イヌの生物分類を調べてみると、哺乳綱 ネコ目 イヌ亜目 イヌ科 イヌ属 タイリクオオカミ種 イエイヌ亜種 ということがわかります。なんとイヌはネコ目に分類されているのです。
ネコ目は食肉目とも呼ばれ、主に肉を食べる動物はここに含まれます。ネコ科、イヌ科以外にもマングース科、クマ科、イタチ科、そして海からはアシカ科、セイウチ科などもネコ目に含まれます。イヌだけでなく多くの動物がネコ目なのです。
生物分類の話:生物分類とは生物を進化の歴史によって分類し、体系的にまとめたものです。生物分類を調べることでどの動物と、どの動物が近い種類なのかがわかります。生物分類は新発見があると大きく変わることがあります。
生物学の分類は上から「界」「門」「綱」「目」「科」「属」「種」。例えば猫であれば、動物界 脊索動物門 哺乳綱 ネコ目 ネコ亜目 ネコ科 ネコ属 ヤマネコ種 イエネコ亜種 となります。
レスリング世界選手権9連覇の記録をもつロシアのカレリン選手は「霊長類最強の男」という異名で知られていますが、「類」は生物分類の用語ではありません。「類」は類い(たぐい)から派生し、霊長類以外にもネコ類や哺乳類などなんにもで付けることができる便利な言葉です。ここでも読みやすさを優先して生物分類に拘らず「類」も使っていきます。
なぜネコ目になったの?
ネコ目はもともと食肉目と呼ばれていましたが、「食肉目では一般の人には分かり辛い」との理由で1988年に食肉目からネコ目に改訂されました。しかし、イヌなのにネコ目!?などと誤解を生み易い点、ネコ目のラテン語名である「Carnivoraは「Carn-=肉」「vor-=食う」という語根の組み合わせであり食肉目と訳すのが自然な点、から学者にはあまり好評ではないようです。
食肉目の中でもジャイアントパンダは草食中心ですし、タヌキは果実も食べます。ジャイアントパンダは食肉目イヌ亜目クマ科(クマ科はネコ科よりもイヌ科に近いとされる)ですし、タヌキは食肉目イヌ科タヌキ属です。雑食動物(肉も植物も食べる動物)を含むイヌ科よりも、野生環境下では純粋な肉食を続けているネコ科が食肉目を代表する動物として選ばれたのでしょう。
ネコは完全肉食動物であり、肉を食べないと生きていけません。イヌも肉食動物ですが、実は肉以外の栄養素だけでも生きていけるため雑食動物に分類されます。やはりネコは食肉目の中でも肉食に特化しています。
ネコ亜目とイヌ亜目の分かれ道
ネコ科とイヌ科の生物分類の分かれ道はネコ亜目に属するか、イヌ亜目に属するかです。ネコ亜目とイヌ亜目を分ける解剖学的特徴は、鼓室胞にあります。
鼓室胞とは中耳の中にあり、鼓膜が捉えた振動を内耳に伝える空間のことです。イヌ亜目が鼓室胞が1つの部屋なのに対して、ネコ亜目の場合鼓室胞が2つに別れている(胞中隔)のが特徴です。ネコ亜目に含まれる動物は全てこの特徴を持っています。
イヌ科はネコ科の仲間なの?
イヌ科はネコ科から派生したわけではありません。ネコ科とイヌ科は共通の祖先がいて、その祖先が別々の方向に進化した結果ネコ科とイヌ科が生まれました。
ネコとイヌの共通の祖先は6500〜4800万年前のミアキスという小さなイタチのような生き物であると考えられています。ミアキスを含むミアキス科というグループが食肉目のスタートであるという説が一時は支持を受けました。しかしその後の検証でミアキス科は、人が作ったグループ(人為的グルーピング、多系統群※1)と判断されました。
※1多系統群:異なる複数の進化的系統からなるもの。wikipediaの恒温動物の例がわかりやすいので気になる方は参考にして下さい。分かり辛い言葉なので、気にせず読み進めてもokです。乱暴に言うと、研究が進んだ結果間違えていたことが判明したということです。
それでもイヌとネコの祖先はミアキスのような時代に生まれた小さな樹上生活をする肉食哺乳類であることは間違いないとされています。
イヌ派の方にとっては「イヌがなんでネコ目なんだよ!」と不満が残る分類になっていますが、イヌ科がネコ科に劣るとか、歴史が浅いというわけではありません。食肉目というグループを考えたとき、その特性(ここでは肉を食べること)を最も強く持っていて、一般の人がすぐにイメージできる動物がネコだったのです。