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猫の尿路結石のアウトライン

基本的に猫は犬や人間よりも健康な動物だといわれています。晩年は腎臓病やがんなどを患うことが多いですが、若いうちは殆ど病気をしません。10歳を超えていてもワクチン以外で動物病院に行ったことがないという猫ちゃんも多いでしょう。しかし尿路結石だけは別物です。1〜2歳の若い猫から高齢猫まで、まんべんなく発症します。慢性的に膀胱炎を起こすだけでなく、完全に尿道に詰まり尿毒症になると命にも関わる危険な病気です。

1.概要 2.検査 3.治療 4.予後

1. 概要

若齢から高齢までまんべんなく発症がみられます。雌雄ともにみられますが、雄で問題になることが多いです。雄猫の尿道は細く、S字に曲がっているため結石が詰まりやすいためです。早期に発見されれば予後は良好ですが、発見が遅れると命に関ることもあります。

アニコムどうぶつ白書2013より

1.1用語

本題に入る前にまぎわらしい用語について解説します。各用語は非常に似ていますが、違いを知っておくとよりスムーズに理解するための手助けになるでしょう。

結晶:ここでは結石になる前に小さい粒子を結晶とします。基本的には肉眼で見えませんが、猫トイレの中でキラキラと光ることがあります。尿検査(尿沈渣)で発見された場合は結晶を示しているでしょう。

結石:ここでは結晶が凝集し、肉眼でも見られるサイズまで大きくなったものを結石と呼びます。レントゲン検査やエコー検査で見つかった場合は結石のことを示しているでしょう。

尿道詮子:主な成分はたんぱく質であることから結石とは区別されます。ペニスの先っぽに形成され、栓をしてしまい尿がだせなくなります。尿路結石があると膀胱炎、尿道炎により炎症細胞や上皮細胞が大量にでることで尿道詮子が形成されやすくなります。

尿路:文字通り「尿の路(みち)」、尿が作られる腎臓から、尿の出口「外尿道口(がいにょうどうこう)」まで全体を示します。特に膀胱から外尿道口までを下部尿路と呼びます。

尿管:腎臓と膀胱を結ぶ管(くだ)です。左右2つあるので、片方の尿管に石が詰まっても症状がでないことがあります。人間の尿管結石は3大激痛(痛みが強い病気Top3)に挙げられることがありますが、猫では全く痛みを示さず、健康診断で偶然見つかることが多いです。

尿道:膀胱から出口までを結ぶ管です。尿道は1本だけなので詰まると、必ず症状がでます。メス猫は尿道が太いので結石がここに詰まることは非常に稀です。

膀胱:尿を溜める袋です。ほとんどの尿路結石は膀胱で形成されます。

FLUTD:猫の下部尿路疾患(Feline Lower Urinary Tract Disease)の略です。FLUTDは特定の病名ではなく総称です。尿路結石だけでなく細菌性膀胱炎、特発性膀胱、膀胱腫瘍など下部尿路の病気全般を示します。

1.2結石の種類

・ストルバイト:結石の種類で、リン酸マグネシウムアンモニウムとも呼びます。鉱物学に詳しかった外交官の名前から命名されたようです。猫の尿路結石で最も多いのがこのストルバイトです。ストルバイトは一般的に食事療法で溶けます。尿pHが高い(アルカリ性)のときに形成されやすくなります。

・シュウ酸カルシウム:猫の尿路結石で2番目に多い結石です。結石の発生割合は地域によって変化するので、シュウ酸カルシウムが最も多い地域もあります。シュウ酸カルシウムは一度形成されると食事療法でも溶けないとされています。

