ネブライザー療法とは薬を霧状にして飛ばし、直接鼻や肺に届ける治療方法のことです。人医療では鼻炎やぜん息で使用することが多いネブライザー治療ですが、猫医療でも使用されることがしばしばあります。ネブライザーは動物病院で行うこともできますが、 時間がかかるのと複数回行う必要があります。継続的にネブライザーが必要になる場合は、来院のたびに猫のストレスになるため、自宅でネブライザーを飼い主さんにやってもらうようにしています。
猫のネブライザーの適応
猫の場合はぜん息に加えて、慢性的な鼻炎にも適応されます。慢性的な猫の鼻炎の原因には”猫かぜ”があげられます。猫かぜというのは猫の鼻炎や結膜炎を起こす感染症の総称ですが、その代表が猫ヘルペスウィルス感染症です。猫ヘルペスウィルス感染症は一度感染すると、持続的に猫の体内に残ってしまうという点で、”人のかぜ”とは異なります。
そして猫がストレス状態に陥ると症状が再発、悪化してしまう厄介な特徴があります。猫ヘルペスウィルスを退治する根本的な治療が確立されていないため、症状の緩和を狙ってネブライザー治療を選択することがあります。なぜなら嗅覚は猫にとって大事な感覚で、鼻が詰まると猫は食欲がなくなってしまうこともあるからです。
ネブライザーの薬の種類
ネブライザーに用いられる薬は、抗生物質、副腎皮質ホルモン(ステロイド)、血管収縮剤、去痰剤、気管支拡張剤、などがあり、病気に合わせてこれらの薬を組み合わせて使います。これらの薬は病院の指示を守って使用して下さい。これを1日2〜3回行います。(各々の病院で薬の内容は異なります)
例)猫ウィルス性上気道感染症 |
ゲンタマイシン(抗生物質) |
0.2%ビソルボン吸入液 |
ボスミン外用液 |
生理食塩水 |
ネブライザーのメリット・デメリット
ネブライザーの良い点は薬を直接、患部に届けることができる点です。そのため少ない量でも効果が期待でき、体全身に対する副作用は少なくなります。また猫によっては薬が全く飲めないことがあり、その必要がないのもネブライザーの特徴です。
一方デメリットしてはネブライザーの機械が必要なこと、そして最初に使い方を覚えなくてはいけないので、多少準備が必要です。また機械の洗浄を怠ると、むしろ感染症の温床になってしまうので注意しましょう。洗い方は次の段落で解説します。
ネブライザー治療に必要なもの
・ネブライザー本体
ネブライザーの機械は色々形があります。薬剤を気化させる方法にも超音波式、ジェット式などがあり、飼い主さんが最初から選ぶのは難しいでしょう。超音波式の方が粒子が小さく、肺の奥に届くとい考えられています。
本体を選ぶ時に気をつける点は、噴霧量です。人のネブライザーは噴霧部を口元に当てますが、猫のネブライザーはミストサウナのように箱の中に充満させる(下の写真)ため噴霧量が多いものでなくてはいけません。当院では上の写真の新鋭工業 KU-200という型番を使っています。
・猫が入るボックス
いずれのボックスを使うにしても消毒、乾燥は徹底しましょう。
最も簡単なのは持っているキャリーにビニール袋をかぶせる方法です。いくつか通気孔として、穴を開けましょう。またビニール袋も感染症の温床になるので定期的に交換しましょう。
他には衣装ケースをネブライザーのチューブが入るように改造する方法が一般的です。作るのは大変ですが、一度作れば乾燥しやすく洗いやすいのでもっとも衛生状態を保ちやすいです。上の写真では幅40cm、高さ35cm、奥行き50cmの衣装ケースに穴を開けて使っています。
最近では酸素室の部屋の部分だけを購入してネブライザー用に代用することもできます。上部の穴からチューブを入れることができ、適度に気密性が確保されています。素材がファブリックなので、しっかり乾燥させるのと定期的に交換する必要があるでしょう。4〜5kgの猫であればSサイズ(奥行60cm×幅50cm×高60cm)で十分でしょう。
ネブライザーのやり方
①まず本体に水道水を入れましょう。中に線が引いてあるのでそこまで入れます(約200ml)。
②カップホルダーをその上に設置し、生理食塩水と各種液剤を順次入れていきます
③ホースを本体とボックスにしっかり取り付け、電源を入れます。タイマーは15分にセットし、噴霧量はマックスでokです。このまま液剤が完全になくなるまで待ちましょう。猫が咳き込んだり、ボックスから出ようとしないか、特に初めてネブライザーをするとき、注意しましょう。
ネブライザーの洗い方
①水道水を捨て、槽内に残った水分をキッチンペーパーなどで拭き取りましょう。
②各種パーツを分解し、水洗いし、自然乾燥させましょう。湿ったまま(特にチューブ)使い続けていると雑菌が繁殖するため危険です。
その他にファンの洗浄などの保守点検(目安3ヶ月に1度)、エアーフィルターの交換(目安6ヶ月に1度)が取扱説明書に書いてありますので必ず目を通して、日々チェックしましょう。
まとめ
私は慢性化した猫かぜ、鼻炎、また投薬が困難なケースでネブライザーを提案することが多いです。基礎疾患(腎臓病やがんなど)がある猫で免疫力が低下すると、風邪をひきやすくなるので、そういった高齢猫でも使うことがあります。
自宅でできるとはいえある程度準備が必要なため、動物病院で数回実施して効果があることを確認してから本体を購入するか決断すると良いでしょう。またネブライザーは医療機器であり、間違った使い方をすればむしろ状態を悪化させます。必ず獣医師の指示のもと実施してください。
参考資料
・Clinic Note 2012 Jan