日頃は大人しい猫でも爪切りだけは異様に嫌がることがあります。当院でも爪切りだけで定期的に来院される方がいます。必勝法というほどのものではありませんが、日々猫の爪を切っていく中で、気が付いたコツがあるので紹介致します。

0.切る場所

猫の爪の指に近い位置にはうっすらと血管が見えます(下図赤線。ここをクイックQuickと呼びます)。これを切ると出血しますので、そこから2mm以上先端を切りましょう。

前手の爪。2mm以上赤い場所(クイック)から離す。慣れないうちは攻める必要はないので、間隔をもっと伸ばしても良い
後ろ足の爪。前手よりも、直線的でどの場所を切れば良いか分かり辛いですが、赤い場所(クイック)から2mm離れて入れば安全なのは前手と同じ

1.道具

1.1ギロチンタイプ

爪に痛覚はありませんが、力が加わった時の振動を嫌がっているように感じます。そのためできる限り切れ味が良いものが良いでしょう。獣医業界では「廣田工具製作所 ネイルトリマー ZAN」がもっとも支持を集めており、私もこれが一番切れ味が良いと思います。犬用ですが、小型犬・中型犬用であれば猫でも使用できます。

 

中心に爪を通して切る。ヒゲを巻き込まないよう注意

 

1.2 ハサミタイプ

そのほかにはハサミタイプがあります。ギロチンタイプが苦手な方はこちらを選びましょう。猫の爪が伸びすぎて肉球に到達している場合(後述)、ハサミタイプじゃないと切れないことがあります。

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爪の先端をハサミの中心でカットする

 

2.切る順番

私は切る順番を決めています。猫は一旦怒り始めると大変なので、嫌がらない場所から順番に切って行きます。下の2点がルールです。

後ろ足→前手

多くの猫は前足の方が嫌がるため、先に後ろ足を切ります。後ろ足は関節の可動範囲が狭いので体勢を変えて切ります(後述)。

外側(小指側)→内側(親指側)

多くの猫は内側(親指側)の爪の方が嫌がるため、外側から切っていきます。前足は5本、もっとも嫌がるのは人の親指に当たる第一指になり外側に向かって第五指と呼びます。猫の後ろ足の親指(第一趾)が退化してますので、内側から第二、第三、第四、第五趾(し)と呼びます。

切る順番のおすすめ。①→⑨の順番で切っていく

3.切るコツ

切る時以外は爪に触れないようにしましょう。躊躇してなんども触れていると猫がイライラし始めます。また爪の先端には痛覚はありませんが、切る時の振動を嫌うようです。切れ味の落ちた爪切りはすぐに交換しましょう。

3.1 爪を出す

出典:Encyclopedia Britannica

猫の指先の構造上、肉球を押さないと爪が出てきません。この時もできるだけ小さい力で爪を出しましょう。猫の手の構造を理解しておくことが大事です。

4.抑えるコツ

4.1 前足を切るときに抑え方

一人で爪切りできる猫の方がむしろ少ないです。やはり誰かに抑えてもらいながらやった方が圧倒的に楽です。猫は四肢の先端を掴まれることを嫌います。そして、引っ張られることも嫌います。そのため、肘や膝の関節を掴み押し出すようにして抑えると良いでしょう。

 

4.2 後ろ足を切るときの抑え方

後ろ足は前足よりも足首の可動域が狭いため、無理に回転させると嫌がります。そのため、赤ちゃん抱っこか、横に倒して切ると良いでしょう。

いわゆる”赤ちゃん抱っこ”。後ろ足を伸ばすようにアシストしてもらうとより切りやすい。
横に倒して切る方法。こちらの方が活発な猫でも抑えることができる。口が出る場合はタオルで顔を包んでも良い。

4.1 猫袋を使ってみよう

 

モデル:カツオ 5.5kg 猫保定袋 大(青)。5kg以下の猫は小(赤)の方が使いやすい

どうしても抑えることが難しい場合や、抑える人がいない場合は「猫袋」または「みのむし袋」と呼ばれているものを使ってみるのも良いでしょう。特にムズムズ動いてしまうタイプの猫ちゃんにはおすすめです。

