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動物病院に行くと怒ってしまう猫 〜ストレスのかからない診察のためにできること〜

猫は動物病院に限らず、慣れない場所に行くことを嫌います。動物病院に行くと、いつもと全く違う愛猫の姿に驚いた方もいるでしょう。この写真のように「シャー!!」と威嚇する姿を初めて見たという方も少なくありません。

猫は警戒心が強く、単独行動を続けて来た動物なので人見知りな性格はある意味、自然なことです。動物病院でも、少しでも猫に良い環境で検査を受けてもらえるような準備をしています。そういった病院を「キャット フレンドリー クリニック」と呼びます。もちろん当院でも猫の専門病院としてキャットフレンドリークリニックを目指しています。

私たちも興奮させないように猫をなだめますが、やはりいつも一緒に住んでいる飼い主さんには敵いません。キャットフレンドリーな診察には飼い主さんの協力も不可欠です。今回は飼い主さんだからこそできる猫に優しい診察のポイントを解説していきます。

キャリーバッグ

まず猫を入れるキャリーバッグ、これが意外と重要です。猫をキャリーバッグから出すのに手間取るとそれだけで検査ができなくなってしまうこともあります。移動中はずっとキャリーバッグの中にいますし、タイプによってはすごく猫を入れ辛い、出し辛いものもあります。

そしてもしものときに猫が逃げ出さないないように頑丈な物がいいでしょう。デザインの良さも大事ですが、ここでは機能面で大切なことを書いていきます。

1上が開くor蓋が取れるタイプ

猫を出すときに横の扉から引っ張る方がいますが、それは猫がもっとも嫌がる出し方です。また横から出すときに、猫パンチが飛んでくると避けようがありません。

一番猫に優しいのは自分から出て来てもらうことですが、自分からでる猫は少ないです。そんな時は、上からゆっくり出すと興奮しにくいです。上からタオルをかけながら出せば猫パンチされることもありません。

また聴診や簡単な注射は蓋をとればキャリーバッグの中でできるので、天井が蓋になっているキャリーバッグだと猫を外に出す必要がありません。

蓋はネジよりも、バックルで固定されているタイプの方がスムーズに取り外しできますし、脱走されにくいです。

2素材

布製のキャリーはデザインが可愛いですし、素材も柔らかいので猫も過ごしやすいかもしれません。しかし型が崩れてしまうので、入れにくく出しにくいキャリーと言えます。ここではプラスチック性の固さがあるケージがオススメです。中が汚れてしまってもプラスチック製なら簡単に綺麗にできる利便性もあります。

以上のポイントをまとめるとこんなケージが理想的です。

上が開く+蓋はバックルで固定+プラスチック製

デザインの可愛らしさは布製に劣りますが、猫の出入りを考えるとこのタイプが最も良いです。

 

洗濯ネットは? 

洗濯ネットに猫を入れる方法は猫の動きが制限できるので、病院スタッフにとって安全性が高いです。ワクチンだけなら網目の隙間から接種できます。しかしキャリー以上に嫌がる猫もいますし、破れて脱走されると大変です。なので洗濯ネットだけに入れてくるのはやめた方がいいです。

基本はキャリーバッグ、もしあまりに暴れて獣医師に洗濯ネットに入れるよう指示されたならキャリーバッグ+洗濯ネットに入れましょう。

待合室での猫

他の猫と隣り合わない様、仕切りがあると望ましい

待合室では他の猫と隣合わせになることもあります。犬猫病院でイヌと猫で待ち合い室が分かれていない場合は、猫にとって初めて見るような大型犬と遭遇する可能性もあります。猫によっては人間はOKだけど、他の猫と眼が合っただけで怒りだす猫もいます。

できるだけ他の動物と接触しないように距離をあけましょう。キャリーにカバーをかけてあげると安心できます。カバーはキャリーバッグがすっぽり覆いかぶさればなんでもいいのですが、日頃その猫が好んでいるタオルなど、匂いが付いてるものの方がより落ち着かせることができます。

診察中での猫

問診中

問診中はまだ猫はキャリーバッグの中で待機していて大丈夫です。あまり早くキャリーからでると問診中に猫が飽きてソワソワし始めてしまうからです。初診の患者さんは予想以上に問診が長くなることがあります。

