ISVPS Feline Practice シリーズは一緒にプログラムを受講している獣医師 多賀に執筆してもらっています。

今回は「猫の腫瘍学」です。猫の寿命が年々伸びる中、人と同様猫でもがんなどの腫瘍性疾患で亡くなる率は上昇しています。

モジュールでは腫瘍病理の基本から猫で多い腫瘍性疾患とその治療の紹介、がん治療中の栄養管理、そして緩和療法について解説がありました。今回は、猫の腫瘍性疾患の中でも発生率の高い「リンパ腫」と、悪性度の高い「乳腺腫瘍」について紹介します。

<猫のリンパ腫>

リンパ腫とは、白血球の1つであるリンパ球ががん化する病気です。血流にのって全身のどこでも発生する可能性がありますが、猫では「消化器型リンパ腫」という、小腸などの消化器に起こるタイプが多いといわれています。

発生原因は多くの場合不明ですが、近年慢性炎症との関連性が示唆されており、慢性的な腸炎や鼻炎は、消化器型リンパ腫や鼻腔内リンパ腫がのちのち現れるリスク因子になるといわれています(慢性炎症とリンパ腫の関連性は現在人医療のほうでも研究が行われています)。

リンパ腫の病気の進行は犬と猫とで大きく異なり、猫では多くの場合悪性度が高く、予後も悪いとされています。一方で、治療への反応度合いも犬よりも幅が広く、薬や行った治療法がうまくはまれば発症から数年過ごせることもあります。

リンパ腫の治療では抗がん剤を使った化学療法が基本となります。リンパ腫の治療で用いられる薬は次の4つがあります。

上記のお薬の組み合わせによってCHOP療法もしくはCOP療法とよばれる化学療法を行うのが治療のベースになります。

猫のリンパ腫治療のポイントとして、モジュールでは次の3つを紹介していました。

  1. 治療方法と予後は、発生したリンパ腫の悪性度とその解剖学的位置によってきまる!(消化管で起きているか?鼻の中か?脳内で起こっているのか?)
  2. . 猫の中〜高悪性度リンパ腫の「ベスト」な治療法はまだわかっていない!

犬と異なり、猫ではよく効く子もいればそうでない子もいて治療への反応性に幅があります。そのため、獣医師は、治療への反応性だけでなく管理のしやすさという面も含めて猫と飼い主にとって最も適切と考えられる治療を見出していく必要があります。

  1. リンパ腫の予後の良さは治療にどれくらい反応してくれるかにかかっている!

完全寛解を目指すため、まずは標準の治療法から開始し、最初の1ヶ月ほどで完全寛解が見込めなさそうであれば薬の組み合わせを適宜変える、もしくは複数の治療法を併用することが推奨されます。

リンパ腫の治療は猫さんそれぞれに合わせて、その時の状況によって細やかに調整していく必要があります。獣医師と猫さん、そしてご家族のみなさんの協力が非常に重要になります。

<猫の乳腺腫瘍>

猫の乳腺腫瘍は非常に悪性度および転移率が高い病気です。この腫瘍の発生には女性ホルモンであるエストロゲンが関わっているため、発情が来る前に避妊手術を行うことで発生リスクを90%以上減らすことができるとされています。欧米では早期不妊(8〜16週齢で避妊手術を行うこと)の普及によりほぼ発生が見られなくなっていますが、日本ではまだみられることが多いがんです。中高齢での発生が多く、特に7〜14歳でリスクが上がります。

猫の乳腺腫瘍はしこりの大きさが重要で、「2 cm」がキーワードになっています。2 cmを超えてしまうと生存期間が大きく下がることがわかっています。早期発見と早めの治療が大切です。

治療法は外科手術が主軸となってきます。乳腺はつながっているため、片側で発生があった場合には、しこりのある箇所のみをとるのではなく、しこりのある側の乳腺をすべてとる「片側乳腺切除」を行い、予後をよりよくするためには両サイドの乳腺をとる「両側乳腺切除」を行います。また、非常に転移しやすい腫瘍でもあるため、発見が遅れて悪性度が高かかった場合には抗がん剤を併用していきます。

日本では猫の乳がん予防と早期発見を呼びかけるため、2019年より「キャットリボン運動」が始まりました。10月22日は「キャットリボンの日」。ぜひいつもよりもたくさん猫さんと触れ合ってチェックをしていきましょう!

キャットリボン運動HP:https://catribbon.jp/

次回は、「猫の臨床病理学」についてです。

 

 

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