シャム系の猫や毛柄がクリーム色のダイリュート(詳しくはこちら)の猫は生まれつき寄り目(医学用語では内斜視といいます)であることがあります。これは眼から脳に伝達する道のり(視覚経路)の一部に異常があるからです。なぜこのようなことが起こるのか、まず正常な猫の視覚経路について解説します。
猫の網膜は外側と内側に分かれています。図の左眼に注目すると、外側の網膜は右側の赤い壁の情報を、内側は左側の青い壁の情報を脳に送ります。
左目の内側の網膜からの青い壁の情報は途中で視交叉を通り、反対側の右脳に情報を伝えます。右眼は外側の網膜で青い壁の情報を捉え、交差せずに右脳に伝えます。こうすることで、右脳で向かって左側の情報を処理し、左脳で反対の情報を処理します。
こちらが内斜視を起こすシャム猫の視覚経路です。
両眼の外側の網膜に注目してください(図:紫、緑)。通常外側の網膜からの情報は視交叉を通らないはずですが、部分的に視交叉を通り右脳に向かいます。その結果、右脳には青い壁と赤い壁の情報が混ざってしまい、混乱を起こします。同様のことが反対側でも起こっています。
では寄り目にするとどうでしょう。
眼球を内側に回転させることで、異常がある外側の網膜に入る情報が少なくなります。 左右の目とも内側の網膜から得られる情報が大部分を占めますので、視野が落ち着きます。
しかし、視野が狭くなってしまうのと、片方の目で見ているのと同じ状態になるので、立体感がうまく掴めません。
なぜシャム猫?
シャム猫の特徴的なポインテッド(鼻や耳、四肢の先だけ黒)と呼ばれる毛柄はサイアミーズ遺伝子(シャムは英語でSiamise)により起こります。サイアミーズ遺伝子はメラニン色素を抑える働きがありますが、温度が低いとサイアミーズ遺伝子は働きません。その結果、温度が低い耳や四肢などの末端部分だけが黒い毛が生え、ポインテッドになるのです。
このメラニン色素を抑える遺伝子が網膜に働くと、正常では交叉しないはずの経路に交叉が起こります。発育児の網膜細胞から視神経の経路を決定するのにメラニン色素が影響しているからだと考えられています。
シャム猫の眼が左右、上下に小刻みに動く(眼振)ことがあるのも、この部位の異常により起こります。ダイリュートの猫で寄り目になりやすいのも同様の理由で、メラニン色素を抑えるためです。
ポインテッドが特徴の猫種:シャム、ヒマラヤン、バーマン、ラグドール、トンキニーズ
シャム猫のようなポインテッド柄のミックス猫がいるのは、シャム猫がノラ猫化しサイアミーズ遺伝子が日本のノラ猫にも入ったからです。 ポインテッド柄のミックス猫にも同様のことが起こり得ます。
生活する上での注意点は
寄り目になっている猫は視野がせまいことに加え、立体的に位置感覚をつかむのが苦手ですが室内飼いであれば通常問題になることはありません。
なぜ眼で見た情報は2本のルートに分かれるのか?
2本のルートに分かれることで、距離感の違う2点(左右の眼)から得られた情報を合わさり、映像を立体的に感じるためです。
動物のごとの交叉率
視交叉で交叉する割合を交叉率と呼び、この交叉率は動物によってことなります。
上の表をみると交叉率と、動物の目の位置が関係していることがわかります。下図は人と馬の視野を比較したものですが、人間は両目で見る視野(両眼視野:下図 青色)が広いのに対して、馬は片目で見る(単眼視野:下図 水色)が広いです。
草食動物はライオンなどが襲ってこないか常に注意しなくてはいけません。馬は視野が330度あり、真後ろ以外はほとんど見ることができる一方で両眼視野、つまり立体的に見れる範囲は狭くなります。人間(霊長類)は森の中、木の上で暮らしていたので奥行きを感じ取るため、ネコ科は獲物との距離を測るため両眼視野が広くなるように進化しました。
まとめ
・シャム系の猫に起こりやすいが、すべてのシャム系の猫に起きているわけではない
・異常のある外側の網膜を使わないように寄り目になる
・室内で暮らす分には問題となることは殆どない
・眼の筋肉や神経の病気で内斜視や眼振が起こることがあるので、成猫になって突然これらの症状が現れた場合は注意