キャリーバックの向きはまだ獣医師側に向けないで、飼い主さんの顔が見える方に向けたままの方が安心します。

キャリーバッグから出す

問診が終わり、いよいよキャリーバッグから出ます。まずはドアを開け自分から出てくれる猫なのか、病院での猫のキャラクターを見極めます。

キャリーバッグを傾けると自ら出てくれる猫もいますし、上が開くタイプのキャリーバッグなら上から抱き上げると簡単に出すこともできます。横しか開かないタイプの場合で猫が興奮していると出すのに苦労することがあります。

猫のキャラクターによっては獣医師が出すより、飼い主さんに出してもらった方がスムーズに出せるのでお願いすることもあります。しかし力ずくで出そうとすると余計興奮して出ません。

まず絶対やってほしくないのが手を引っ張ることです。基本的に猫は引っ張られることが嫌いです。そして手先を触られることも嫌いです。

手を引っ張ると猫は嫌がって腰を引いて抵抗する

猫はキャリーバックの縁に引っかかろうとしますので、両手両足を下から支えるように持ち上げてキャリーバックの中で宙に浮かせるように出すとスムーズにいきます。

猫がリラックスして宙に浮いている

4本の脚を掴めば、ケージの縁に脚をひっかけられないのでスムーズにだせます。

実際はケージの中で行うので、こんな感じです

処置中

体重測定や、注射などの処置をするときは基本的には看護師と獣医師で行います。しかし飼い主さんと離れると不安になってしまう猫の場合は飼い主さんにお手伝いをお願いしています。

※お手伝いをお願いするときはこちらから申し出ます。猫が興奮している時に不用意に手を出すと、怪我しますので注意してください。

基本的な猫の抑えかた(保定)

動物を抑えて、処置しやすい体勢をとることを保定といいます。

猫の肩甲骨を上から手で覆います。このとき出来るだけ手を広げて猫と接触する面積を大きくするとより安心します。力はそんなにいりません、猫は不快感を感じなければ自分から逃げません。

猫は危機感を感じると上方向に逃げます。それを防ぐこともできます。この保定だけで歯のチェック、体温測定、注射など基本的な処置が可能になります。これができれば家での投薬も楽になることでしょう。

肩を優しく抑える

猫は指先を触られるのを嫌がるので、肘より先は触らない方がいいです。ついつい猫の手が動くと指先を抑えてしまいがちですが、猫の肩甲骨さえ抑えておけば猫パンチは出せません。

この状態では注射や体温測定はできません

 

処置中はあまり声をかけない

これも結構大事なポイントです。処置中に大きな声で「○○ちゃん!がんばって!」など声をかけると余計猫が興奮してしまいます。特に「だめ!大人しくして!」など叱っても、猫は犬とは違い、指示に従うという発想がないので怒られてもまず言うことを聞きません。声に驚いて余計怒ってしまいます。

声をかけるのであれば穏やかな声で名前を呼ぶか、「もう少しで終わるからねー」など近くに飼い主さんがいることを伝えて安心させてあげるような声色でお願いします。

あれだけ家では入るのを嫌がっていたキャリーも、処置が終わればスタスタと入っていきます。病院に行った日は頑張ったご褒美としておやつやおいしい缶詰をあげて下さい。

キャットフレンドリーな診察には飼い主さんの協力は不可欠です。病院嫌いの猫でも、これらの工夫でワクチンや体温測定がよりストレスをかけずにできるようになります。

今回モデルになってくれたサブレくん、ありがとうございました。

おまけ:事前に落ち着かせる薬を使う方法

ガバペンチンという抗てんかん薬を事前に投与することで、猫の恐怖心を下げることができたという論文が2017年に発表されました。

ガバペンチンはてんかん発作を抑えるほかに、ねむくなる傾向があります。これを利用してTNR(Trap捕まえる、Neuter不妊手術、Return元の場所に返す)という保護猫活動において、捕まえられた猫が不安と恐怖のストレスから健康を害してしまったり、手術後に大暴れしないように、薬を使って猫のストレスを減らせないか検討した研究です。

ガバペンチンを投与した猫は、投与されていない猫に比較して恐怖行動が減少したという結果が得られました。保護活動では人間に慣れていない猫が多いため、気が動転してケージに顔をぶつけて怪我をしてしまうたいます。そのためこういった研究はとても大事です。

この研究が動物病院にも当てはまるかは議論の余地がありますが、来院の一時間前にガバペンチンを飲ませると怒ってしまう猫も診察のストレスを減らせるかもしれません。

参照:Use of a single-dose oral gabapentin to attenuate fear resiponses in cage-trap confined community cats: a double blind, placebo-contorolled  filed trial.  JFMS 2017