尿検査は猫の健康診断として最も価値が高い検査の1つです。なぜなら猫は泌尿器の病気が多いからです。具体的には、慢性腎臓病、糖尿病、尿路結石、細菌性膀胱炎などが挙げられ、これらの病気は尿検査で異常を検知することができます。
・尿比重
尿比重というのは尿の濃さを示す項目です。比重とはもともと物体の密度を表す言葉ですので、尿比重が高いと尿が濃い、低いと薄いと解釈することができます。たくさんお水を飲むと薄いおしっこがでるのは尿が希釈されて尿比重が低下しているからなんですね。
猫の正常な尿比重 >1.035
もちろん猫でもお水をたくさん飲めば尿比重が下がりますが、猫が自ら意識的に水をたくさん飲むことは現実的には少ないです。そのため尿比重が低下している場合は、慢性腎臓病や甲状腺機能亢進症の可能性があります。この2つの病気は高齢の猫の一般的な病気で、進行を抑えるためには早期に治療を開始することが大切です。
ある研究では1000匹以上の”一見健康な猫”の尿比重を調べたところ、12%の猫で尿比重の低下(1.035未満)という結果が出ました。さらに尿比重1.035未満の猫の追加検査をしたところ38.5%で病気がみつかりました。
さらに尿比重の低下と病気の関係性は9歳以上になると強くなることがわかりました。9歳以上の尿比重が低い猫は追加検査をすることで約50%で病気をもっていることがわかりました。
・他の検査で異常がないのに尿比重が低下する理由
反対に50%の猫は他の検査で異常がなくても尿比重が低下していました。病気でないのに尿比重が低下する理由としては以下の可能性が考えられます。
・尿路結石の療法食を食べている
・水分含有率が高いウェットフードを食べている
・初期時の腎臓病で尿比重以外の検査項目がすべて正常
・尿糖 尿ケトン
猫は血糖値が300mg/dlを越えると尿中に糖が分泌されます。そして尿糖が出た場合、糖尿病の疑いが強まります。猫の糖尿病は気付かれにくく、より重篤な状態の糖尿病性ケトアシドーシスに陥った状態で来院される猫が多いです。
このケトンも尿検査で調べることができます。これは尿スティックという試験紙に尿を浸すだけでいいので、すでに糖尿病を患っている猫さんは自宅でケトンが出ているか否かを確認することができます。ケトンが出たら危険信号ですのですぐに連絡をもらいます。
糖尿病以外ではファンコニー症候群という病気でも尿糖が出ますが、猫ではまれな病気です。尿スティック検査はマイナス(−)、とプラス(+)そして2プラス(2+または++)などで評価します。尿糖は−が正常です。
・尿蛋白
猫の尿中には微量のタンパク質が含まれるため、1+までは正常です。猫で尿蛋白がでる理由としてはやはり慢性腎臓病が多いです。腎臓からタンパク質が漏れないのが正常ですが、それが外に出てしまうのは腎臓の濾過フィルター(糸球体)の異常が示唆されます。
尿中のタンパク質を実数で測ることができるUP/C(尿中蛋白質/クレアチニン比)は慢性腎臓病のサブステージ分類に採用されていますので、腎臓病で蛋白が+の場合はUP/Cを測定しましょう。
そのほかには尿中に細菌がいたり、膀胱の細胞がたくさん落ちていると、そのタンパク質が関与して+になることもあります。
・尿ビリルビン
ビリルビンとは赤血球中の酸素を運ぶヘモグロビンが壊れたもので、黄色い物質なので尿の色自体も黄色が強くなります。ビリルビンが増えると皮膚が黄色くなる黄疸が出ますが、猫は毛に覆われているため黄疸に気がつきにくいです。尿ビリルビンは−(マイナス)が正常ですが、血中のビリルビン濃度が高まると尿にも分泌されるようになります。
猫で尿ビリルビンがでる原因になりやすいものの1つが肝リピドーシス(脂肪肝)です。肝リピドーシスは肥満猫で多い病気なので気をつけましょう。
また溶血性貧血といって、血管の中で赤血球が壊れる時も尿ビリルビンが出ます。タマネギ食べて起こるタマネギ中毒や、赤血球に入る寄生虫猫ヘモプラズマ感染症、前触れなく起こる免疫介在性溶血性貧血などが溶血を起こす原因に挙げられます。
・血尿 血色素尿
どちらも赤い尿ですが、正確には泌尿器(腎臓〜尿道)のどこかで出血している血尿と、赤血球が大量の破壊されて血色素が腎臓から排泄された血色素尿との二つに分けることができます。どちらが多いかというと、ほとんどが血尿です。血色素尿は上記の溶血性貧血が、血尿は膀胱炎が原因になっていることが多いです。
さらに膀胱炎の原因として特発性膀胱炎(FIC)、尿路結石、細菌性膀胱炎、があげられます。これらは下記の尿沈渣検査、エコー検査で調べることでわかります。
血尿は−(マイナス)が正常ですが採尿時に、特に膀胱穿刺では血が滲み+になることがあります。
・尿沈渣検査
顕微鏡で尿中の細胞や細菌をみる検査です。これでわかるのは、細菌性膀胱炎、結晶(結石になる前の小さな粒子)、そしてまれではありますが膀胱のがんの疑いが発見されることもあります。
尿から細菌がみつかると、インフルエンザのようにどこか他の猫にうつされたのではないかと心配されますが、猫の細菌性膀胱炎の原因菌で一番多いのは大腸菌(E.coli)です。おしり周りの菌が膀胱に入ってしまっていることが多いです。
他の病気が併発したり、高齢になり免疫力が下がると細菌性膀胱炎を発症しやすくなります。また人間同様、尿道の短いメスの方がオスよりも発症しやすい傾向があります。
・まとめ
この上図リストのように、今回のコラムにでてきただけでも8個の病気が尿検査によって発見できる可能性があります。猫で多い疾患も複数含まれています。尿検査単体では診断を確定できない、また尿検査に異常がでるとは限らない病気も多数あることには注意しなくてはいけませんが、それでも猫における尿検査の重要性が伝わると思います。一方で採尿が困難というデメリットもあり、次回は採尿方法、採尿後の扱いについてなどをまとめたいと思います。