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猫の移動ストレス 車・飛行機の注意点

引っ越しなどの理由により猫と長距離の移動をしなくてはならない、と相談を受けることがしばしばあります。動物病院に車で10分の移動で鳴き続ける愛猫の姿を見ると、車や飛行機の長距離移動に耐えられるのか心配になります。今回猫の長距離移動時に気をつける点について解説します。

1.出発前の準備 2ストレスを減らすためにできること 3.当日の注意事項

1.出発前の準備

移動の当日に向けてできる準備について解説します。海外に行く場合は入国に必要な書類を調べましょう。入国に必要な書類は入国する国によって異なり、また変更する恐れがありますので必ず各国の大使館に確認をとって下さい。心配であれば料金は張りますが手続きの代行サービスもあるようです。

入国条件の1例(動物検疫所

・事前許可証(パーミット)

・健康証明書

・マイクロチップ装着、証明書

・狂犬病予防接種、証明書

・猫白血病などの予防接種、証明書

・寄生虫などの予防接種、証明書

・血清検査

・在住(期間)証明書

1.1健康チェック

移動をする前に動物病院で健康をチェックしましょう。特に半日がかりの移動、高齢猫は移動のストレスで状態が悪化する危険があります。大きな病気がないか事前にチェックしましょう。健康証明書が必要な場合はこのときに書いてもらいましょう。

・紹介状:既に病気で通院している場合は、かかりつけの動物病院で紹介状や治療報告書を書いてもらうと引っ越し先の動物病院でもスムーズに治療が受けられるでしょう。

1.2ワクチン、マイクロチップ

海外に移動する場合は多くの国で狂犬病ワクチンとマイクロッチップの接種が義務づけられているので注意しましょう。実際にワクチンを打ってから抗体ができたことを証明する書類が必要になり、抗体が思うように上がらないこともあるので数ヶ月前から準備しましょう。

狂犬病ワクチンの一例。スムーズにいっても2ヶ月かかります(2015年9月現在)

また移動中は猫がパニックを起こし脱走するリスクが高いのでマイクロチップを接種することをおすすめします。首輪にも名前と連絡先をつけておきましょう。

1.3航空会社をチェック

キャリーのサイズ、重量など各航空会社の条件を確認しましょう。国際線の航空会社によっては猫の機内持ち込み(客室)ができる会社も増えていますので問い合わせてみましょう。機内持ち込みの場合は事前に予約が必要になります。

いわゆる短頭種と呼ばれる鼻が短い犬(ブルドック、シーズー)や猫(ペルシャ、エキゾチックショートヘア)は、熱中症や酸素欠乏に陥りやすいため搭乗できないこともあります。猫の品種も事前に確認しましょう。

1.3.1飛行機の死亡事故について

国内線に乗ったチワワが亡くなったニュースは記憶に新しいです。残念ながらアメリカの主要航空会社に対する調査では、毎年貨物室で移動した犬や猫がなくなっている事実があります(猫で2005年〜2015年の間に44匹)。死因の多くは熱中症、低体温症、低酸素症、外傷などです。航空会社も改善に努めていますが、完全に安全ではないという事実は認識しなくてはいけません。

1.3.2事故を減らすために

・客室に猫が入れる航空会社を探す:異変に気がつけますし、ロスト(紛失、脱走)の危険性を減らすことができます。

・直行便を選ぶ:待ち時間、ロスト(紛失、脱走)の危険性を減らすことができます。

・過ごし易い時間を選ぶ:夏であれば早朝または遅い時間、冬であれば日中の便を選びましょう。暑すぎる、寒すぎる日は安全のために動物が搭乗できないこともあります。

・繁忙期は避ける:忙しい時期は空港のサービスが低下しますし、待ち時間も増えます。できれば週末ではなく平日の便の方が好ましいでしょう。

・ダイエット:肥満猫はより熱中症、酸素不足になりやすいです。健康とともに適正体重を維持しましょう。

2.ストレスを減らすためにできること

・車に乗れるか確認:いままで車に乗ったことがなければ、一度短い時間で車に乗る練習をしましょう。車酔いをしないか、長距離ドライブに耐えられるか確認しましょう。

・キャリーに慣れさせる:出発の1ヶ月前からキャリーに慣れてもらいましょう。中にタオルを敷いて、いつもくつろいでいる場所に置いておけば自然に入ってくれるでしょう。キャリーの中には移動当日も同じタオルを入れておきましょう。タオルはあまり厚手でないものの方がいいです。