・尿酸塩:猫の尿路結成の5%前後を占める、比較的稀な結石です。痛風の原因になる尿酸(プリン体)と同じ成分です。

・その他:シスチン、キサンチン、シリカ、リン酸カルシウム(ブルシャイト)、ピロリン酸塩、血液結石など。

1.1.2 おまけ 猫の結石の割合の推移

1981年の調査では尿路結石の9割近くをストラバイトが占めていました。その後キャットフードの改良によりストルバイトの割合が減り、シュウ酸カルシウムが最も多くなります。しかし2007年には再度逆転します。現在ではほぼ半々の割合になっています。

これは2つの要因が関係しています。

1つはストルバイト用の療法食が普及し、ストルバイトが内科で治療できるようになり手術で取り除く頻度が激減したことです。調査するには結石を手術で取り出さなければいけませんので、実際の発生率は変わらなくても研究所に送られるストルバイトの数は減少します。

2つめはストルバイト用の食事がシュウ酸カルシウムの発生率を高めていた可能性があります。ストルバイト療法食の特徴として尿pHを下げる働きが、シュウ酸カルシウムの形成を助けていたと考えられます。その後さらなる研究によりストルバイト/シュウ酸カルシウム、両方に対応するフードが開発されシュウ酸カルシウムの発生率が下がり、再度逆転を起こしたと考えられます。

日本国内の報告ではストルバイト40.6%、シュウ酸カルシウム42.8%、その他16.6%と、世界的な傾向と同様であることがわかりました。(Felis vol.4)

2.検査

尿沈渣検査:採取した尿を顕微鏡で観察します。尿中に結晶が形成されいてると、この検査でみつかります。また結晶の形からどの種類の結晶か推定することができます。尿の採取から検査まで時間が経つと、結晶が形成されることがあるので注意が必要です。

尿性状検査:尿の色、尿比重、尿ph(ペーハー)、尿糖、尿タンパクなどを調べます。結石の種類の項でも触れたように、尿pHが高いとストルバイトが形成されやすいことが知られています。

画像検査:レントゲン検査、または超音波検査を行います。結石が形成されている場合、この検査でみつかります。画像検査では結石の種類までは特定できません。

レントゲン画像:膀胱に7個の結石が見えます

尿培養検査:尿路結石のリスク因子の1つに細菌感染があります。そのため尿検査と同時に培養検査を行うこともあります。培養検査とは文字通り細菌を培養し、どんな細菌がいるのか、またどの抗生物質が効果があるのかを調べることができます。

3. 治療

尿路結石の治療は食事療法がメインになります。結石の大きさ・種類、猫の状態、療法食への反応をみて内服薬や外科治療を検討します。

3.1尿路結石用処方食

基本的な特徴として低マグネシウム、低リン、尿pH調整、そして利尿を促すような工夫がされています。療法食で治療中は、他のフード、おやつ、牛乳などを与えないように注意しましょう。給与に際しては、必ず獣医師の指示に従ってください。

ストルバイト:食事療法により平均4〜6週間で溶けると報告されていますが、それ以上かかる猫もいます。ストルバイト結石と診断されたに関わらず、結石のサイズが小さくならない場合は混合型(他の成分が混ざっている)結石の可能性があります。

シュウ酸カルシウム:結石が形成されると基本的には食事療法では溶けません。

3.1.1 療法食の違い

昨今では1つの会社からも沢山の種類の療法食が発売されています。選択肢が多くなったいっぽうで、「違いがわからない」という声も多く寄せられます。代表的なロイヤルカナンとヒルズに絞って療法食の違いを解説します。

ヒルズ・コルゲート

ラインナップはs/d、c/d、c/dライト、c/dコンフォートの4種類です。

s/d:ストルバイトの溶解により重点を置いたフードです。c/dより早く溶かし、早く症状を軽減させる目的です。維持食ではないので治療後(結石が溶けた後)は他のフードへ変更しましょう。

c/d:尿路結石の治療、再発予防のためのフード。治療後も主食として継続的に与えても大丈夫です。つまり治療食、維持食としても与えられます。

c/dライト:尿路結石と肥満を併発している猫用のフードです。肥満は尿路結石のリスクを高めます。再発を予防しながらダイエットを行い、リスクを下げることが目的です。ストルバイト、シュウ酸カルシウムともに効果があります。

c/dコンフォート:特発性膀胱炎の治療を目的に開発されたフードです。コンフォートは英単語の「comfot」=「心地よい」から。特発性膀胱炎とは結石、細菌感染がないにもかかわらず膀胱炎の症状(血尿、頻尿など)が起こる原因不明の膀胱炎です。

