子猫に脱毛の原因で最も多いのが、皮膚糸状菌症という真菌の仲間が被毛に感染する病気です。この病気は人間にも感染する、ズーノーシス(人獣共通感染症)の1つですので子供や高齢の家族がいる方は特に注意しましょう。
猫の皮膚糸状菌症の起因菌は99%がミクロスポルム・カニス (Microsporumu canis) でだと考えられています。これは感染している動物同士の接触、または感染した被毛やホコリの接触によって感染します。特に1歳以下の若い猫、ペルシャなどの長毛の猫、また免疫力が低下している猫に発症しやすいです。
・診断
脱毛やフケ(鱗屑)が局所的に出ている場合は糸状菌症を疑います。でやすい場所として、顔面、四肢の先端、尻尾などが挙げられます。痒みの程度は様々ですが、犬と比較して痒みは弱いことが多いといわれています。
・ウッド灯検査
ウッド灯とは物理学者ロバート・ウィリアム・ウッドさんが発明した紫外線ランプで、簡単にいうとブラックライトです。ウッド灯は波長が365nmに調整されており、これが皮膚糸状菌に当たると、上図のように黄緑色に発光します。
ウッド灯高価ですが、似たような周波数のブラックライトが安価で購入できるため、保護猫シェルターなどで代用して使われています。ただしウッド灯検査は確定診断ではないという点に注意してください。ウッド灯検査で皮膚糸状菌を疑い、顕微鏡または培養検査で菌を発見することで診断になります。また皮膚糸状菌以外では化学繊維などに当たると発光するのと、直接に眼に当てないよう注意してください。
・顕微鏡検査
脱毛部周辺のウッド灯で光った被毛を採取し、顕微鏡で確認します。感染した被毛は正常の被毛と比べて正常な構造を欠き、膨化しています。またぶどうのような球体が密集した分節分生子という構造を確認することで皮膚糸状菌と診断します。
・真菌培養検査
画像作成(画像添付文章)
採取した被毛を培地と呼ばれる、真菌の発育に必要な栄養を満たした容器に入れます。皮膚糸状菌の培養にはDTM(Deratophyte Test Medium)培地が使われ、培地の色が黄色→赤に変化し、かつ綿のような白いモヤモヤが形成されたら皮膚糸状菌の感染を示唆します。
治療
治療の内容は大きく分けて、内服、外用そして環境対策の3つになります。内服が最も効果が高いですが、肝臓に負担がかかる薬になるので、高齢や若齢の猫では外用で治療することもあります。また皮膚糸状菌は毛に感染するため、 毛を剃ることで治療期間を短く剃る方法もあります。
・内服
最も効果が高い方法です。イトラコナゾールという薬が一般的に使われます。投与期間は8〜12週間かかります。真菌の治療は時間がかかります。主な副作用として消化器症状(嘔吐、下痢)、肝毒性があり、可能であれば2〜4週に1度血液検査をすることが望ましいです。そのほかにケトコナゾール、テルビナフィンという薬もありますが、副作用の頻度から最初はイトラコナゾールが選択されることが多いです。
・ 外用
若齢や高齢、または肝臓が心配な猫では全身性の副作用がでにくい外用薬で治療することもあります。ただ内服に比べると効果は薄いです。クロルヘキシジンという消毒薬やテルビナフィンまたはミコナゾールという抗真菌薬などの合剤が使われます。最近ではルリコナゾールの外用薬が猫の皮膚糸状菌症で有効性が示唆されており、私も効果があると実感しています。外用を塗った場所は舐めないようにエリザベスカラーを装着しましょう。
・毛刈り
被毛に付着したカビを落とすため、また外用薬の浸透を良くするために病変部周囲の毛を刈ることもあります。
・シャンプー・薬浴療法
小さすぎて内服の副作用も心配、かつ広範囲で外用だけで手に負えない場合は薬浴シャンプーで全身を洗い、浸ける方法をとることもあります。シャンプーは硫黄、抗真菌薬、クロルヘキシジンを含むものなどがあります。ただし猫は基本的に水が嫌いなので実施できないこともあります。
予防
皮膚糸状菌は猫同士はもちろん人間にもうつる病気です。人にうつると、強いかゆみを伴う赤い円形の皮膚炎(リングワーム)や、ケルスス禿瘡という頭部の脱毛症があらわれます。特に子供にうつりやすいので手洗い消毒は徹底しましょう。
・環境対策
感染した被毛やフケが残らないように、床、壁、エアコンフィルターなどを掃除機および洗剤を用いて掃除しましょう。皮膚糸状菌に対しては次亜塩素酸や過酸化水素水が有効です。衣類や猫ベッドなど浸けれるものは高濃度で浸け洗いましょう。 また猫に触った時はこまめに手を洗い、感染猫は隔離し、タオルなども使いまわさないようにしましょう。
まとめ
猫の皮膚糸状菌症は若い猫の脱毛の原因として非常に多い病気です。外から保護した猫だけでなく、シェルター、またブリーダーからきた猫でも感染していることは珍しくありません。感染力が非常に強い真菌なので、治療とともに感染拡大の予防がとても大事です。もし人にうつった場合はすぐに、医療機関を受診してください、小さな子供がいる家庭では特に気をつけましょう。適切な治療をすればほとんどの猫が完治する病気です。
参考資料
・Small Animal Dermatology 49
・獣医臨床皮膚科学 OPEN GATE