・移動に適したキャリー選び:十分なスペースがあり、航空会社のサイズの規定を満たすことが条件になります。また車での移動はシートベルトで固定できる穴がついていると安心です。下の写真のような長距離移動用のキャリーがありますのでチェックしてみてください。

・飛行機の貨物室の場合:揺れてぶつかることがあるのでハードタイプのキャリーの方が安全です。脱走、怪我の多くの原因はキャリーの不備にあります。規定内で十分なスペースがとれ、空気がこもらず、しっかり鍵がかかり、頑丈であることが求められます。ケージには連絡先、ペット名、目的地をラベルし、生きている動物( LIVE ANIMALS)が乗っていることがわかるようにシールを貼りましょう。

・出発の前に、ブラッシング、爪切りを行いましょう。移動中により快適にすごすことができます。特に爪はキャリーにひっかっけて怪我をすることがありますので、必ず切りましょう。

2.1 鎮静剤について

米国獣医師会(AVMA)では長距離移動の犬や猫に鎮静剤の使用は勧められていません。循環器(心臓)や呼吸器に異常が起こるリスクが高いからです。また姿勢を維持するバランス感覚が鈍り、揺れたときに怪我をしやすいという理由もあります。猫ではある種の鎮静剤でむしろ興奮を起こすこともあります。

乗り物酔い:過去に乗り物酔いがある猫(よだれ、嘔吐など)は、酔い止めの薬を動物病院でもらうことができます。鎮静剤に比べて作用が強くなく、副作用も少ないので酔い止めの使用は勧められています。

フェリウェイ:リラックス効果があるフェロモン製剤です。車での移動の際にフェリウェイをキャリーに使用すると、移動中の嘔吐、排泄、鳴き声、興奮などが少なくなったという報告があります。飛行機のでの移動にも使って大丈夫。詳しくはこちら

3 当日の注意事項

・食事は早めに:嘔吐を防ぐために移動中は胃を空にしておくことが推奨されます。出発3〜4時間前に食事を終わらせるのが基本ですが、移動時間、年齢、いつもの食事時間を考慮し担当の獣医師に質問して下さい。

・猫グッズを持っていく:お気に入りのおもちゃ、ペットシーツ、水飲み皿、おやつ(乗り物酔いしなければ)、ブランケット、保冷剤(夏場)など。

3.1飛行機

・時間は余裕を持って出発:できるだけ移動時間を減らすためにギリギリに出発したい気持ちはわかりますが、いつもと同じように余裕をもって出発しましょう。慣れない手続きで思いの外時間がなくなってしまう可能性があります。

・到着後はできるだけ早くお迎えに行く

3.2車

・運転中は猫はキャリーから出さない:猫が運転手の足元に来て運転の邪魔をする可能性があります(猫がいてブレーキを踏み損ねたなど)。脱走を防ぐためにも猫は移動中はキャリーの中にいてもらいましょう。

・シートベルトを装着:猫も事故に備えてキャリーをシートベルトなどで固定しましょう。上であげたキャリーのように固定穴がついていないものは、急停車しても大丈夫なように安定した場所に置きましょう。

・休憩中に注意:必ず猫を一人にさせないようにしましょう。特に夏場は熱中症になりやすく大変危険です。

・安全運転を心がける:乗り物酔いを防ぐために急発進・急停車は避けましょう。また音楽のボリュームは抑えめで、過ごしやすい室内温度を維持しましょう。

おわりに

猫にとって移動はビッグイベントです。引っ越しなどやむを得ない場合を除いて、ペットシッターやペットホテルを利用した方が良いでしょう。残念ながら現在(2015年9月)のところ、国内線で猫を客室で移動できる航空会社はみつかりませんでした。今後日本でも客室での移動ができるようになることを期待します。

出典

・Traveling With Your Pet FAQ (AVMA)

・US Airline Animal Incident Reports 08/12/15