特発性膀胱炎はストレスが原因の1つではないかと考えれています。c/dコンフォートはミルクプロテインとトリプトファンを加え抗ストレス効果を狙っています。尿路結石の猫に対してもc/dと同様の効果が期待できます。

ロイヤルカナン

ラインナップはpHコントロール0、pHコントロール1、pHコントロール2、pHコントロールライト、pHコントロールオルファクトリーの5種類です。

pHコントロール0:ロイヤルカナンのラインナップの中で最も結石の溶解に重点を置いているフードです。ヒルズのs/dにあたるフードといえるでしょう。

かつてはs/dのように維持食としては使えませんでした。現在では改良により維持食として使っても問題なくなりました。

pHコントロール1:ヒルズのc/dにあたるフードといえるでしょう。コンセプトとしてはよりストルバイトに対する効果に重点を置いて作られましたが、現在では改良によりシュウ酸カルシウムに対しても使用できるようになりました。

pHコントロール2:ヒルズのc/dにあたるフードといえるでしょう。コンセプトとしてはよりシュウ酸カルシウムに対する効果に重点を置いて作られましたが、現在では改良によりストルバイトに対しても使用できるようになりました。

pHコントロールライト:尿路結石と肥満を併発している猫用のフードです。肥満は尿路結石のリスクを高めます。再発を予防しながらダイエットを行い、リスクを下げることが目的です。ストルバイト、シュウ酸カルシウムともに効果があります。

pHコントロールオルファクトリー:より猫の食欲を刺激し、今までの療法食を食べない猫にも食べてもらう目的で開発されたフードです。オルファクトリーは英単語の「olfactory」=「嗅覚の」からです。猫の食欲をそそる香りがします。ストルバイト、シュウ酸カルシウムともに使えます。効果はpH0とpH1、pH2の中間に当たります。

pHコントロール+CLT:特発性膀胱炎の治療を目的に開発されたフードです。pHコントロールに加水分解ミルク蛋白(加水分解アルファS1トリプシンカゼイン)とL-トリプトファンを配合しています。マルチファンクションシリーズ。

pHコントロール+満腹感サポート:ロイヤルカナンのダイエット食、満腹感サポートと尿路結石食を両立したものです。食物繊維が増量されており食べ応えがあります。マルチファンクショシリーズ。

2社を比較できないので異なる評価記号を使いました。治療食:症状の改善、結石の溶解を目的に使う食事。維持食=症状の改善後、再発予防として使う食事。

↓2019年からリニューアル。(治療効果の優劣がなくなり、嗜好性も改善差がなくなったため項目を削除しました)

個人的にphコントロールという名称は、必要以上にpHが重要な印象を与える(尿pHが高いだけで心配される飼い主さんが多かった)のでリニューアルしてよかったと思います。

どのフードにするかは猫の好みで決まることが多いです。一般的にs/dやpHコントロール0は美味しくないらしく、c/dやpHコントロール1,2,オルファクトリーが猫に人気だと感じます。

理論的にはphコントロール1と2はそれぞれのコンセプトが異なりますが、改良を重ねた結果両方の結石に効くようになったのでほぼ同じ効果にと考えて大丈夫です。ストルバイトでもpH2の味が好きな猫であればpH2を選択して問題ありません。

3.1.2 療法食ではない「尿路結石に配慮したフード」について

既に尿路結石にかかり、治療または繰り返し再発する猫の予防を目的とした場合は療法食を処方します。具体的にはロイヤルカナン、ヒルズサイエンス、アニモンダ、国産ではJPスタイルなどです。