当院では「富士平工業の猫保定袋」を使っています。これは非常に強度が高いのでおすすめですが、残念ながら一般販売はしていないようです。

 

一般販売されているものでは、猫袋やさんの「帆布の保定猫袋」が柔道着のような素材で十分な強度がありおすすめです。

5. 爪切りのトラブル

5.1 出血してしまった

誤まって上記のクイックという箇所を切ってしまった場合出血します。爪の出血は止まりづらく、そのままにしていると床の広範囲に血がついてしまいます。出血した場合は清潔なガーゼを当て10分間圧迫してください。ほとんどの場合それで止まりますが、それでも出血が続く場合は動物病院を受診してください。

5.2 爪が肉球に食い込んでいる

 

ほとんどの爪が肉球まで到達してしまっている。歩く時にカチカチ音がする。

高齢猫で多いケースです。猫の爪、特に前足の爪は孤を描いて伸びるため1回転して肉球に刺さっていることがあります。高齢になると爪研ぎをしなくなるために起こります。

既に突き刺さっている爪を切るのは痛みが強く噛みつかれる危険性があり、また化膿している場合は消毒が必要になるので、動物病院で切ってもらいましょう。

カットした後の伸びすぎた爪

6.最後に

今回紹介したポイントを押さえれば爪を切るのがグッと簡単になるでしょう。最後のコツはささっと迅速に切ることです。これは慣れが必要ですが、猫は飽きやすいので、短い時間で終わらせることは動物病院で行う処置でも意識しています。そして、本当に嫌がる猫はお互い怪我をしてしまう危険性があるので決して無理をせず、動物病院またはトリマーさんに頼みましょう。

“獣医師が教える猫の爪切り必勝法” への5件のコメント

  1. 猫の爪切りに皆さん苦労なさっているのですね。家の猫は捕まるまでが大変ですが(笑)赤ちゃん抱っこで、一足5秒です。
    一般的な日本式の(?)爪切りの小さいので切ります(裁縫セットに入っていた)。爪切りを爪に対して縦にして切ると、ひび割れしにくいようです。
    先生にご相談したい爪の悩みは、爪かみです。後ろ足の爪を白くなるほど指しゃぶりのように舐めています。ストレスでしょうか?
    4歳、ミックス、♀、一頭、完全室内飼いです。

  2. 初めまして、先日動物病院で6カ月の子猫の爪を切ってもらったのですが、結構乱暴に扱われて、血管まで切られたので、今後は自分で切ろうと思いこのサイトにたどり着きました。とっても分かりやすくてありがたかったです。これを参考に爪切り頑張ってみたいと思います。

    それで、獣医師さんという事で、ちょっとお聞きしたいのですが、私は猫を飼うのがはじめてで、猫の爪切りが苦手で病院でお願いしてたのですが、かかりつけのその先生はあんまり確認もせず脚をぐいぐい引っ張りバチバチ切ります。今回で3回目だったのですが、前回の時にもちょっと乱暴だなとは思ったのですが、出血しなかったので、今回はまばらに長かったのでよく見て切ってもらいたかったですが、相変わらずぐいぐい引っ張りバチバチそして、診察台に血のが…猫もいたかったみたいで身体が急に固くなってしまって震えてしまいました。他の爪も血がにじんでたり、結構ぎりぎりで、私がびっくりして「血が出てます!」といったら、確認して「もう止まってるから大丈夫ですね」と軟膏を塗ってくれましたが、病院での爪切りはそんなものなのでしょうか?出来たらなるべくストレスをかけたくないので病院で切ってもらってたのですが、これから避妊手術も行うのでちょと先生に不信感を持ってしまいました。たかが爪切りなのかされど爪切りなのかご助言頂けたら幸いです。宜しくお願いいたします。

  3. はじめまして。
    ねこは前足の方が嫌がるんですね!
    うちの子はいつも前足はスムーズなのに後ろ足が嫌がるので難儀してました。
    今までなんとなくでホールドしてましたが後ろ足をやる時はこの方法試してみます!

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