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Purina Institute 主催シンポジウム 「獣医療の世界標準ガイドラインと最新知見」に参加して

腸内細菌叢をに

先日ピュリナ主催のシンポジウムに参加してきました。ピュリナはスイスの食品企業ネスレの子会社で、ペットフードの製造している会社です。業界内ではロイヤルカナン、ヒルズに次ぐ療法食メーカーという印象があります。日本でのペット用療法食の販売は2018年からということもあり、上記の2社ほど知られた存在ではないかもしれません。

その中のピュリナ研究所(Purina Insitute)は人間の猫アレルギーを起こしずらいフードだったり、猫のトイレに関する研究などをしており、結構面白い論文を出している印象があります。ピュリナ研究所が大学の先生などを招いて開催したのが、このシンポジウムになります。参加できた講義の猫について印象に残った箇所を抜粋します。

・犬猫の消化管病原菌に関するACVIMコンセンサスステートメントについて

改めて細菌性胃腸炎に対して軽率な抗菌薬の使用はやめた方が良い、ということをデータを持って示されました。軽度な下痢や嘔吐に対して抗菌薬をすることで治療成績が変わらないだけでなく、腸内細菌叢のバランスを壊す(ディスバイオーシス)を起こしむしろネガティブな影響を受けるからです。

近年では犬猫では抗菌薬反応性腸症の占める割合は、これまで考えられているよりもずっと少ないのではないかという意見が主流になりつつあります。一方で質疑応答では、「抗菌薬を使用すると症状が消失し、中断すると悪化する」という抗菌薬反応性腸症としか考えられない症例が少なくない、という意見もありました。確かに私も診察しているとそのような経過を辿る猫にしばしば遭遇するので、質問者の言葉に同意しながら聞いていました。

犬では2024年の論文で、抗菌薬反応性腸症の代わりに腸内細菌叢関連調整反応性腸症(MrMRE microbiota-related modulation-responsive enteropathy)という言葉が2024年に提唱されています。これは抗菌薬反応性の腸症でも、腸内細菌叢を改善する薬(プロバイオティクスやプレバイオティクス)や食事で改善することから、必ずしも抗菌薬に反応しているわけではないのでは、という見方から作られた言葉です。MrMREが猫の腸症にも適応されるかはもう少し検証が必要でしょう。ちょっと名前が長すぎるのでもう少しわかりやすい言葉にしてほしいですね。

・下部尿路結石の治療戦略と再発予防

尿路結石は以前はストルバイト結晶が多く、最近はシュウ酸カルシウム結晶が増えた、と言われて久しいです。今は半々ぐらいになってきていて、8歳はまでストルバイトが多く、10歳以降はシュウ酸カルシウムが多い傾向にあります。

残念ながら尿路結石に対して目新しい治療薬についての話はありませんでしたが、尿比重を下げる、そしてウェットフードの予防効果に関するデータが印象に残っていいます。日本では”カリカリ”の愛称でドライフードが主流な家庭が多いのではないでしょうか。確かに歯石や歯肉炎にはなりにくくなりますが、一方で下部尿路疾患のリスクは高まります。一番良いの歯石は歯磨きで予防し、1日1食でもウェットフードを与えることで結石や特発性膀胱炎を予防することでしょう(歯磨きが難しいのですが、、、)。

また尿検査においてpH(ペーハー)は食事の影響も結構受けるので「尿検査をする上でも絶食しましょう」という部分も印象に残っています。絶食はうっかり忘れしまったり、朝一猫にアピールされて大変なのですが、正しく評価するにはやはり必要なことがわかります。

・慢性腎臓病の治療最前線、ガイドライン発表から2年半

東京大学がの米沢先生が登壇されていました。米沢先生はもともと「牛が満月な日に出産が多い理由」や「羊のあくびがうつるのはなぜか」などユニークな研究をされていた方です。、大学の先生らしく批評的な目線でガイドラインに突っ込みながら進めていく講義で、話し方も面白く、1時間があっというまでした。

次のガイドラインにラプロス(ベラプロストナトリウム)が加わるのか、AIMの臨床試験、糖尿病の治療薬であるSGLT2阻害薬が腎臓良いのではないか、5-ALAというサプリメントに関してなどなど。AIMの宮崎先生は元東大なので、この日のために直近の動向を直接聞いてくれたそうです。近日の獣医学会のシンポジウムで講演予定があるということなので、AIMがついに市場に登場する日が近いかもしれません。

まとめ

ピュリナはフードの会社ですが、フード関係の話題にこだわらずに各テーマの専門家が登壇し、自由に話されていた点が好印象でした。東京ステーションホテルのバンケットルームは初めて入りましたが綺麗で、落ち着いて話を聞けました。ホテルスタッフの方々も忙しい中丁寧に対応されていました。シンポジウム終了後は天気も良く、三田まで歩いて帰りました。最近ではオンラインで講義を聴くことが増えましたが、リアル開催もやはり良いものだと感じました。