人間は9割が右利きと言われています。これは文化的な影響により本来左利きの人も右利きに矯正されていると言われています。左利きはスポーツまたは学者として活躍する人が多く、「左利きに天才が多い」という説を聞いたことがある人は多いでしょう。アインシュタイン、ニュートン、最近ではビル・ゲイツ、バラク・オバマなどが左利きです。利き足ですが、サッカー界ではマラドーナ、メッシ、中村俊輔、本田圭佑が左利きです。さて猫の世界にも天才レフティはいるのでしょうか。
猫の利き手の研究は昔からあります、古いものは1955年に行われています。しかし今までの研究では、実験の仕方により結果がバラバラでした。ある研究では「左利きが多いとでたり」、ある研究では「猫に利き手はない」など様々な意見がありました。
しかし2009年にイギリス人の研究家、ウェルズさんが行った実験では驚くべき結果が報告されているのでご紹介します。
Lateralized behavior in the domestic cat, felix silvestris cats. Animal behavior 2009; 78: 537-541
実験方法
この実験では42匹(
①ネズミのおもちゃを猫の頭上10cmに垂らし、どちらの手でパンチするか。(縦の動き)
②ネズミのおもちゃを猫の目の前に置き、ゆっくりと糸で引き猫から遠ざけたとき、どちらの手を使って最初にパンチするか。(横の動き)
③5gのマグロを目の前で小さな透明なビンの中に入れ、最初にどちらの手を使ってマグロを出そうとするか。(最終的にマグロに届いた手ではなく、最初に使った手を記録しています)
そしてこれらのテストは1日10回までとして、日にちを変えて猫1匹あたりトータル100回繰り返しました。
結果
①と②の実験では利き手はありませんでした。左右両方の手で均等にパンチを出しました。
しかし③の実験では、雄猫は21匹中、19匹は左手を、雌猫は21匹中、20匹は右手を使ってマグロを取り出そうとしました。③の実験では猫には確かに利き手があり、さらにその利き手は性別によって反対ということ結果がでました。
なぜ③のテストだけ差がでたのか??
「①と②のテストは簡単すぎた」とウェルズさんは考察しています。人間も文字を書いたりボールを投げる複雑な動作は利き手を使いますが、ドアをあけたり電気のスイッチを押す等の容易い動作はどちらの手でもできます。猫にとってネズミにパンチすることはそのぐらい容易いことなのでしょう。しかし小さなビンからマグロを出すテストはより複雑な動きが求められ、利き手を使ったのでしょう。
なぜ雄猫は左利きで雌猫が右利きなのか??
もともと犬や馬そして人間でも左利きは雄に多いというデータがあります。これは一説には男性ホルモンであるテストステロンが左利きと関係していると言われています。それにしてもここまで極端に性別によって左利きと右利きに分かれたのはこの猫の研究が初めてです。
その後ウェルズさんは2012年も猫の利き手についての論文を発表しました。その論文では12匹の同じ猫で生後3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月のときにそれぞれ③のテストを行いました。
その結果、3ヶ月齢と6ヶ月齢の時には特に利き手が決まっていなかった猫も12ヶ月齢のテストのときにはやはり雄猫は左手、雌猫は右手を使うようになりました。
これは幼猫の段階では利き手は決まっておらず、成長するにつれて利き手が決まることを示しています。この結果をみるとやはり性ホルモンが強く利き手に影響しているのではと感じさせられます。
ウェルズさんの実験では雄猫が左利き、雌猫が右利きという結果がでました。今後さらに猫の利き手の研究が進められると、なぜ性別によって利き手が違うのか具体的にわかるかもしれませんし、この実験結果を覆すような論文が出るかもしれません。
100回繰り返すのは大変ですが、③のテストを自宅の猫ちゃんで試してみてみると面白いですね。
〜詳しい実験方法〜 飼っている猫ちゃんで③の実験をやってみたい方向け
用意するもの:マグロ5g、長方形の透明のビン 7.62cm×7.62cm×11.43cm
やり方
①猫にマグロを見せます、このとき臭いを嗅がせて注意を引いてもいいです。
②マグロを猫がみている前で、ビンの中に入れます。
③マグロを取り出そうと最初に使った手を記録します。(※最終的にマグロに届いた手ではなく、最初に使った手)
これを1日10回、一日おきに行い100回行います。各実験の間には2分以上のインターバルを空けましょう。
出典
Lateralized behavior in the domestic cat, felix silvestris cats. Animal behavior 2009; 78: 537-541
The Ontogenesis of Lateralized Behaviour in the Domestic Cat, Felis silvestris catus. J Comp Physiol 2012; 126:23-30