ISVPS Feline Practice シリーズは一緒にプログラムを受講している獣医師 多賀に執筆してもらっています。

ISVPSというのは獣医師向けの卒業後教育を行なっている国際的な団体です。第3回の学習テーマは「猫の行動学」についてです。GPCertは国際的な修士課程に相当する資格で、オンラインで働きながら学習できるのが最大のメリットです。今回のモジュールは”猫の皮膚科学”です。

猫さんの皮膚トラブルによる受診は猫診療のおよそ15〜25%を占めると言われています。しかし、「脱毛がみられる」「しきりに舐めたり掻いたりしている」というのが一概に皮膚の症状を示すわけではないのが猫さんの皮膚を見る上で難しい点です。

今回は猫の皮膚を見ていくうえでのポイントや、猫の食物アレルギーについて解説していきます。

<猫の皮膚科の診断フロー>

猫の皮膚病の原因は以下の表のように分けられます。

この中でも多いのは、ノミやダニによる皮膚炎とアレルギーによる皮膚炎です。いつから症状がみられるのか、どのくらい続いているのか、季節によって症状に変化があるのかなどの経過から原因を絞り込んでいきます。

猫の皮膚病の診断フロー

モジュールでは、以下のような診断フローを紹介していました。

Step 1:ノミやダニがいないか被毛にコームを通してチェックします。

Step 2:皮膚糸状菌症のチェックのためウッド灯検査を行います。毛の付け根などが青〜緑色に変化するかをチェックしていきます。

Step 3:細胞診を行います。皮膚炎がある箇所を綿棒で拭う・テープでペタペタあてる・スライドグラスを直接当てるなどで検体をあつめ、炎症細胞がでていないか、細菌感染などがないかチェックしていきます。

Step 4:試験的にノミ治療を行い、ノミアレルギー性皮膚炎の診断を行います。Step1から3を行った上でこの治療に反応する症例は約29%とされています。つまり一見、ノミがいない猫でも、ノミアレルギーの可能性があります。

Step 5:食物アレルギーを診断するため除去食試験を行います。アレルギーの原因となっているタンパク源を除いたアレルギー用のフードを8週間続けてもらい、症状が治るかを見ていきます。症状が治った場合はその後7日間それまで食べていたフードに戻してまた痒くなってしまうかを調べます(これを負荷試験といいます)。

Step 6:猫アトピー皮膚症候群 (FAS) の診断を行います。Step 5までの診断を行い他の原因を全て除外した上で、ステロイドなどの炎症を抑える薬に痒みが反応した場合に猫アトピー皮膚症候群 (FAS)と診断されます。

なお、診断していく上ではほかの病気による二次的な皮膚炎の可能性も考慮していく必要があります。また、症状が重篤化した場合には皮膚生検という検査をしていく場合もあります。

猫が舐めたり掻いたりしはじめたきっかけが必ずしも「痒いから」ではないことがあるのが診断する上で難しいポイントです。たとえば、猫の膀胱炎でもお腹の舐め壊しや脱毛がみられ、皮膚炎を起こしていることがありますが、これは「お腹が痒かった」のではなくお腹に違和感があり気になって舐めているうちに生じたものです。掻くことで痒みが発生するため、まずは今起こっている痒みを和らげることが皮膚炎治療・診断で大事なポイントです。

<猫の食物アレルギー>

動物の食物アレルギーは、人の食べ物のアレルギーのイメージと大きく異なります。

アレルギーの原因物質が体内に入ってから症状が現れるまで時間がかかるため、診断と治療に時間がかかります。猫の食物アレルギーの治療には2つの柱が重要になります。

①痒みを止めるお薬の服用

今起こっている痒みは、食べるご飯を変えてもなかなか引かない上、痒みを抑えない限り悪化していきます。そのため、一時的にでもプレドニゾロンというステロイド剤を使用すると痒みがおさまります。猫の皮膚炎に対してはステロイドとシクロスポリン(アトピカ)というお薬がよく使用されます。

②アレルギーの原因となるタンパク源を摂取しない

痒みを抑えるお薬を併用しつつ、アレルゲンとなるタンパク質の種類を探っていきます。タンパク質の種類は大きく分けて「お肉」と「魚」に分けて考えていき、アレルゲンとならないタンパク源に絞ったフード(単一タンパクフード)をあげてもらうのが基本となります。(詳しくはこちら

猫の食物アレルギー治療のハードルとして、猫さんが「ご飯をたべてくれない」という問題があります。残念ながら猫のアレルギー療法食の種類は犬と比較してとても少ないため、食べなくなってしまった際の選択肢が限られます。その場合は単一タンパク源の一般総合栄養食も検討に入れることがあります。療法食よりも厳密に原材料が管理されていないこともあるため、可能な限り療法食を使いますが、相談しながら飽きてしまった場合の選択肢を広げておくことも重要です。診断に時間がかかる上、長期的に付き合っていくことになりますので、お薬を併用しながらうまく付き合っていきましょう。

次回は「猫の腫瘍学」について紹介していきます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。