写真はチーターです。チーターほど細身の猫は痩せすぎですが、しなやかな体をもつチーターは美しいです。今回は猫のダイエットの話をします。
猫のダイエットを成功させることは、大変難しいです。人間のダイエットには本人の強い意思が必要ですが、猫のダイエットには飼い主さんの強い意思が必要になります。
フードの量を減らせば痩せるはずですが、「ずっと空のお皿の前に居座る」「ご飯を要求して鳴き続ける」「フードの量をグラムで計ってるのに痩せない」など、なんらかの壁に当たるでしょう。
ダイエットのモチベーションをあげるには①「肥満による病気リスク」の認識と②「目標体重の設定」が必要です。そして③「実際に体重を減らすための環境と食事」を整え④「減量期ペース配分」最後に⑤「リバウンド防止」をすることで初めてダイエット成功といえるでしょう。
今回はこの5つのStepに分けて解説して行きましょう。
注意:猫の急激なダイエットは肝リピドーシスや糖尿病の発症リスクを高めます。人間では断食道場なる数日絶食するダイエットもあるそうですが、そういった無茶なダイエットは猫は特に危険です。また極端なダイエットや成長期の猫のダイエットは必須栄養素(アミノ酸、必須脂肪酸、ミネラル、ビタミン) の欠乏を起こす可能性があります。かかりつけの獣医師と相談しながら安全なダイエットを行ってください。
Step1肥満による病気のリスクを認識
具体的な病気をこのページ●猫の肥満 どんな病気が怖いの?にまとめたので参考にして下さい。もし家族全員で可愛がってご飯をあげているのではあれば家族全員に伝えてください。ありがちな失敗例として「実は家族の誰かがおやつをあげていた」パターンがあります。家族全員が理解することが第一歩です。
Step 2 目指すべき目標体重の設定
目標がなければダイエットは始まりません。目標体重をこちらページ●猫の理想体重の求め方 うちの猫はデブ猫??にまとめましたので参考にして下さい、一番オーソドックスなボディコンディションスコア(BCS)で求める方法がおすすめです。
ダイエットはときに半年〜1年にも及びます、最終的な目標だけでなく、月単位での中間目標を決めることも大事です。
Step 3 実際に体重を減らすための環境と食事
このパートから具体的にダイエットを開始します。体重を減らすには1日摂取カロリーを減らすか、1日消費カロリーを増やすかのどちらかです。摂取カロリー<消費カロリーの状態であれば痩せるはずです。
しかし猫の場合は増やせる消費カロリーに限界があります。もしあなたの猫がまだ若ければ、ねこじゃらしで遊ばせることができますが、シニア猫の場合は見向きもしない猫も多いでしょう。
本来猫は一生狩りをして生活するため、たとえ食欲が満たされていても、獲物を狩る狩猟欲求が0になることはないといわれています。しかし実際の室内飼い猫はシニアになると全くおもちゃで遊んでくれなくなるのが実情です。
Step 3−1消費カロリーが増すような環境作り
運動をすることはカロリーを消費するだけじゃなく筋肉量が増えて基礎代謝も上がるので一石二鳥です。ここらへんは人間のダイエットと一緒ですね。ダイエットの後半にある程度痩せてくると基礎代謝が下がってしまい体重の落ちが悪くなります、それためにも防ぐにも運動は大切です。
猫の場合、イヌのように散歩の距離を伸ばすなど積極的に運動させられません。運動だけでダイエットを成功させるの難しいですが食事制限の負担を減らすために大事な要素です。
●おもちゃ:最初には1日2〜3分だけでもいいです。徐々に時間と運動量が増えればしめたものです。
●遊ぶとフードがこぼれるおもちゃ:中に少量のドライフードが入るおもちゃが市販されています。転がすと少しづつフードがでる仕組みなっており食べるために運動が必要です。あまりに早食いの猫にも向いてます。また室内飼いの猫の場合は気晴らしにもなるので日中留守の間の退屈しのぎにもいいでしょう。
●キャットタワー:上下運動を増やす目的です。最初は登らなくても体重が減ると登ってくれる猫もいます。爪研ぎやおもちゃが付きのものが理想的です。最近はいろいろなデザインがあって値段も下がりましたね。
Step 3-2 食事管理
ダイエット時の目標カロリー計算
ダイエット時の目標カロリー摂取量は1日あたり理想体重×35〜40kcalといわれています。Step2で求めた理想体重をもとに計算してみましょう。
例)現在7kgの猫がボディコンディションスコア(BCS)4であった。ダイエットをするための1日あたりの目標カロリー摂取量はいくつか?
BCS4は理想体重の115%なのでまず理想体重を求めると 7÷1.15=6.08kg
6.08×35=213.04kcal
となります、この1日カロリーはおやつ、ミルクなどのカロリーも含んだ数字です。ダイエット中におやつをあげても大丈夫です。歯石防止目的や、コミュニケーションとしておやつも上手く使って下さい。ただその分のカロリーもしっかり計算にいれることが大事です。
フード量の計算
1番簡単なドライフードのみを与えている場合の計算です
例)上例の猫がロイヤルカナンのメールケア(358kcal/100g)を食べていた場合、1日なんグラム?
213÷358×100=60.8g
フードの種類
カロリー計算ができればウェットでもドライでも両方ミックスでも大丈夫です。ウェットフードの方が水分含量が多いので満腹度は高いです。また低脂肪、高食物線維でカロリー密度が低く、満腹効果の高いフードが市販されています。
こういったフードは同じカロリーでも体積が大きいので猫が空腹でストレスを感じにくくなるように工夫されています。また一日カロリー量は減らしても必須栄養素が欠乏しないように配慮されています。
「満腹感サポートを食べてますが痩せません!」という猫がいますが、カロリー計算をせずにこういったフードを与えても痩せません。これらのフードはダイエットのお助け程度と考えて使って下さい。
Step4 体重減量ペース配分
どのぐらいのペースで体重を減少させるか ??
