肝酵素とは文字通り肝臓の酵素で、健康診断の血液検査で測定できます。肝臓酵素の1つγ-GPTは人ではアルコール摂取でも上昇するので、γ-GPTが高いと、飲酒量を確認されるでしょう。しかし猫はお酒を嗜みませんので、生活習慣で上がることはほとんどありません。
また猫の肝酵素は半減期が短いことがわかっています。半減期というのは血中に分泌されてから、量が半分に減るまでの時間です。そのため猫で肝酵素が高いということは、持続的に炎症が起こっていることを意味します。なので猫の肝酵素が高い場合は、病気が隠れている可能性が高いと考えられます。
ただし、肝酵素は肝臓以外の病気でも上がります。以下、猫で肝臓の数値が上がる病気です。
このリストの中から病気を絞っていきます。肝臓以外の病気もあるので、まずは全身的な追加検査が必要になります。追加検査でも異常がない場合、細胞診検査に進みます。この中で、がんや肝リピドーシス、肝アミロイドーシス、銅蓄積症は細胞診検査で診断がつきます。
細胞診検査とは肝臓に針を刺すので、少ないながらも出血するリスクがあります。細胞診は麻酔をかけないで良い分得られる情報が少ないというデメリットがあります。さらに診断がつかない場合は、最終的には病理検査が必要になります。
肝生検は開腹もしくは、腹腔鏡で行いますが、いずれにしても麻酔はマストです。病理検査で診断されるのものは、がん、胆管肝炎や原発性門脈低形成などです。STEP2まで検査をしても原因が不明の場合は、これらの病気が原因の可能性があります。これらの病気について簡単に解説します。
・原発性門脈低形成(微小血管異形成)
この病気は生まれつき肝臓内の血管(門脈)が狭く、肝臓の血流量が低下している状態です。避妊去勢手術の術前検査で肝酵素上昇が判明し、継続的に数値が高い場合これが原因になっていることが時々あります。猫では稀とされていますが、病理検査機関で生検した病気の肝臓の7%が門脈低形成だったという報告もあります。
症状は幅があり、肝酵素が上昇しているだけのものから、腹水や高アンモニア血症による神経症状(ふらつき、発作など)が現れることもあります。残念ながら効果的な治療方法はありません。軽度であれば経過観察、重度の場合は食事療法や血中アンモニア濃度を下げる薬などの対症療法を行います。リスト中の門脈体循環シャントと区別するには、さらに追加でCT検査が必要になります。
・胆管肝炎
細菌感染が原因の好中球性胆管炎と、免疫が関与するリンパ球性胆管炎の2つがあります。
好中球性胆管炎:大腸菌や腸内細菌が胆管に入って感染症を起こしています。治療は抗菌薬です。細胞診でも好中球という白血球の仲間が確認できることがあります。
リンパ球性胆管炎:リンパ球が胆管周囲に集まり炎症を起こす疾患です。治療は免疫抑制療法(ステロイドなど)になります。リンパ球性胆管炎では線維化を起こしているため、細胞が取りずらく、細胞診では診断がつきません。他の疾患を除外しこの病気の可能性が高く、麻酔をかけられないときは、生検をせずに免疫抑制療法を行うこともあります。
・がん
多くは細胞診で診断がつきますが、がんができた部位、がんの種類によっては生検が必要になります。
具体的にはリンパ腫、肥満細胞腫、胆管がん、肝細胞がん、肉腫、腺がんなどが挙げられます。年齢としては10歳以上の高齢、多くは肝酵素上昇と同時に体重減少、元気消失などの症状を合併しています。治療方法はがんの種類によっては異なりますが、リンパ腫は外科ではなく化学療法の対象である点が他のがんとの大きな違いです。
まとめ
肝酵素上昇といっても、体調は全く問題がないもの、元気食欲が減っているもの、基準値から少しだけ高いもの、基準値の5倍以上の数値を示すもの、様々です。多くの場合は、追加検査と細胞診で診断がつきますが、中には生検まで必要なものもあります。
生検するかはリスクと検査メリットを天秤にかけて考えます。例えば、若齢で元気だけど軽度の肝酵素上昇(ALT180のみ、としましょう)が継続的に続いている場合を考えましょう。プロフィールからがんの可能性は低いです。代わりに原発性門脈低形成かもしれません。ですがこの病気には治療はありません。診断されてもやれることが経過観察しかなれば、生検までやるメリットは低いでしょう。
どこまで検査するかは猫の状態とプロフィール、他の検査結果などから総合的に判断する必要があります。必ずかかりつけの獣医師とよく相談の上、検査を進めてください。
参考文献
・Veterinary Oncology 2015 Oct