃなければ歩行可能である。
・触診またはレントゲンで踵(かかと)周囲の腫大がみられる(上図赤丸部分)
・完全断裂は手術、不完全断裂は内科管理で対応することが多い
参考資料
・Häußler, Thomas C., et al. “Retrospective multicentre evaluation of common calcaneal tendon injuries in 66 cats. Part 2: treatment, complications and outcomes.” Journal of feline medicine and surgery 25.1 (2023): 1098612X221131224.
・Häußler, Thomas C., et al. “Retrospective multicentre evaluation of common calcaneal tendon injuries in 66 cats. Part 2: treatment, complications and outcomes.” Journal of feline medicine and surgery 25.1 (2023): 1098612X221131224.