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猫の新しい腎臓病の薬 ラプロスについて

2017年春に東レから猫の腎臓病の新しい薬が発売されることが発表され、各種メディアで報道されました。猫の薬がテレビで取り上げられるのはおそらく初めてで「猫の医療もここまで注目されるようになったのか」と驚きました。今回はその薬、ラプロスについて解説します、猫の腎臓病について詳しくはこちらで解説しているので、同時に参考にしてください。

 

1.ラプロスの有効成分

ラプロスは商品名でその成分はベラプロストナリトリム(BPS)です。BPSはプロスタサイクリン誘導体で、プロスタサイクリン(PGI2)というホルモンのようなもの(生理活性物質)の産生を促します。PGI2には血小板の機能を抑えたり、血管を拡張する働きがあります。そのため人の医療ではドルナーという商品名で肺高血圧症の患者さんに使われています。

※血小板:出血したときに血液が固まるのを助ける細胞。

 

2.なぜラプロスが猫の腎臓病に効くか

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猫の腎臓病は加齢により、徐々に機能が低下する慢性腎臓病が多いです。そのような腎臓は慢性的な炎症がおこっており、腎臓が機能しない組織に置き換わっていってしまい(繊維化)、ますます機能が下がるという悪循環に陥ります。ラプロスはこの繊維化を抑える効果があるからです。

・もう少し詳しく

もう少し詳しく説明すると、ラプロスには「血流の回復」と「慢性炎症を抑える」効果があります。

血流の回復:腎臓はすごく血液が豊富な臓器で細い血管が沢山あります。ラプロスは血小板が血管の内側にくっつくのを防ぎ、また細い血管を拡張させ血流を増やします。血流が増えると腎臓に届く酸素も増えるため腎臓の悪化が抑えられます。

慢性炎症を抑える:慢性腎臓病では、サイトカインという炎症を促す物質が産生されます。慢性的な炎症が続くと、先ほどの「繊維化」が促され腎臓病が悪化します。ラプロスはそのサイトカインの発現を抑える働きがあります。

 

3.ラプロスの効果

効果のイメージ

今回新たに猫の薬として承認されたのは、研究により有効性が認められたからです(科学的な根拠についてはこちら)。その研究では血液検査で腎臓のマーカーが中程度に上昇している猫に投与したところ、半年の間に腎臓のマーカーが悪化しなかったと報告されています。

さらに、活動性、食欲などの項目でスコアをつけたところ、通常は腎臓病の進行に伴いスコアが下がりますが、ラプロスを投与した猫では食欲などが維持されたと報告されています。

 

4.ラプラスの対象になる猫

現在のところステージ2.3の猫に対してのみ有効性が示されています。このステージ分類はIRIS分類といって、血液検査のクレアチニンの値によって4段階に分かれます。

ステージ1.4に対して効果があるかは現在のところ不明です。この研究では1日2回の投与を行っており、副作用については1匹の猫で体重の減少と食欲減少がみられたが、因果関係は不明であったと記録されています。

 

5.まとめ

慢性腎臓病を抱える猫は非常に多く、メディアに報道されたこともあり、ラプロスについて問い合わせが多いです。ラプロスは腎臓の血流を増やし、炎症を抑えることで腎臓病の進行を抑える効果が示されました。最後にこの薬がなぜ注目されるのかと、誤解されやすいところをまとめておきます。

ラプロスのすごいところ

・腎臓病の進行を抑えることが科学的に証明された

これまで腎臓病の治療は療法食と、条件付きで効果を示す薬しかありませんでした。例えば、血液検査でリンの濃度が上がれば、リンを抑える薬、血圧が上がれば血圧を抑える薬などで進行を遅らせてきました。ラプロスはそういった条件はなく多くの猫が対象になる腎臓病のステージ2.3で効果が示されました。これは今までなかったことです。

誤解されやすいところ

・腎臓病を治す薬ではない

腎臓は一度壊れてしまうと、回復が難しい臓器です。人の医療でも透析療法や腎移植が行われるのは”回復しない臓器”という腎臓の性質が背景にあるからです。今回紹介した薬でも失われた腎機能を戻す働きはありません。

・全く新しい薬ではない

「新薬」と聞くと過剰に期待してしまうことがありますが、有効成分であるベラプロストナトリウムはドルナーとして、人の医療で使われていた血管を広げる薬です。また新しい薬なので慎重に投与しなくてはいけません。腎臓病の猫がいる方は主治医とよく相談してください。

参考資料:猫の慢性腎臓病に対するプロスタサイクリン誘導体製剤による新しい治療アプローチ