集団生活をしていた犬の祖先と比べて、猫の祖先は単独生活をしていたため「猫をしつけることはできない」といわれます。確かに猫は人に褒められるために努力をすることはなく、また叱られたからといって反省するという発想がありません。猫に「反省」という概念を教えることは極めて困難です。

そのため、やって欲しくない行動をした時は霧吹きで水をかけたりして、「あれをやったら水が飛んでくる」と学習させる、さりげなく障害物を置いて自然と猫の居心地を悪くする、などが猫のしつけの基本的な考えになります。猫は常に自分が主役です。怒られてもびくともしませんが、自分にとって不愉快なことがあれば自然とその場所には近寄らなくります。

反対に猫にとって嬉しいことがあれば、そのためにはある程度の我慢をすることはできます。猫にとって嬉しいことというのはとてもシンプルで、ズバリ美味しいものがもらえることです。これを応用すれば猫にも芸を教えたり、しつけることは可能です。その代表的なものがクリッカートレーニングです。

1.クリッカーって何?

2.クリッカートレーニングをやってみよう

3.クリッカートレーニングの実例

 

 

1.0 クリッカーって何?

クリッカーとはトレーニングに使う道具です。手のひらに収まるサイズで、ボタンや金属板がついており、それ(写真の緑ボタン)を押すと「カチッ」というクリック音がします。この「カチッ」という音とご褒美を利用して猫にしてほしいことを伝えるのがクリッカートレーニングです。

1.1 なんでクリッカーを使うの?

トレーニングに必要な音の特徴
・誰が押しても同じ音がなる
・他の生活音と似ていないので区別しやすい
・猫にとって嫌な音ではない

クリッカーについているボタンは誰が何回押しても同じ音が出ます。このいつも同じということが大切です。それによって猫は良い行動とクリック音を結びつけることができるようになります。

また、合図の音が日常生活でよく聞く音に似ていてはいけません。猫にとっては今の音は合図だったかのか、そうでなかったのかという混乱のもとになります。普段聞くことの少ない音で、さらに猫にとって嫌な音ではないということも大切なポイントです。そのためにクリッカーを使います。

こちらがしてほしい行動を猫がした時に、クリッカーを鳴らして、今やったその行動が正解だよと教えてあげるのがクリッカーの役割です。

1.1クリッカートレーニングのメリット

クリッカートレーニングは日頃の猫の生活に良い刺激を与え、運動不足の解消、飼い主さんとのコミュニケーションになります。攻撃的で活発すぎる猫を落ち着かせたり、ソファで寝てばかりの老猫が若い頃のように活発になる刺激になります。

頭のトレニーニングとしても徐々に難易度を上げていけば猫も達成感を得ることができます。狩りができない家の猫でもそういった刺激を与えることは非常に大切です。そのためクリッカートレーニングは猫にとって幸せな環境づくり、環境エンリッチメントの1つに含まれます。

(環境エンリッチメントについて詳しくはこちら

 

2.0 クリッカートレーニングをやってみよう

それでは実際にクリッカートレーニングをやって見ましょう。順を追って解説します。

準備

準備するものはクリッカーとおやつです。クリッカーは数百円で購入できます。おやつは何回もあげるので1個が小さくないとすぐにお腹いっぱいになってしまいます。オススメはササミのフリーズドライです。これをあらかじめ小さくほぐしておきましょう。

チュ~ルなどの液状おやつは素早く出せないのでクリッカートレーニングには合わないかもしれません。

STEP1 クリック音に慣れさせる

まずはクリッカーを鳴らし、そのあとすぐにおやつを与えます。この時猫に声はかけません。必ずクリッカーを鳴らしてからおやつの順番です。この順番が大切です。クリッカーの音がするとおやつが出て来ることを猫に覚えさせましょう。

STEP2 猫の自然な習性を利用してトリックを教える

クリック音とご褒美が結びついたら次は何かトリック(芸)を教えてみましょう。今回は「お手」でやってみましょう。

まず最初は、猫は指を差し出すと匂いを嗅ごうと鼻をつける習性があるのでこれを利用します。棒(ボールペンなどでok)を持ち、猫に差し出して猫が棒に鼻をつけたらクリックしてご褒美です。

これを何度も繰り返します。クリックのタイミングがとても大切です。してほしい行動をし終わった時ではなく、している時にクリックします。

そのうちに猫はクリッカーをもった人と一緒にいるとおやつがもらえることを学びます。一緒に座っていると手を出してちょうだいと触って来るようになります。始めは先ほど使った棒に触らせます。棒に触ったらクリックしてご褒美です。

STEP3 徐々にトリックに動きを近づける

今度は棒を自分の手のひらにつけて差し出します。このステップも何度も繰り返します。できるようになったら猫が棒に触るタイミングで素早く棒を外して手を猫に触らせます。そしてクリック、ご褒美です。

手を差し出して触って来るようになったらこの段階で「お手」というキュー(合図)を入れます。言葉を入れるのはトリックができるようになってからです。最初は言葉と動作が結び付いていません。動作を教えてできるようになってから言葉などの合図を導入します。

2.1 トレーニングのコツ!

・場所:他の猫や人に邪魔されない静かな場所で猫と2人きりになりましょう。色々な音があるとSTEP1の時に混乱してしまいます

・時間:猫の集中力は持続しません。猫が飽きる前に休憩を挟みましょう。無理に付き合わせてはいけません。通常1セット5分ぐらいです。

・クリッカーは隠しておく:クリッカートレーニングが終わったら、クリッカーとご褒美はきちんとしまいます。猫が勝手に触って音が鳴ったのにご褒美がないという状況を作らないためです。

・猫の適性:やはり猫の性格によって不向きな猫もいます。食に対する反応が弱い猫はご褒美でつれないので難しいです。反対に強すぎてもクリッカー関係なく、おやつの匂いに突進してくるので難しいかもしれません。

3. 実例その1 ホタテandハモ

当院のホタテちゃんとハモちゃんにもクリッカートレーニングをしています。ハモちゃんは前述の方法でお手を学んでいます。ホタテちゃんは指差された台にのることを学んでいます。ソファや台を指差してのったらクリック、ご褒美です。

乗ったのでおやつをくれという顔

これを繰り返していると指を見ると付いて来るようになりました。台にのって、そのとなりの台に移って上ったり下りたりを繰り返しながら指についてきます。ケージに戻すときも簡単に誘導できるようになりました。

 

これをマスターすれば入って欲しくない部屋から出すのも簡単

 

実例その2 海外のスーパーキャットCASHMERE(カシミア)ちゃん

この動画は海外の少年が夏休みの自由研究で猫にクリッカートレーニングを行ったそうです。クリッカーを応用すればこんなに複雑な動きを覚えることができるんですね。とにかくこの少年の猫愛が伝わってきます。

まとめ

実際にやって見るとわかると思いますが、クリッカートレーニング中、猫はどうすればご褒美がもらえるのか考えるようになります。室内で飼われている猫は日常に刺激が少ないですから、クリッカートレーニングを通して頭を使ったり、身体を動かしたりしてご褒美がもらえてしかもオーナーさんとコミュニケーションもとれます。猫にとっても私たちにとっても楽しい時間です。愛猫とのコミュニケーションの一環としてチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

 

参考資料

・猫のクリッカートレーニング 二瓶社

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