キャットフードを探していると大半のフードに「尿路結石ケア」「FLUTDケア」などの記載がみられます。ではこれらのフードはなんなのでしょうか。ラベルを確認してみてください。「総合栄養食」と書いてあればそれは療法食ではありません。あくまで尿路結石に配慮した総合栄養食であり、療法食と同様の効果は期待できません。

3.1.3 処方食を食べない場合

こちらの記事を参考にしてください→猫に療法食を食べてもらうコツ

もし全く療法食を食べない場合はウェットフードを検討してください。ウェットフードは水分含有率が高く、水分摂取量が増え尿が希釈され結石が作りにくい環境になります。結石の溶解は難しいですが、再発予防として処方食を食べない猫には効果的です。

3.2 膀胱炎に対する治療

痛み止め:排尿時の痛みがあると、猫がトイレに行きたがらなくなります。膀胱内に尿が貯留している時間が長くなりますます尿路結石の形成を助けてしまいます。

鎮痙攣剤:結石による詰まりを解除しても、炎症により膀胱の筋肉が痙攣して自分で尿を出せないことがあり、それを抑える目的で処方されます。具体的にはプロゾシン(ミニプレス)などです。

抗生物質:もし尿路結石と細菌感染が併発している場合は抗生物質による治療が必要になります。細菌が尿のpHを変化させ、結石が形成されやすい環境を作り出します。抗生物質の投与は数週間必要です。途中で投薬をストップすると耐性菌ができる原因になるので、調子が良くても休薬しないでください。

3.3外科的治療

「結石が尿管につまって、カテーテルで除去できない」、「石が溶けない」または「再発を繰り返し、生活の質を著しく下げている」場合は外科手術の適応なります。

尿路結石摘出術:問題を起こしている石を取り除きます。

会陰尿道造瘻術(えいんにょうどうぞうろうじゅつ):雄猫の尿道の細い部分を切除する手術です。再度結石ができても尿道に詰まることを防ぐ手術です。ペニスも同時に切除するので「女の子になる手術」などと説明されることもあるでしょう。

手術の際には手術の必要性、合併症を主治医とよく相談してください。

4 予後

予後とは今後の病状についての見通しで、進行具合を示します。一般的に尿路結石の予後は良好ですが、排尿ができなくなり尿毒症に陥ると命を落とすこともあります。血尿、繰り返トイレにいく、一回の尿量が少ない(猫砂の塊が小さい)などの膀胱炎症状がみられたら早めに動物病院で相談しましょう。また再発率が高い病気ですので、治療後も定期的なチェックと、食事療法を継続しましょう。愛猫が好きなフードを選び、無理なく続けましょう。

4.1再発予防

尿路結石のリスク因子として、肥満と運動不足があります。ダイエットも兼ねて運動させましょう。具体的には家の中で高低差を作る、おもちゃで遊ぶなどです。またトイレが汚いと尿を我慢してしまうので、常に清潔なトイレ環境を維持しましょう。その他には飲水量を増やす工夫をしましょう(詳しくはこちら)。

その他 よくある質問

ヒルズとロイヤルカナンどちらがいいですか?

猫の味の好みと体質によります。どちらも優れたフードですが、ある猫はヒルズだと再発する、他の猫はロイヤルカナンだと再発することがあります。猫とフードの相性があるように思います。まずは美味しそうに食べた方を与え、症状が改善しない場合は他のフードを検討しましょう。

健康診断で結晶が見つかりましたが、全くの健康です。どうしたらいいですか?

正常でも尿中に少量の結晶が含まれる猫がいます。基本的に症状がない場合は治療対象ではありませんので大丈夫です。ただし結晶が作られやすい体質ではあるので、療法食まではいかなくても下部尿路に配慮したフードを選ぶとより安心でしょう。