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食事の頻度とストルバイト結石の形成は関係するのか

飼い主さんから「食事の回数は少ない方がストルバイトは溶けるんですか?」と質問されることがしばしばあります。結論から言うと、食事回数はあまり関係ありません。改めて獣医向けの参考書、尿路結石のガイドライン(またはコンセンサスステートメント)を確認しましたが、食事回数に関する記述は見当たりませんでした。

それでは、どこからこの考え方は生まれたのでしょうか。ネットを検索すると「食後尿pHが上がり、その後時間をかけて戻る」→「尿pHが低い方がストルバイトが形成されにくい」→「尿pHが低い時間が長い方がいい」→「食事間隔をあけた方がいい」という理論がいくつかのフード販売サイトで見つかりました。これは事実なのでしょうか。

まず「食後に尿pHが上がる=アルカリに傾く」のは事実です。動物が食事を摂取すると胃酸が分泌され、その分からだ全体がアルカリ性に傾きます。それに対して腎臓はアルカリイオンを排泄してバランスを取ります。その結果尿のpHは上がります。この現象は猫だけでなく全ての動物で起こります。

「尿pHが低い方がストルバイトが形成されにくい」、と言うのも事実です。ストルバイトは尿pHが上がるとリスクが上がり、溶かすためには尿pHを6.5未満にすることが推奨されています。

最後に「食事間隔を開けた方がいい」は事実でしょうか、これは「わからない」というのが現時点での回答になります。食事間隔をあけた方が結石が形成されづらかったというデータは、私が調べた限りは見当たりませんでした。

麻布大学:以前は南麻布に校舎があったが、空襲に遭い現在は、相模原市に位置する。獣医師育成のために1890年に創設された私立大学

猫の食事と尿pHに関する研究は麻布大学で実施されています。同じ猫たちを24時間フードを食べれる環境(自由採食)で2週間、その後AM9〜12時だけ食べられる環境(時間制限)で2週間飼育し、尿pHの変化を調べました。

AM9〜12時だけ食べられる環境の猫は食後6時間でpHが8前後まで上昇し、その後下がりました。一方で24時間食べられる環境では1日を通して尿pHは安定していました。1日を通しての食事の摂取量、尿pHの平均値は変わりませんでした。排尿の回数は時間制限をした時の方が有意に減少しました。

この論文では食事を細かく分割したほうが尿pHの変動が少なく、また排尿回数(排泄回数が少ないと膀胱炎になりやすい)が多かったことから、むしろチョコチョコ食べ(自由採食)の方が結石予防の観点からは望ましいかもしれない、と結論で述べています。

 

投与方法による尿pHの違い。、Meal Fed:時間を決めて与える。Free choice fed:自由に食べていい。参考資料3より

一方でかなり古い研究ですが、食事を継続的に摂取することは自然環境では起こり得ない状況であり、それにより尿pHが常にやや高めになることが、ストルバイト結晶の形成に影響しているのではないか、という論文もあります。麻布大学の研究のように、時間制限と自由採食に分けて、尿のpHを測定しています(上グラフ)。

 

※40年前のフードでの研究です、現在の療法食と栄養バランスが異なります。療法食は尿pHが上がらにくい。療法食を自由採食で与えるとほとんど尿pHは変動していない(Prescripiton Diet c/d)。参考資料3より

またこの研究では食事の種類によって尿pHの上がり具合も調べています。やはり療法食の方が食後の尿pH上昇のピークが少ないことがわかります。

まとめ

食事回数を減らすことで、尿pHの日内変動が大きくなることは事実ですが、それが尿路結石の治療に有効かと言われると不明です。有利に働くという意見と、反対の意見が混在しています。少なくともガイドラインや獣医学書では推奨はされていません。私個人の経験でも食事回数の調整が効果的な印象はありません。やはり療法食を食べ、水をしっかり飲むことが治療成功の1番のポイントであると日々の診療で感じています。

ストルバイトの形成はpH、マグネシウム量、排尿の回数、水分量、肥満、運動不足、感染症など様々な理由が関与していると考えられています。pHは重要な項目ですが、それだけに固執することなく栄養バランスや環境にも注意して治療及び予防することが大切です。

参考資料

1・Lulich, J. P., et al. “ACVIM small animal consensus recommendations on the treatment and prevention of uroliths in dogs and cats.” Journal of veterinary internal medicine 30.5 (2016): 1564-1574.

2・鈴木達也, 後藤健, 舟場正幸, 入来常徳, 波多野義一, & 阿部又信. (2001). ネコの排尿頻度ならびに尿 pH の日内変動 給餌方法ならびに食餌中蛋白質含量の影響. ペット栄養学会誌4(Supplement), 39-40.

3・Lewis, L. D. and Morris, M. L. 1984. Diet as a causative factor of feline urolithiasis. Vet. Clin. North Am. Small Anim. Pract. 14:513-527.

4.Finke, M. D., & Litzenberger, B. A. (1992). Effect of food intake on urine pH in cats. Journal of Small Animal Practice33(6), 261-265.