週に1〜2%の減少が望ましいといわれています。●猫の肥満 どんな病気が怖いの?こちらの記事でも触れたように急激なダイエットは肝リピドーシスはもちろん、糖尿病の発症に関連するリスクが増加させる可能性があります。
また空腹状態が続くとずっとフードの前にいる猫、ストレスで布やダンボールを食べてしまう猫もいます。そういった場合は以下のような工夫をしてください。
①満腹サポートなどのカロリー密度の低いフードを使う
②ウェットフードを併用して満腹度をあげる
③小出しにして食事回数を増やす
④徐々に1日カロリーを減らして慣れてもらう
ダイエットの導入期は週に1回は体重を測定することをお勧めします。測定する体重計はできれば0.01kgまで測定できるものの方が少量の減少も検知できモチベーションに繋がりやすいです。人間の赤ちゃんようのベビースケールがおすすめです。
一般的には減量速度はダイエット開始時期は速く、その後減速します。
最初に設定したフード量はその猫の減少ペースによって変えて行く必要があります。殆どの猫は一定のペースでダイエットが成功することはありません。減量スピードが遅すぎる場合はさらに5〜10%ほどフード量を減らす等調節しましょう。
どのぐらいの期間でダイエットが終了するか??
ダイエットを成功させるコツとして目標を明確にすること、何ヶ月ダイエットにかかるのかを知っておくことが大事です。肥満度120%の猫が毎週1%づつダイエットした場合、約20週間=5ヶ月かかります。ダイエットの後半は体重が落ちにくいので数ヶ月から半年ぐらいはかかることを想定してください。
体重が減らない。。。むしろ増えたときの対処法
①まず最初の肥満度評価が適切だったのか再チェックします。そして1日のカロリー量を再計算しましょう。
②家族内でごはんを過剰にあげている人はいないか、隣人からもらってる可能性はないか、台所漁りをしていないかチェックします。
③他に考えられる理由がなければ現在の1日カロリーからさらに5〜10%減少させます。
④ホルモン性疾患により痩せにくくなっている可能性もあります。猫では高プロラクチン血症、末端肥大症などがみられることがあります。
Step 5 リバウンド防止
目標体重まで落ちたら体重維持の管理に切り替えていきます。ダイエットの成功は目標体重の維持なので注意深く1日カロリーを増やします。理想的な猫の1日カロリーは体重1kg当たり55kcalですが、一度肥満傾向になった猫の多くはこのカロリー計算でフードを与えるとリバウンドします。なので以下の2つの方法でフード量を決定します。
①2週間ごとに現在の1日カロリーを10%ずつ増やします。体重が減少しなくなる1日カロリーが維持量になります。
②ダイエットの過程で体重減少が起こらなかった時期があれば、その時の1日カロリーを維持カロリーとします。
維持期にはダイエット時ほどの食事制限やダイエット食は必要ありませんが、満腹サポートなどのカロリー密度の低い食事に慣れている場合はフードを変えない方がリバウンドしにくいでしょう。
その他
サプリメントについて
L−カルニチン:猫では食事と同時に投与することで体重減少を促進することがわかっています。人間のサプリメントをそのまま与えると量が多すぎるので獣医師に相談してください。
α-リポ酸:人間のダイエットサプリとして販売されていますが、αリポ酸は猫に絶対に与えないでください。α-リポ酸を猫が飲み込むと低血糖を起こし、高確率で亡くなってしまいます。いまのところ有効な治療法は報告されていません。さらに危険なことにαリポ酸の香りは猫を引きつけるようです。机の上の包装されたαリポ酸を包装を食い破って食べ、亡くなった事例が報告されています。もしαリポ酸のサプリメントが自宅にあるの場合は引き出しの奥にしまうなど猫が物理的に届かない場所に保管してください。
体重1kgあたり30mg以上摂取すると中毒が起こるといわれており、低血糖におちいる原因は不明です。もしα-リポ酸の誤食を早期に発見した場合は誘吐処置か胃洗浄を行わなければいけません。
多頭飼育の場合
多頭飼育でのダイエットはさらに難しいです。多頭飼育で全員が肥満の場合は全ての猫に減量用フードを与えても大丈夫です。もし3匹中1匹だけが肥満の場合、その猫はおそらく他の猫の分のフードまで食べている可能性が高いでしょう。そういった場合は他の猫が食べ残したフードは片付けてしまってください。
① それぞれの猫に、別々の部屋か場所で食事をする。
②同じ場所で、各々の猫が食事を食べ終わるまでみてる。
③猫ごとに時間を変えて食事をする。
④肥満の猫が届かない場所にフードを置く。(例:肥満猫がよじ上れないような高い場所、肥満猫が入れないような小さい穴を開けた箱の中など)
しかし、同居猫がご飯をちょこちょこ食べる性格だと②③はかなり手間と時間がかかります。④は上手くそういった場所が作れれば効果的です。 ①が一番現実的な方法です、ちょちょこ食べの猫以外はその部屋に入らないようにしてゆっくり食べてもらいまいましょう。
最近ではマイクロチップで個体認識して、特定の猫が近づいた時だけフタが開くペットフィーダーが発売されています。多頭飼育のダイエットに効果的がある可能性があるでしょう。
最後に
私は猫のダイエットは人間より難しいんじゃないかと思っています。時間がかかることを理解し、こまめに体重を測ることがコツでしょう。あなたの愛猫がもしボディコンディションスコア5以上の肥満猫であれば、いますぐダイエットに挑戦してみてください。理想的な体重を維持することが健康と長生きに繋がることは確実です。