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猫が吐いた時に考えること 〜嘔吐〜

猫の病院で最も多い来院理由が「嘔吐」です。猫は比較的吐きやすい動物で、健康な猫も吐くことがあります。そのため、それが病気によるものなのか判断が難しいです。動物病院に電話してみても「診てみないとなんとも言えません」と言われて困ってしまった経験がある方も多いでしょう。確かに診てみないわからないのは事実です(私もそう答える事もあります)が、吐く度に病院に行っていたら猫も飼い主さんも身が持ちません。猫が吐いた時に、どんな嘔吐が危険なのでしょうか。

1.危険な嘔吐 2.猫が吐いた時の考え方 3.猫にとっての嘔吐 4.まとめ

1.危険な嘔吐

まず知っておきたいのは、どんな吐き方が危険なのか。つまり病気が隠れていて可能性が高い嘔吐はどのような特徴があるのか、以下危険な嘔吐の特徴を並べます。

・1日複数回の嘔吐(特に3回以上):なんども吐いていると脱水を起こし、体力が奪われる

・連続3日以上の嘔吐:慢性的な病気が隠れている可能性

・吐こうとするが吐けない:紐のようなものがつっかえていたりする可能性

・嘔吐物が赤黒い、または黄色い:赤黒は血、黄色は胆汁の色

・吐いた後にぐったりしている、元気食欲がない:慢性的な病気が隠れている可能性

・体重が減っている:慢性的な病気が隠れている可能性

・これまで全然吐かなかった猫が吐いた:病気によって吐いている可能性

これらのうち1つでも当てはまっていたら病院に行った方が良いでしょう。体重は重要なチェックポイントです。猫は被毛に覆われているため、痩せていても気がつかない事があるのでこまめに体重をチェックしましょう。

体重はベビースケールで測るとgood

2. 猫が吐いた時の考え方

猫が吐いた時、獣医師はどのような考え方をしているのでしょうか。人間は嘔吐が見られた時な重度の胃腸の病気(例:胃潰瘍、ノロウィルス、膵炎など)を疑います。一方、猫が吐いているときはもちろん胃腸の病気も疑いますが、それ以外の原因がある事の方が多いと感じます。そのため「吐いている」という症状からは、以下の病気の可能性を考えなくてはいけません。

猫が吐く原因リスト(これ以外にも嘔吐の原因になる病気はあります)

・胃腸の原因

炎症性腸疾患 食物アレルギー 胃腸のがん 異物の誤食
毛球症 巨大食道症 食道炎 特発性腸管運動障害
膵炎 胃潰瘍 腸重積 感染症(回虫など)

・胃腸以外の原因

腎疾患 肝疾患 中枢神経疾患  甲状腺機能亢進症
糖尿病 腹膜炎 高カルシウム血症  子宮蓄膿症
中毒  薬の副作用  乗り物酔い  ストレス

この中から猫のプロフィール、問診と身体検査を頼りにどの病気の可能性が高いのか考えます。電話相談だけではこのリストの中からどの病気の可能性が高いのか予測できないため「なんとも言えない」となってしまいます。そのほかにフードを変えた直後や、気温の変化が激しい時期などは吐くことが多いように感じます。

3.猫にとっての嘔吐

猫は生理的な嘔吐といって、全くの健康体で嘔吐することがあります。元々はネズミなどの獲物を丸呑みにした時に、消化できない被毛を吐き出すために吐いていました。腐敗した肉や毒性植物を食べてしまった時のために吐くのが上手いという説もあります。また食道の筋肉が平滑筋(犬は横紋筋)であったり、胃食道括約筋の構造も嘔吐、吐出しやすい要因の1つでしょう。猫によっては毎日1回必ず吐く猫もいて、内視鏡検査まで行っても全く異常がないこともあります。

一方で、人間は健康な状態で吐くということはまずありません。人間が吐いた場合は比較的重度な胃腸の病気(胃潰瘍やノロウィルス、膵炎など)が原因になっていることが多いでしょう。同じ嘔吐という症状ですが、人間と猫では別のものとして捉えなければいけません。

4.まとめ

猫の嘔吐は個体差もあり、解釈は非常に難しいです。少なくとも上記の「危険な嘔吐」のサインがあれば一度動物病院で相談した方が良いでしょう。電話だけでは伝わらない、実際に猫を見て触ってみるとわかることがあります。

慢性的な嘔吐に悩んでいる飼い主さんはどこまで検査をするかじっくり相談しましょう、猫は内視鏡検査を行うのには麻酔をかけなくてはいけませんし、検査費用も高額になりがちです。若く、体重が維持できており、毛並みの良い猫は病気が隠れている可能性は低いです。反対に歳をとっていて、体重が減った、毛もパサパサになって来た猫では胃腸の疾患に限らず、腎臓病や甲状腺機能亢進症で吐いている可能性を考えなくてはいけません。

嘔吐という症状を解釈するにあたって、人間の基準はあてになりません。猫の場合は、胃腸の病気以外で吐いていることも多いです。猫の生理的な嘔吐と病的な嘔吐は獣医師であっても判断に迷うことが多々あります。できるだけ日頃の様子を観察し、どこがいつもと異なるのか問診でしっかり担当医に伝えましょう。