「猫が薬を飲んでくれない!」という問題は獣医療で最も頻繁に遭遇する問題の1つです。中にはどうしても飲めないので治療を諦めざるえない猫ちゃんもいます。
確かに猫は中々薬を飲んでくれません。無理に飲ませて味わってしまうとブクブクっと蟹のような泡が止まらなくなります。そして一度嫌な思いをさせると、薬を出しただけで逃げだすようになってしまい、ますます薬を飲ませるのが難しくなってしまい、悪循環に陥ります。
投薬は最初から誰もが上手くできるわけではありません、私も新人獣医師の頃は下手でした。毎回一発で短時間に投薬できるよう、いくつかのコツを紹介します。
まずは薬の種類から
メリットとデメリットを書きましたが、結局は猫との相性によってどのタイプがベストかは異なります。
錠剤を飲んだフリするのが上手い猫であれば、散剤に。散剤だと泡がとまらない猫であれば錠剤へ変更します。
特にどちらでも大丈夫であれば錠剤をおすすめしています。これは正確な量が投与できるからです。
投薬時は協力してくれる人がいれば抑えてもらった方が断然楽です。抑え方はこちらの保定の項を参考にして下さい。
1人で投薬する方法は近日まとめます。
錠剤、カプセルの飲ませ方
①利き手の反対で猫の頭を持ち上に向ける
このとき猫の頬骨を持つとやり易いです。鼻が75℃ぐらいの角度で持って下さい。45℃ぐらいだと投薬はまず失敗します。猫の首は人間の腕ぐらいあるので、結構力強いです。
頬骨の位置は目の真横です。よくあるミスとしては顎を持ってしまい、猫に嫌がられます。
②利き手で薬を持つ
私は親指と人差し指で薬を持っています。中指は口をあけるためにとっておきましょう。
③薬を持ったまま口を開ける
フリーな中指を使って、猫の切歯(前歯)に指をかけて口を開けます。猫の切歯は非常に小さいです。切歯なら咬まれてもそんなに痛くはありません。普通の猫なら1秒くらいは開けっぱなしにできます。
④薬を落とす
舌の付け根を狙って薬を落として下さい。投げ込んではいけません。垂直に顔をあげてればコイン落としのようなイメージで落下させることができるはずです。
⑤フォロー
しばらく飲み込むまでは利き手の反対を離さず上に向かせ続けて下さい。
薬とカプセルは口の中や食道に張り付き易いので少量の水を飲ませて下さい。水の飲ませ方は散剤、シロップを飲ませる方法と同じです。
猫の食道と薬の話
猫に飲ませた薬がどのぐらいの時間で胃まで到達するかを調べた人がいます。この研究では薬の後に水を全く飲ませなかった猫では、5分経っても36.7%の猫でしか薬が胃まで流れていないことがわかりました。
薬の後に水を飲ませた猫では1分以内には100%の確率で胃まで流れていました。この論文では薬の後に6mlの水を飲ます事で薬が食道につまったり、食道炎を起こす可能性を大きく減らすと報告しています。
(Evaluation of esophageal transit of tablets and capsules in 30 cats. J Vet Intern Med. 2001 sep-oct;15(5):467-70 )
投薬後は約5ml(約ティースプーン1杯分)の水を飲ませることが推奨されています。食道炎を起こすことが報告されている薬や、大きい錠剤では特に注意が必要です。
投薬後にバターを猫の鼻先につけて舐めさせると胃に到達する時間が短縮される、と紹介している研究もあります。水を飲ませるのが大変な猫では、この方法を試してみるのも良いでしょう。もちろんバターを与えすぎると太るので注意して下さい。
散剤、シロップの飲ませ方
準備
散剤の場合は水にときます。粉の量によりますが0.5ccの水にとけば十分です。あんまり水が多いと飲むのが大変ですし、誤嚥する危険性も増えます。薬をといた液体を注射器に入れます。
①利き手の反対で猫の頭を持ち上に向ける
錠剤の項と同じです
②注射器の持ち方
いわゆる注射も持つような方法だと、慣れないと薬の調節が難しく、一気に全部出てしまうのでおすすめしません。
子供が鉛筆を持つような握り方が調節しやすいのでおすすめです。
③犬歯の後ろに注射器を入れる
犬歯の後ろに注射器を差し込むと猫は口を開けてくれます。あまり無理にこじあけると歯肉を傷つけるので注意が必要です。
④焦らず投与
ブシュッと流すと半分以上が溢れてしまいます。落ち着いて流し込みましょう。また、量が多いときは特に誤嚥(肺の方に液体が入ってしまう)に気をつけてゆっくり流しましょう
④フォロー
錠剤と同様、しばらく上を向けたままにして確実に飲み込んだことを確認して下さい。
その他の工夫
動物用フレーバー付きお薬:一部の薬は猫用に投与しやすいように香りがついています。特に猫で使用頻度の高い薬は動物用薬が発売されています。処方されている薬の動物用がないか聞いてみましょう
タブポケット:オブラートみたいなものです。これの中に混ぜて味を隠します。噛んでしまうと中身がでてしまいます。
同様に好きなウェットフードやササミ等に混ぜて投薬することもあります。
投薬機:動物用の投薬器があります。どうしても咬もうする危険な猫に使いますが、投薬器を噛み切られて誤嚥してしまわないよう注意が必要です。
先端に薬を取り付けて、口の奥でリリースして使います。
シロップ、バター、マヨネーズ、ヨーグルトなどなど:これらの嗜好品に薬を混ぜるといままでの苦労が嘘のように飲み込んでくれることも。猫は舌の構造から甘味を感じないといわれていますが、実際シロップをあげると美味しそうになめます。ただしこれら嗜好品はあげすぎるとやはり体によくありません。糖尿病等の病気では血糖値をあげすぎるため状態を悪化させる事も、かかりつけの獣医師に相談してから試して下さい。
せっかく内服で良くなる病気であっても投薬ができないことで、回復に向かわないこともあります。治療中でもお互い投薬ストレスを最小限に、猫ちゃんとの良好な関係を維持したいものですね。
※強く抵抗する猫は獣医師でも投薬困難なことが有ります。飼い主さんが怪我をすることもありますので、あまり無理はしないで下さい。